第一鳴「手始めに西部へ」
この小説は、死生神(https://ncode.syosetu.com/n9308el/)と最終的に繋げようと思っている話です。小説の後半、キャラクターがいり混ざったりしますが、ご了承ください。(しばらくは混ざりません!)
死生神と更新ペースは合わせたいですが、何年もかかると思いますし、くっそノロマ更新ですが、気長にお付き合い下さい!!
*とある東の最果てに1匹の黒い龍がいました。
親もなく家族もなく、更には友達も居ませんでした。
彼の持つ記憶は白い母の顔と生まれた理由。
赤い太陽の登っている間は生まれた役目を全うし、
黒い夜に包まれた白い月が出る度に鳴きました。
いつしか彼は立派な龍になりました。
母の持つ力の一部を受け継いでいることに気が付きました。
母の力は創造の力。
彼は自分以外の生命を生み出しました。
彼はもう1人ではありませんでした。
毎日仲間に囲まれて、幸せそうに見えました。
しかし今でも東の果てでは、夜に鳴く声が聞こえるそうな*
〈これはそんな話が言い伝えられる世界の緑の龍の話〉
「すみません、西部に行きたいんですけど」
急に少年の声が聞こえて、
中部街の物売りは顔を上げる。
少年はやけに大きなフードを深く被っていた。
「見ない顔だな、おめぇ、中部は初めてなのか」
物売りは丁度整理していた空瓶を少年に向けた。
「何年か前に1度来たことは。…変わりましたね。」
少年が空瓶を手でのけると、
物売りはその瓶を紐に括りつけながら答える。
「ここは1ヶ月もすれば、3分の1くらいの店が
ガラリと変わっちまう。
中部は大商店街、まぁ商店街と
言うには大きすぎるんだが。
人の移動も、商売も、盛んったらありゃしねぇ」
物売りは次にプラスチック片を仕分けしながら続ける。
「こんなガラクタでも、売れる時は売れるもんよ。
…ところで、西部だったな、
あそこは西部出身以外の者の入国は厳しくなってて、
西部出身が連れに居ないと、最低でも1週間は
検査されるそうだ」
「そんな!急いでるのに!」
少年の声音が変わったのを合図に、
物売りは身を乗り出す。
「そこで物は相談って訳だ。おめぇさんが
この古本と、あともう1つなんか買ってくれたら、
おめぇにとっていい情報ってやつを教えてやる」
物売りは表紙に絵のある古本を見せながら、
どうだい?という手振りを見せる。
少年は首を横に振って言う。
「生憎、その本の話は知ってます。あと、貴方の言う
情報が、どの程度役立つかもわからないので…」
物売りは諦めずに返す。
「ところがな、この古本の内容は、他の所で言われる
話とは少し違うんだ。内容がまるで目の前で見てきた
かのように細かく、より現実だ。
それに、俺が教える情報は、少なくとも今のおめぇの
知識よりは役立つ筈だ。なんせ中部のことだからな」
押しの強い物売りに、少年は若干悩みながらも、
仕方なく、といった体で交渉に応じる。
10銅鱗を支払い、少年が古本を受け取ると、
物売りはなにかが書かれたメモのようなものを渡す。
「おめぇさんが早く西部に入るには、誰かの連れに
してもらう他ない。丁度さっき西部で有名な一族の
龍を見かけたから、そいつに頼みな。
そこに書いてあるのはそいつがよく行く店の場所と
そいつの特徴さ」
「わかりました、行ってみます。」
「気をつけろよぉ、ここは治安ってのが
あんまり良くねぇからよぉ」
少年は一礼すると、小走りをして行った。
少年が人混みに埋もれた頃、物売りは少し長めの
独り言を言った。
「にしても、綺麗な緑の龍だったなぁ…
隠してるつもりだったろうけど、あんなんだと、
ここじゃ攫われちまってもおかしくねぇ。無事に
西部のあいつと会えると良いんだが」
*
「白目が黒の…蒼目…?」
とりあえず場所を確認した少年は、
そこに向かいながら、メモを見ていた。
彼が向かうのは中部のオアシスとも
呼ばれる水の園である。中部は国土の大半を
砂漠で占めている。そのため、夜は寒く昼は暑い。
治安も悪く、獣人の売り買いも盛んなのだが、
それは彼の知る所ではない。
「大きな羽、長い青の髪に黒い角…」
メモを見ながら小走り気味にしばらく行くと、
緑の木々に白い建物が見える。水の園である。
「…!見えた!あれだ!」
人混みを小さな体躯で駆けていくと、中央部で騒ぎに
なっているのがわかる。僅かに異臭がする。
少年はあまりの人の多さに驚きながらも、
なんとかざわざわとする人混みを抜けた。
「え…なに、これ…」
彼が見たのは、砂漠に染む赤黒い血と、縄で縛られた
人型の白兎の雌、刃物を持つ獣型の狼だった。
それを中心に囲むように人混みが出来ていたのだ。
白兎は腕の付け根を切りつけられており、
ロープは肉にくい込んでいる。意識は無さそうだ。
物売りの『治安』という言葉が頭をよぎる。
ギロりと周囲を一瞥する狼の視界に、少年が入る。
すると、ニタァ…と狼は笑う。
「おいおいおい、なんて小さな緑の龍だよ!!
これは高く売れるなァ?っはは!!」
「…え」
口角を裂けんばかりに上げ、高笑いをする狼は、
軽い足取りで少年に向かってくる。
群衆は少年から距離をとるように離れ、
固まった彼を動かそうとする者は
誰一人としていない。
「ぼうやァ?おとーさんと、おかーさんは
どこにいるのかなァ?…なんて、こんな物騒なとこで
1人なんてよォ、攫ってくれと言ってるような
もんだぜ!!」
掴みかかるように狼が手を振りかざす。
根を張った足を動かす術もなく、
少年は身体を強ばらせ、目をぎゅっと瞑る。
その時だった。
「…大丈夫?」
狼の手は空を切り、少年は持ち上げられた。
ひょいと持ち上げた当人は、少年を後ろに下ろして、
視線は狼のまま、少年の頭をがしがしと撫でる。
少年が恐る恐る目を開けると、
青髪と大きな羽が見えた。青い龍だ。
「ここは相変わらず治安が悪い。警備隊は常時
配置しておくべきだ、なっ」
青髪の青年は狼の腹を蹴り上げ、尻尾で殴り落とした。
「!!お前!西部のドラコーン一族の呪われた子か!!クソッ」
狼は地べた這いつくばりながら地を叩く。
「お前は悔しくないのか!?故郷から疎まれながらも、王に仕えて。王宮内でも陰口が耐えないらしいなァ。
…だからか?オレ達みたいなのを取り締まって、
その鬱憤を晴らしてるっていうのか!?」
痛みが引かないのか、狼は一向に立ち上がらない。
立ち上がらないが、精一杯の声で糾弾する。
青髪の青年は、無表情のまま、狼に近づいた。
「…否定はしない。が、俺はただ、お前が他人を傷つけて
騒ぎを起こしているから捕まえに来ただけだ」
慣れた手つきで狼を縛ると、警備隊が数人寄ってくる。
「…王はここの整備もするつもりだ。他国との協力
次第だが、中部は確実に変わるよ。
お前達の暮らしも変わってくるだろうな」
狼は警備隊に引き渡され、白兎は西部の病院に連れ込まれた。
その間、青い龍に用事のあった少年は、水の園の
噴水の横で青い龍を見失わないよう、
静かに待っていた。
青髪の青年は警備隊のうち1人となにやら話をして、
軽い挨拶をすると、少年の方へ歩いてきた。
「君、怪我はない?」
「ないです。ありがとうございます」
「それは良かった。気をつけて帰りな」
「あ、待って…!」
青髪の青年が立ち去ろうとした所を、
少年は慌てて引き止める。
「ちょっと話があるんです、聞いて欲しい事が。」
「ん?…わかった、じゃあ場所を変えようか、
長い話のような気がする。」
青い龍は緑の龍の手を引いて、水の園の食事処に
向かって行った。
*
「さて、今日は俺が休みで良かったな。
…俺に直接の用事なんて、君も変わり者だ」
昼過ぎ。昼食の時間より少し遅いご飯を頼んで、
青髪の青年は言った。
少年は、急いで西部に入りたい事、
物売りに教えて貰って来たことを伝えた。
少年の言葉は時にたどたどしい敬語になったが、
青年は相槌を打ちながら聞いた。
少年が話し終わると、頼んだ昼食が届いた。
青年の前にミートパイ、少年の前にカレーが置かれ、
グラスには氷入りの水が注がれた。
「へぇ、あの物売りがねぇ?あいつはちょっとした
ホラ吹きな性格があって、警備隊も手を焼いてるんだ。
確かに西部の警備は厳しくなったけど、
最低1週間の検査は言い過ぎだ。せいぜい3日だよ」
「んな…」
少年がむせると、無言で水を渡す。
青年は既にミートパイを食べ終わっていた。
「まぁ、西部出身が居ればっていう
話は本当だ。種族のこともあったし、俺が適役なのも
なんとなくわかる。運がいいな。」
「っ、じゃあ、付いてきて貰えるんですか?」
青年は少し唸ってから、よし、と机を軽く叩く。
「今晩、俺の家に世話になるなら承諾する、
宿も取れるかわからないからね」
「…わかりました。お世話になります」
少年がカレーを食べ終わっても、しばらく2人は
世間話をしたりと、話を続けていた。
その会話の中で、少年は青い龍の名前、青年は緑の龍
の名前を得て、少年は敬語を崩した。
少年は振った炭酸の入ったカンの栓を開けたように
一気に話し出した。敬語で詰まっていた言葉が
止まらず流れ出した。
青年はそれに驚きながらも、相槌を打ち、時に
質問をした。先程より口数が減ったが、
少年が補うように話し続けた。
緑の龍、少年の名前は【清龍】
青い龍、青年の名前は【ハイド・ドラコーン】
彼らは後に、この世界の神に会うこととなる。