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第18章 修学旅行―後編―

 時刻は午後1時半になるところだった。私と西村は3時に集合する予定の場所まで行くことにした。ここからだとだいぶ歩くことになる。

 とは言っても、知らない土地だ。迷子のうえにさらに迷ってしまいそうだった。

「長崎は坂が多いな」

 西村がぼつっとつぶやく。言われてみればそうかもしれない。今も上り坂で私は死にそうだった。

「カズ・・・ごめんね。なんか私のせいでこんなことに・・・・・」

「柚芽のせいじゃないだろ。俺が話しかけたんだから俺のせいだって」

 笑いながら、西村は財布を取り出して中からテレホンカードを出す。ちょうど近くに公衆電話があったのだ。受話器を取ってスムーズに番号を押していく。

 ケータイがなくても誰かの電話場番号を覚えてるんだと私は感心した。

「・・・・・・・・・・あ、すみません間違えました」

「カズ?」

「試しにかけてみたけどやっぱり違った」

 そう言いながらまた番号を押していく西村。私は絶対かからないような気がしてきた。

「・・・・・・・・佐々?よーっす」

 (つな)がったらしい。初めからその番号を押してほしかった。

「大丈夫だよ。ああ、うん。ケータイ切れただけだから。今どこにいる?」

 しばらく会話してから急に私に受話器を突き出してきた。よくわからずそのまま受け取る。耳に当てると受話器から声が聞こえてきた。

『もしもーし。カズー?』

 ぎくとして私はすぐに耳から離す。佐々木だとはわかっていたが、今は会話なんてできなかった。じっと西村に見られたが、やがて受話器を受け取ってくれた。

「ごめん・・・・・じゃぁそういうことで・・・・・元気だって。代わろうか?」

 そう言ってもう1度受話器を渡される。西村の目には逆らえなかった。

「もしもし・・・」

『柚芽!?良かった・・・大丈夫そうだな・・・・・』

 今朝会ったばかりなのに、なんだか久々に聞いたような声だった。

「・・・大丈夫。ごめんね、なんか迷惑かけちゃって」

『ほんとだよなー。倉咲さんたちも心配してるから早く戻ってきなよ』

 私たちは電話を切った。出てきたテレホンカードを西村に返すと、怒ってはいなさそうだが、にらまれたような気がした。

「佐々は最初に柚芽の安否を聞いてきたよ」

 西村はカードを財布にしまおうとする。

「2人が気まずくなると俺までどうしていいかわかんなくなるからさ」

 だから、佐々木を許してやって、そう西村は言った。よく考えてみれば、悪いのは私だった。それを佐々木のせいにして勝手に怒って、そうではないと気づいても意地を張って素直になれずにいるのだ。佐々木は私のことをちゃんと考えてくれているのに。

 帰ろう、早くみんなの所へ。それから佐々木に謝ろう。

 私と西村は集合場所へと急いだ。


「い・・・イモ」

「も・・モアイ」

「いー・・・またいー?・・・・・・イカ!」

「貝」

 集合場所まで行く間、私たちはしりとりをして帰ってきた。そのためか、それに夢中になってしまい、みんなと再会できたときの喜びが一歩遅かった。

 ちなみに、西村に「い」で始まる単語ばかりを言われてしまったのでだんだん単語に尽きてきた。

「い・・いー威張りくさった」

「柚芽ー!!」

 オヤジと言いそうになった私の声に、甲高い声が重なった。気づくとミッチーが抱きついてきた。

「ミッチー、どうしたの?」

「ごめん!すぐに気づかなくって・・・佐々木君に言われるまで気づかなかったの!」

 私がいなかったことに気づかなかったことに対しての謝罪らしい。私は別に怒っていなかったので、大丈夫と言って頭をぽんぽんとなでる。

 ミッチーによると、最初に私と西村がいなくなったことに気づいたのは佐々木らしかった。その場にいる人みんな居場所を知らなくて、薫が私のケータイに電話したのだ。

「急に切れたからびっくりしたよ」

 薫が苦笑いで言う。

「そうだよ!それで佐々木君元気なくなっちゃって・・・・・あっ、もう付き合ってることみんなにバレてるよ。みんなの前で認めちゃってたもん」

 驚いて佐々木を捜す。西村や鳩山(はとやま)たちと一緒に談笑している。今は話しかけにくいけれど、後で絶対話しかけようと思った。

 その後、以前ミッチーに聞いた佐々木のことが好きなクラスメートとはどう接していいかわからなかったが、なんとなく佐々木自身がそう言ってくれたということが私には嬉しかった。


 帰りのバスの中、私は疲れきって爆睡(ばくすい)してしまった。まだ体力に余裕のある男子たちがノリノリでカラオケをして盛り上がっていたらしいことを私は後で知った。だんだんとみんなの疲れがまわって最終的にほとんどの生徒が寝てしまったそうだ。

 学校に着くと、すぐに解散になった。正直早く帰って寝てしまいたかったが、行きに車で送ってもらったため、帰りは歩くことになっていた。私は半ば荷物を引きずるようにして歩き始めた。目が佐々木を捜していた。

 しかし、いくら捜してもわからなかった。私はしばらく待ってみたが、結局あきらめて帰ることにした。

「柚芽」

 名前を呼ばれたときは心臓がひっくり返るかと思った。佐々木が門を出たところでずっと待っててくれたようだ。

「一緒に帰ってもいい・・・?」

 少しだけ遠慮したような言葉だった。私は緊張した面持ちでこくんとうなずいた。

 私が怒っていると思っているのだろうか。いつも話題につきない佐々木が話そうとはしなかった。私も謝るべき言葉を探していた。こんなことは初めてだった。

「佐々・・・あの、おとといはごめん!なんか怒鳴ったりして・・・・・」

 佐々木が驚いたような顔でぶんぶんと首を振った。

「俺が悪いんじゃん!俺がずっと微妙な態度とっちゃったから・・・ごめん」

 私は少し意外に思えた。いつも楽観的な佐々木がしゅんとなることは珍しいからだ。

「・・・・・嫌だった・・・?」

「・・そりゃぁ目をそらされたりするのは傷つくよ・・・・・」

「・・・・・え?あっ、そっちか!そうだよな・・・ごめん」

 何について言っていたのだろうか。なんとなく挙動不審にしている佐々木を私はじっと見つめた。視線が痛そうに佐々木は目をそらす。顔が赤く見えるのは気のせいだろうか。

「何が嫌だったって言ったの?」

「もう言わない!!」

「言ってよー!」

 ずんずん進んでいく佐々木を私は慌てて追った。と、バレンタインデーに待ち合わせた公園にたどり着く。そういえばと私は思い出した。

「佐々、あのチョコすごくまずかったのを怒ってたんでしょ?」

「え?チョコおいしかったよ」

「ウソだ。私後で食べてみてすごくまずかったし」

「ほんと。それに俺怒ってないよ」

 きょとんとしたような顔で佐々木は言う。私はじっと目を見つめた。今度はそらされなかった。

「俺・・・あのときテンションがおかしくて、後でよく考えたらいきなりだったなーって思って、柚芽に嫌われるのはヤだった。もし嫌だって思われてたらどうしよって」

 ようやく何が言いたいのか理解した。キスしたことを言っているのだ。私は意外に思いつつ、思い出して恥ずかしくなった。

 私は佐々木の袖を掴んで、首を振る。

「嬉しかったよ。全然嫌じゃない。相手が佐々なら・・・むしろ嬉しい・・・・」

 自分ではすごく大胆なことを言ったつもりだった。

「そりゃぁ・・・・・俺以外の人とはしないでほしいんだけど。ねぇ、柚芽」

 名前を呼ばれて、私は顔を上げる。ダイレクトに目が合って、さすがにどきっとしてしまった。

「下の名前で呼んでみてくんない?」

 意外な質問に私はきょとんとした。いいよと言ってから、

「翔太」

 新鮮な気がした。佐々木がすごく嬉しそうににーっと笑う。それだけで嬉しかった。


 無事に修学旅行は終わったが、修学旅行というよりは、ずっと佐々木のことを考えていたような気がした。もうすぐ私たちは3年生になる。

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