・・・・・・。
(なぜこんな森の中に、こ、こんな幼女がっ?)
岩の陰でうずくまっている謎の幼女は、微かに体を震わせている。
笑っているのか泣いているのか・・・・・・。
耳をすますと微かに鼻水をすする音がする。
(あ、泣いてんだ)
泣いている女の子を見たらお姉さんとして放っておけないでしょう。
と、思って岩の上で体を反転しかけて気づく。
以前ヴィゴから森には人間の真似をする厄介な奴がいると聞いた。
もしも彼女が魔物で、自分を誘惑しようとしているのだとしたら。
(え、いや、・・・・・・くそっ!ええいままよぉっ!!)
ストンッと岩の上から女の子の横、ではなく少し離れたところに降り立つ。
そろそろと近づき、様子を伺う。
「もし・・・・・・、そこのお嬢さん」
そっと声をかけるが、内心はどっと冷や汗が出ている。
もしも本当に魔物で次の瞬間頭から食われたらいい笑い者である。
少女はおおきく体を震わせると、おずおずと顔をあげた。
その顔は案の定というか、涙と鼻水でぐちゃぐちゃであった。
お互いにおずおずしている。
「だ、だれ」
明らかにこちらを警戒している。
安心したまえ幼女、こちらも警戒している。
「今日は森に、えーと、散歩しに来たんだ。君はここで何してるのかな?」
まさか絵を描きに来たとはいえないだろう。
この少女が人間だった場合、きっとユマラ教徒だ。
「わ、わたしはっ、わたしは」
そこまで言うと、こらえきれなくなったようで、叫び声をあげて泣き始めた。
「あ、ちょ、ちょーっと静かに、ね、ちょっと」
やばいやばい、こんな騒いだら魔物が寄ってくるんじゃないの。
慌てて女の子に駆け寄る。
ダイジョーブーとかナキヤンデーとか声をかけるが一向に泣き止まない。
むしろ声をかけるたびに音量が上がっていってる。
(ん?)
ふと、焦げた匂いが鼻をついた。
以前ケーキのスポンジをオーブンだかレンジだかで炭化させたことがある。
あの嫌な匂いだ。
ついでに料理音痴の開花という嫌な記憶も思い出す。
突然起こる地響きに少女も泣き止む。
一定のリズムで揺れる地面は、なんだか
(生き物・・・・・・なのか!?)
だんだん強くなる焦げ臭さと、強くなる地響き。
それが一番強まった時、森の中から川辺に黒々とした巨大ななにかが踊りでた。
「キャアアアアアアッ!!」
『グゥアオオオオオオオオッ!!』
少女が金切り声で叫ぶ。
それに呼応するように、その巨大な何かは獣の唸り声をけたたましくあげる。
振り上げられたムチのような何かの一部が返しをつけようとした時、頭上をものすごいスピードで何かが通りすぎた。
『オオオオオオゲェッ』
奇妙に止まった獣の叫び声。
と、ともにずり落ちる黒い何かの一部。
さらにそれに続くように黒い何かごと崩れ落ちた。
その向こうで立ち上がった何かは、ヴィゴだった。