第20章 永遠じゃない
その日はインターハイ出場を決めた西村の祝賀会だった。と言っても、部活内でもクラスでも散々行われ、今やっているのは私と佐々木、薫、ミッチー、鳩山の6人だけである。
「カンパーイ!!」
これも散々行われてきた。私たちは佐々木の家にあった炭酸で乾杯する。
「ありがと!みんなのおかげです!」
西村はぺこぺことお辞儀をしてグラスを全部飲み干す。
100メートル走での決勝戦、ほとんど横並び状態だったが、それでも橘に続く第2位でゴールした。ケガをしてからの自己最高記録だったらしい。
「俺がここまでやってこれたのは、ほんとみんなのおかげだよ。ありがとう」
「そーだよなー!俺たちに感謝しろよな!」
鳩山が調子の良いことを言う。みんな笑った。
「まぁ、これは俺の戦利品。おいしいぜ」
と言って、シャンパンのようなものを取り出した。それがお酒だということはなんとなくわかったが、誰もコメントしなかった。
しばらく食べたり飲んだりを繰り返しているうちにミッチーが、
「ねぇ、アルバム見せてほしいな」
「いいよ。ちょっと待ってて」
西村がうなずいて本棚を探す。しばらくして赤い表紙の本を取り出した。
ミッチーがそれを開いた。
「それは中学のときの。こっちが小学校」
「へー・・・やっぱ3人とも昔から仲良かったんだね」
それはミッチーの率直な感想だった。確かに、写っている写真はどれも集団で写っているものだったが、とにかく3人が多かった。
「いいなーこういうの。幼なじみってカンジ」
「でも俺は小1のときに初めて友達になったんだ。幼なじみってほどじゃないかも」
「そう寂しいこと言うなって」
そう言って西村が佐々木の頭をなでる。むーっとうなった。
「あれ?この人って真希じゃない?」
ミッチーが写真の一部を指差す。それは小学校の卒業写真だった。ほんとだ、と薫もうなずく。
「一緒の学校だったんだ。ねぇ?カズ」
私は意味ありげな視線を送る。西村が微妙な顔をした。
「えっ!?そういうことなの?」
ミッチーが嬉しそうに反応する。私はため息をもらした。
「付き合っちゃえばいいのに・・・なんで告んないんかな」
「佐々と一緒で勇気がないのかも」
あっさりと答える西村を佐々木がにらみつける。
「柚芽!」
そう西村に呼ばれて私は傍に寄っていく。すると、西村に頭を抱きしめられた。さすがにどきっとしてしまったが、すぐに佐々木の蹴りがぶっ飛んできた。
「あのときの決着つけよーじゃんかよ」
よく見ると、佐々木は酔っていた。鳩山は自分があげた酒の口が開いていることにようやく気づいた。そうして、あのときとやらの決着としてプロレスごっこが始まった。
「大丈夫だって。あんま酔ってないよ」
と言いつつも、足取りはおぼつかなかった。私と西村ははなんとか2階の佐々木の部屋まで運んでいく。鳩山の話によると、ビンの半分を1人で飲んだらしかった。酒乱になっているわけではなく、ぼーっしていて危なっかしい状態なのである。
1階ではすでに片づけをし始めている。
「お酒弱かったんだな」
西村が意外そうに尋ねる。
「なんつーか・・・・40度の熱出したときみたいな気分・・・・・」
それはなかなか重症ではないだろうか。
「柚芽、いい匂いがする。ちゃんとシャンプーしてんだね」
「当たり前でしょ!!」
どこまで酔っているのだろうか。
「さんきゅ。ここまでで大丈夫だよ。ちょっと寝れば醒めると思う」
部屋の入り口まで連れてきたところだった。
なんとなく離れがたかった。私は戸惑いながらも佐々木から手を放した。
「なんだよ。俺と一緒にいたいのかよ」
佐々木にとっては冗談のつもりで言ったのかもしれない。しかし、図星だったため私はぎくっと反応してしまった。西村が笑う。
「俺も・・・みんなとずっと高校生でいたい。柚芽とずっと一緒にいたいよ・・・・でも、みんなバラバラになっちゃうんだな」
それはこれからの未来のことだった。私はうんとうなずいた。同じ気持ちだった。
月日は流れていくんだ。
それでも前を向いていなくちゃいけない。どんなことがあっても。振り返っても、また前を向かなければならない。
出会いもあれば別れもある・・・でも決して永遠じゃないと私たちは信じている。
「まぁ腐った縁同士、またどこかでばったり会っちゃいそうだよね」
私の冗談とも本気ともつかない言葉に西村も佐々木も笑い出した。そんな腐った縁も悪くないと、このとき私たちは考えていた。
(おわり)
今まで呼んでくださってありがとうございました。
これにてトライアングルを終了させていただきます。
また機会があったら彼らのその後も書いてみたいと思います。(機会があったらですけど・・・)
本当にありがとうございました。




