部屋に潜むもの
家に何かいる、それに気が付いたのは物心がついたときからだった。
誰もいないはずの廊下に黒い影を見た。誰もいないはずの部屋から物音がする。
そんなことはしょっちゅうだった。
音はするのに姿が見えない、気配がするのに誰もいない。そんなことが多々ある家で生活をしていた。
年月が流れて、私も高校生になった。自分の部屋を持つようになり、自分の好みで部屋の模様替えをする。なんともいい気分だ。自分だけの部屋、自分だけの聖域。気分はまるで一国一城の主だ。
そんなある日のことだった。
深夜2時過ぎ、草木も眠る丑三つ時。私はそれまで夢心地で眠っていたはずなのにふと目を覚ました。何かあったわけでない、起こされてもいない。はて、それなのにどうしてこんな時間に目が覚めたのだろうか?身体は睡眠を欲しているのに妙に脳だけが冴えてしまっていた。
寝起きでボーっとする視界が徐々にピントを合わせ始め視界がはっきりとしてくる。消え入る寸前の蝋燭の灯火のような僅かな琥珀色の光を放つ豆電球だけが唯一の光源だった。
部屋の暗さにも慣れ始め、部屋においてある物の輪郭が陽炎のように浮かび上がるのが見える。部屋を見ても何もいない。只々、寝る前に見た景色と同じものがそこにあった。
しかし、異変を捕らえたのは視覚ではなくって聴覚のほうだった。何か音がする。大きな音ではない、本当に僅かな音を私の耳は集音器のように捕らえた。
音がするのは壁の方角。意識を集中させるとなにやら気配さえも漂ってくる。何かいる。私は確信した。
恐怖と興味が入り混じる。見たいのに怖い、怖いのに見たい。しばらく熟考し、決心して壁の方に視線を動かした。
私の部屋の壁紙は白、その色は暗闇の中でもはっきりと確認することができた。
いつもと変わらない壁紙がそこにはあった…。
なんだ、何も無いじゃないか。と一息ついたところでそれに気が付いた。
白い壁紙に何か付いている。何が付いているのだと見てみるとまるで黒い人目のようなものが付いている。何かの影かと思ったが影になるようなものは何一つ無い。2,3度目を瞬かせて見るもそれは変わらずそこにある。
その目のようなものをよくよく見ると僅かに動いている。まるでキョロキョロと視線を動かしているかのようだ。
私はそこで怖くなり頭まで布団をかぶってひたすら目を閉じた。
恐怖。その感情で一杯だった。あれは何だ?顔?目?何が起きたのか分からなかった。只々、さっき見た光景を忘れることだけを意識した……。
私は気が付けば眠ってしまっていた。朝を告げるけたたましく鳴る目覚ましの音に起こされたのだ。
窓から朝日が差し込み、昨夜とは比べ物にならない光が部屋を照らす。そこには寝る前と変わらない部屋があった。何も無い白い壁、少し物で溢れた小汚い部屋、何一つ変わらなかった。あれは夢だったのだろうか。そう思えるほど何一つ異常は見当たらなかった。
それから数日がたった。数日の間にも部屋に気配がしたり物音がする事はあったが、先日のような黒い目は見ることが無かった。
きっと寝ぼけていたのだろう。私はそう信じてこの日も暖かな布団に横になって眠った。
しかし、この日再び夜中にふと目を覚ました。時間はまたしても深夜二時過ぎ。先日と全く変わらない状況だった。薄暗い部屋、輪郭しか見えない部屋の様子、そして白い壁。
先日の光景を思い出し恐怖が身体を支配する中、恐る恐る先日黒い目があった壁を見た。
そこには沁み一つ無い白い壁があるだけだった。
よかった、何も無いじゃないか。と安心し一気に身体の力が抜け再び横になる。
ふと、天井を見上げると…。
黒い目が私を見下ろしていた。人間は真に恐ろしいときは声も出ないし身体も動かないものだと知った。
とてつもなく恐ろしい。無機質な黒い目が私を見下ろしているのだ。いつから?という疑問も浮かばないほど恐怖で一杯だった。
怖いはずなのに視線を逸らす事ができない。恐怖に駆られながら、只々その黒い目を見つめることしかできなかった。
しばらくその黒い目を見つめていたら少し慣れたようで身体も視線も動かせるようになった。
まだ恐怖が残っているので先日のように目をつぶって眠ってしまおうと考えた時―――。
片方の黒い目が私の顔に落ちてきた。
私は叫びながら、その黒い目の正体を知った……。
不意に浮かんだネタ。皆さんは黒い目の正体が分かりましたか?
私の部屋には黒い目はいないのに黒い人影が2,3人生息してます。