第二鳴「ハイド」
「ここが西部…!」
入国を済ませると、中部とは異なって
白い壁、アクセントの青いタイルに沢山の水路、
空が本当に似合う街並みが見えた。
「すごい都会っぽい…!こんな家見たことないし、
道もこんなに滑らかだ!!ハイドはこんな所に住んでるの?」
「そうだよ」
少し浮かない顔をしながら青髪の青年は答える。
そのハイドの顔に違和感を持ちつつも、
やはり見たことの無い景色に清龍は喜びはしゃいでいる。
中部のがやがやした人混みとは違う
西部の街並みには賑わい方に多少の
気品が感じ取れる。
「ハイドの家は何処にあるの?どんな感じ??」
わくわくと顔を輝かせる清龍に、ハイドは苦笑いしながら答える。
「もっと遠くの静かな所さ。
馬鹿なくらい距離があるが、歩けるかい?」
「!?……余裕だよ!!」
一瞬、まだ歩くのかと青ざめた顔をしつつ強気に出る。
その強がりを笑って返すハイドであったが、
実を言うと、彼自身は羽で飛行が可能である。
つまりは歩いて移動なんて事はする必要が無かった。
わっせわっせと歩いていく清龍をまるで親鳥の様に
見守りながら歩幅を合わせていく。
「そういえば清龍はいまいくつぐらいなんだ?」
「んーとね、14歳だったかな?」
「なんで曖昧なんだ」
「誕生日が分からないんだ、俺。ところでハイドは?」
「あ、あぁ、俺は16歳だよ」
誕生日について若干の申し訳なさを顔に出しながら
ハイドは清龍に目を向けた。
(年の割に)でかくね?と清龍は頬を膨らませる。
チビ助、といじってやると弟が出来たみたいで何となく
ハイドはほっこりした。
思っていたより清龍の体力があった事に驚きつつ、
あともう少し歩けば家に着くと言う時に、
ハイドの見聞きしたくない光景が行く手を遮った。
不意にハイドの足が止まる。
「……ハイド?」
緑の髪をなびかせながら清龍が振り向くと、そこには
冷や汗をかいた、俯いた青い龍がいた。
「ヤダっ、ドラコーン家の人型じゃない?」
「王家に仕えてるっていう?龍の人型って災いを呼ぶって聞くわよね」
「何年か前にこっちの方に引っ越してきたって
聞いたけど、本当だったのね、あー、ヤダヤダ」
主婦であろうキツネの3匹はこちらを見ながら、
わざわざ聞こえるように悪口を言った。
「…!!そんなこと…!」
清龍が3匹に弁明しようとすると、ハイドが慌てて止める。
「良いんだ…行こう」
そう言って掴んだ手には、心做しか力が入っているように
思えた。
*
「ちょっと、待ってよ、ハイド…!!」
「…! あぁ、ごめん」
いつの間にか荒く肩を上下させている清龍を見て、
我に返ったのかハイドは青ざめる。
鱗のある尻尾はぐったりしていて、荷物類は肩から半分
ずり落ちていた。
「…なんで言い返してやらなかったんだよ」
清龍の顔色を見ようとかがみ込んだ、申し訳なさそうに
耳を垂らしているハイドの両頬を思いっきりスパァンと
叩いて言う。
「…へ?」
何をされたのか理解が追いつかなかったのか、
急に怒っている清龍の顔をぽかーんと見つめる。
あんだけ酷く言われてなんで怒らないんだ、だとか、
なんで止めたんだ、だとかブツブツと言い、
背後にゴゴゴゴゴという効果音がつく程に清龍は怒っている。
「えと…ごめん??」
「″ごめん″じゃなーーーーーい!!」
「えええええ!?」
清龍がヘッドショットをかますと、
たまらずハイドは尻もちをつく。
俺は逆鱗に触れたのか?と思っていると、清龍は話し始める。
「俺は…俺はハイドに謝ってほしいわけじゃない。
ハイドの事、よく知らないのによく知ってるふりして
首突っ込むのも良くないって思ってる。でも、でも…!!」
でも、だから、ええと…と、急に清龍がどもる。
しばらく彼の間で葛藤があったのか、おどおどとするが、
考えがまとまったのか、静かに話し出した。
「えっと、多分俺達はもう友達なんだよ。
友達が悪口言われてたら、言い返すのが普通なんだよ。
だから君が言うべき言葉は謝罪じゃない」
すとん、と腑に落ちたのか今までの自分の不思議な行動に
名前がついたのか、垂れていた耳は直り、
再び清龍と目線を合わせると、ハイドはフッと笑う。
「そっか、じゃあ、ありがとう、だな」
わざわざ自分の家に招待したのも、わざわざ歩いて帰ったのも、
多分仲良くなりたかったんだな、と
自分もまだ子どもっぽいな、と思った笑顔である。
「!!」
それ!!と目を輝かせる清龍。
あぁ、やっぱりこの子の方が子どもっぽいやと感じながら、
目の前の自宅に向かった。
*
「んでさぁ、話を蒸し返すようで悪いんだけど、
さっきのって、結局なんなの??」
「あぁ、俺、嫌われてるんだ」
「端的すぎる…!」
テーブルにアイスハーブティを並べて話す。
清龍は足をぷらぷらさせながら、もっと詳しく説明しろ、
とでも言うかのように目で訴えかけた。
「俺は俗に言う西洋龍だ。西洋龍は獣型が基本で、
人型が産まれると災いが起きるって言われてるんだ。
話の大本は東洋龍の絶滅に起因してるらしい」
「?……絶滅してないよ??」
「俺も変だなって思ってた。絶滅したと聞いているのに、
目の前に東洋龍がいるんだもんな」
そう言うとハイドは本棚から1冊の本を取り出した。
ペラペラとページをめくると、絵があるページが何枚か
存在している。
「普段はあまり読まないんだが…あぁ、これこれ」
「西洋龍と東洋龍の違い…??先祖?」
ハイドは口に出して読む。
「″大昔、とある黒い龍が多くの生物を生み出した。
私達はこれを神と崇め奉るだろう。黒い龍に似た生物は
龍と名付けられ、2種類ある。ひとつは西洋龍。黒い龍の
フォルムに羽がついた進化型で、人型と獣型がある。
もうひとつは東洋龍。黒い龍と同じフォルムで、
獣型は観測されていない。これより、神に近い血筋は
東洋龍であることがわかる。では何故東洋龍が途絶えたか
という話であるが、それについてはこの世界を守る
十二支の巻物に記述しよう″と書いてある」
「んで、その十二支の巻物は?」
「王家にある」
「うん…………え!?」
王家って、あの王家??まじか、という顔をする清龍。
たいした問題じゃない、とハイドは返答して、
菓子棚からクッキーを取り出すとため息をつきながら
んまぁ…と話し出す。
「巻物は王家にあるけど、内容は噂になって出回ってるんだ。
残念な事に、人型の龍たちは病気に弱かったんだと。
それで、人型の龍は全滅。獣型だけが生き残り、
今でも人型の龍は忌まれてる。迷惑な話だよ」
「そっか…人型の龍は他に居ないの??」
いるぞ、と言って今度はポケットから写真を抜く。
「俺の祖母も人型なんだ。病気ひとつせず、
外見は若いまま老いず……不思議な人だったよ。俺にも
優しくしてくれたけど、最近、
黒い龍を追って出ていってしまった」
「黒い龍…!!いたの??ここに??」
ガタッと清龍が勢いよく立ち上がると、背丈に合わない椅子は
案の定倒れた。ズッと顔を近づける清龍を抑えながら
歯をギリギリさせてハイドは答える。
「あぁ、居たよ。いかにも東洋龍らしい黒いのが…!!」
目を険しくするハイドとは正反対に、清龍は嬉しそうに
手をとる。ハイドは清龍の笑顔の意味がわからなかったが、
その答えはすぐに本人から飛び出した。
「俺はその人を探しに西部に来たんだ!!」
ズキっと頭が傷んだ。ハイドの顔が一瞬歪むが、清龍は
気が付かずにそのまま続ける。
「その黒い龍、多分俺の師匠だ!!」
「し、しょう…?」
唖然とするハイド。彼の心うちが非常に複雑であることを
清龍はまだ気づいていないのだった。
めっちゃ激のろ更新で申し訳ない…!!
多分次回更新も激のろです…!!
大学生になりましたが、理系は学年が上がる程
ハードモードになるそうです…
もう現時点でだいぶキツイんですけど…!!
構想自体は5年前とかそのくらいには出来てたので
簡単にはエタらないと思うんですけど、文字にするのが
非常に苦手でして、まぁ書いてみないとわかんないよね
って状態です。頑張ります。