問い詰め
磨き上げられた木の床は膝に微妙にダメージを与える。
少女と二人して床に正座し、目の前のヴィゴの靴を見つめる。
まさかこっちの世界でも「反省の坐」という正座と同じものが存在しようとは。
頭上から低い声が降ってくる。
「まずナナに聞こうか。森に一人で行くなと言いつけたのは忘れたのか」
「・・・・・・いいえ、忘れてません」
恐ろしくてヴィゴの顔を見れない。
それに言いつけを破った後ろめたさもある。
「忘れてないということは言いつけを無視したということだ。なぜ無視した」
「うっ」
こういう叱り方が一番嫌だ。
一気にまくし立てるのではなく、チミチミと・・・・・・
「聞いてんのか」
「ひいっ」
隣の少女が小さく悲鳴をあげる。
わたしもあげたい。
「えと、その魔物を描・・・・・・見たくて」
そういうとヴィゴは荒々しく息を吐いた。
どかっと椅子に座る気配がし様子を伺うと、ヴィゴが机についた手で頭を抱えているところだった。
しばらく目を閉じ、再び目を開くと、諦めたように言った。
「森についてしっかり教えなかった俺も悪い。一人で行くなと言ったのは、森には必ず死の危険がつきまとうからだ。今回でよくわかっただろうが・・・・・・」
あの黒い巨体を思い出す。
正体は熊のような魔物「ダトゥヴィ」。
ヒグマやホッキョクグマなんて比じゃない大きさで、頭も良い。
あの焦げ臭さはダトゥヴィ特有の匂いだった。
ヴィゴがギリギリで駆けつけなかったら二人して確実にミンチにされていた。
(そんな奴の頭を一刀両断したヴィゴもヴィゴだが)
ダトゥヴィの首を切断したのはヴィゴの得物・・・・・・名前は忘れた。
厚めのレイピアのような、でも大刀のような、よくわからん武器。
「もう一人で家を出るのはやめてくれ。危険すぎる」
あれ、前までは下生えがあるところまでじゃなかった?
厳しくなってない?
「で、次。お前」
ヴィゴの意識が少女に向かったのがわかった。
「とりあえず名前教えろ」
ヴィゴがあからさまに威嚇している。
そんな気がした。
「おい」
「・・・・・・こ、ココ」
聞こえるか否かほどの音量で少女は答える。
しかしヴィゴはそれを聞き返すことはなかった。
「ココ、なんで森にいた」
聞いた瞬間ココの顔からサッと血の気が引いた。
家出とかじゃないのか?
見るからに服装は普通、というかそれなりに上等なものを着ている。
生成り色だし、刺繍もフリルもないが、織り目縫い目からこれを作った人が少女のために作ったような丁寧さを感じる。
いい匂いがするし。
商人の子とかか?
「答えろ」
いつまでも口を開かない、いや開いてはいるが話さないココにヴィゴは苛立ってきているようだ。ヴィゴがどこまでキレるのかわからないが、ココに助け舟を出す。
早めに喋った方が身のためだってね。
「ココちゃん、家出したの?」
「おいナナ」
あくまでも自ら答えさせようとしているのか、ヴィゴが顔をしかめる。
こんなに表情豊かなヴィゴは雑貨屋もどきに行った時ぐらいだ。
そんなヴィゴは今日は頑張って放る。
「家出してきて森に入っちゃったの?」
もう一度聞くと、ココは首を横にふった。
どうやら違うらしい。
じゃあなんなのか。
なんとなく予想できるが・・・・・・。
捉え方によっては侮辱になるんじゃないか。
「もしかしてココちゃん、絵、描こうとしてたの?」
ココの髪は不自然な黒、瞳は鳶色だったから。