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ナナカマドの枝でお絵かきを  作者: 南無吉
一枚め
13/15

おじさん

どうやら図星だったようで、ココは再び泣き出した。


「お、おめ、おめんなさい・・・・・・」


震えて正しい発音ができなくなっても、ココは謝り続けた。


「おめんな、おめんなさいぃぃぃ・・・・・・」


ぼとぼとと鼻水涙、よだれが出てもココは謝り続けた。


「ぼべんばざいいいいいい!!!」

「ああもうわかったから!泣くな!!」


ヴィゴが叫んだ。

その声にびっくりしたようで、ココは口を閉じ、うつむいた。


「ココちゃん、大丈夫、私たちは怒ったりしないから」


なるべく優しく聞こえるよういうと、ココはちらっとこちらを向いた。

「ココちゃんは、こっそり絵をかくために、森に来たんだね?」


確認すると、ココはうつむいたまま、小さく頷いた。

ヴィゴがため息を吐く。


「お前、家はどこだ」

「・・・・・・カラヤレレス」


王都だ。

わたしが逃げ出した場所だ。

感覚的にだが、あんな遠くから来たのか?

そして、髪、瞳の色、王都という情報で、彼女がドラドの民であることは明確。

そしてユマラ教徒でもあるだろうに、絵を描こうとするのは不思議である。


「一人で来たのか」

「ううん、おじちゃんと来たの」

「はぐれたのか」


ココが頷く。

どうやら、ただ単に王都へ送り届ければいいわけではないらしい。

おじさんをまず探さなければならない。


「おじさん、ココちゃんが絵描きたいって知ってたの?」

「・・・・・・おじさんが、誰かに見つからないようにしようって」


うーん、どうやら、おじさんは知ってて森に連れて来たんだな?

こんな女の子見失うとか、責任はどうなんでしょうか。


「ていうか、ココちゃんユマラ教徒でしょ?絵、描いていいの?」


先ほどから聞きたかったが、聞けないでいたことだ。


「ユマラ、きょうと?」


ココが不思議そうな顔をする。

あれ、もしかして自分がユマラ教徒であると幼すぎて認識してないのか。

でも見た目は5、6歳だし、洗礼とかいうのも受けてそう。


「えーと、お母さんとか、絵をかくこと、許してくれる?」

「だめ。でも、おじさんがココは内緒で、特別にねって」


・・・・・・なんだろう、この「おじさん」黒幕感。

なんの黒幕か知らんが。


「そのおじさん、ユマラ教徒じゃないの?」


ココはしばらく考え込む。


「わかんない。でも、おじさんだけ、みんなと髪の毛の色違うの」


ほーん。

ちらっとヴィゴを見る。

ああ、思いっきり顔しかめてますね。


「待て、そのおじさんとかいうのはお前の家族なのか」

「そうだよ!おじさんはね、えっと、お母さんの、おとうとの、おくさんの、おねえさんの、だんなさんの、えーと、おとうとの・・・・・・あれ?なんだっけ」


つまり、遠い親戚ということだな。

よし、それだけはわかったぞ。


「まあ、親戚なんだね?知らない、そこらへんのおじさんとかじゃないよね?」

「おじさんのことは知ってるよ!知らなくないよ!昔から遊んでくれたもん」


ああよかった、人攫いでもないんだな。

でもなんでおじさんはココちゃんに絵をかかせようとしたんだろう。

洗礼を受けているなら、ココちゃんがひどい傷を受けることは知っているはずだ。


「ココちゃん、洗礼受けた?」

「受けたよ!」


だんだん元気になって来たココが、満面の笑みで教えてくれた。


受けたなら、ココはもう絵はかけない。

なぜなぜが積もっていく。


「とりあえず、おじさんを探せばいいだろう。面倒ごとはこりごりだ」


ヴィゴが立ち上がる。

お、森へ探しにいくということだな。

じゃ、わたしも


「ナナはここにいろ」

「なんで!?」


一人だけ置いてけぼりは嫌だよ!?


「しばらく外出禁止。いいな」

「いや、ココちゃんとヴィゴをふたりきりにするのはちょっと・・・・・・」


といってココを連れて玄関に向かうヴィゴを追いかける。


「駄目だ。二人も面倒見きれない」


そういってこちらに厳しい視線をよこしながら、玄関の扉を開ける。

ココに続いて出ていくヴィゴに食い下がる。

玄関で押し問答を続けていると、突然誰かの足音が聞こえた。


「すみません、うちのココがお世話になったようで」


ババっと二人でそちらを向く。

そこには柔和な笑みを浮かべた男が立っていた。

黒っぽい髪と目。

ドラド人ではない。


「お前が『おじさん』か?」

「はい、ユヒド、と申します」


手を前で組み、丁寧に頭を下げる。

再び顔を上げた時、笑みを「嫌だな」と思う感情が湧いた。


「おじさん!」

「さ、ココ、帰るよ」


おじさんが手を差し出すと、ココは嬉しそうに飛びつく。


「ありがとうございました。ではこれで」


今度は軽く会釈する。

ココがバイバイと手を振るので、返してやる。

いや、ちょっと可愛いかも。

お姉さん、幼児に弱いの。


まるで小さなつむじ風が通り過ぎてったような感覚で、二人を見送った。








「おじさん!よくわかったね!」

「ああ、すぐわかったよ。はぐれてごめんね」

「大丈夫!!」


森の、なるべく平坦な道を選んで進む。

魔物が出る心配はないだろう。

全く、ココが消えた時、肝が冷えた。

失態である。


しかし



「トゥマンの生き残りと異能がこんなところに、ね」


口のはしがグニャリと上がった。


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