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異世界拉致事件の生存者です。世間が落ち着いた今日この頃、俺の体は元気で満ち溢れています。

作者: ヘキサフルオロケイさん

〈トイレに行ってたら〉

〈勇者はいませんが〉

と同シリーズ。

正直この文章はなくて良かった。

読まなくても後の展開に特に関わらないと思う。

ある都道府県のある市立高校で起きた集団神隠し。

異世界モノのアニメを見て育ってきた大人達がSNSやネットで、この事件を異世界拉致事件と評した結果、世間でもこの名で定着してしまった。

この事件の渦中にあった、唯一の生存者である俺を怪しい人達やネタに飢えていたマスコミが放っておく筈もなかった。


よくネットで震災が起きた時にマスコミの配慮のない取材がウザイというのをよく目にして、ああ、これはひどいと思ったこともあったが実際に体験してみると、本当に「─ね」と思ったよ。

親の仕事先まで押しかけるわ、家の玄関前で出待ちするわで、学校に行くどころではなかったね。

一日中、平日休日問わずいるものだから、マスコミに付きまとわれる政治家の気持ちも少しわかったような気がした。

「shine」とか、「─す」とか言いたくなるよ。

正直なところ、怪しい宗教法人よりもマスコミの方が面倒だった。

あからさまな偏向報道とか、被害者を配慮しない様子とか、都合のいいところだけ報道するから昔から“マスゴミ”って呼ばれるんだよ、全く。


学校側に一ヶ月の休学を通告し、その一ヶ月間は自主勉強に励んだ。

この頃からかな、自分の体の異変に気がついたのは。

学校に行ってないというのも大分大きいんだろうけど、体が軽くなったような気がしたり、これほどにないくらい頭が冴え始めた。

今までは一知っても二できるぐらいだったのが、一知ったら十できる応用力を気がつかない間に習得したり、長い間感じてた息苦しさから解放された感もあった。

これだけじゃなくて、今まで感じてた関節痛とかも綺麗さっぱり治ったし、目に見える変化として怪我が治るのも早くなった気がする。

例えば、爪を切ろうとしたら、爪切りが滑って足に落ちて大量出血したとしよう。

今までは痛みに悶え苦しみ、長い間の療養が必須だったが、今では一眠りで完治。

自分の再生力が化け物染みてて怖い。

他にも反射神経がよくなってたり、器用になったような気がする。

今まではどう頑張ってもペン回しできなかったけど、今は両手で出来る。

こういう出来事を実際に体験すると、俺達は幻想的な出来事に遭遇したんだと考えてしまう。

これが噂に聞く、異世界転移特典なるものかもしれない。

異世界転移してないけど。


一ヶ月も経つと、流石に(ほとぼ)りは冷め始め、五週間ぶりの登校がやってきた。

他のクラスと一緒に授業を受けるという特別処置はなく、生徒指導室の監禁部屋こと水槽の中で課題をやるだけだが、長い間外の空気を吸っていなかった俺としては、それだけでも幸せだった。

休み時間はグラウンドに出て遊ぶことを許可され、俺は事件が初めて広い場所で走り回ったり、逆立ちしたり、反復横跳びしたり、縄跳びしたりした。

昔の俺はこんな活動的ではなかった。

どちらかと言わなくても、教室に篭ってオススメのアニメやゲームについて語ったり課題をしたりする側の人間だった。

けれど、今の俺は違う。

何処からか不思議と力が湧いてきて、運動したくてたまらない人間に気がつくとなっていた。

事件以前から縄跳びだけは学年で一二を争う出来だったが、これで学年一位になったと断言できる。

三重跳びを素で何度も出来る人なんて見たことがない。


俺がこうして一人で運動していると、事件のこともあってか、自然と目立った。

俺の超高速反復横跳びや、片腕逆立ち、逆立ち歩きをしていると、ある時から運動系の暇人が俺と競うように逆立ちをし始めた。

反復横跳びするにしても、俺がやり始めたら、十人ぐらい後ろでやり始めて、近くにいるその友人達と思わしき人がそれぞれの記録を計測する。

こんなやりとりを三日程繰り返すと、俺と彼らは友達になっていた。

これらの運動以外に、五〇メートル走や一〇〇メートル走、六キロマラソンにも誘われ運動系の友人が随分増えたような気がする。

この頃から俺の評価は、

「教室で燻っているメガネ」から「活発的なメガネ」に変わっていた。


あの事件に遭遇して仲が良かった友達が消えて、寂しく感じたり、マスゴミがウザかったりしたけど、俺は今幸せだ。

恋愛方面では充実していないけど、日常生活の中では俺はリア充なのかもしれない。

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