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第17章 修学旅行―前編―

 香咲(かさき)学園高校の最大のイベントと言っていい、修学旅行が2年生の3月にある。行き先は毎年決まって九州だ。2泊3日で鹿児島から長崎まで九州を縦断する。

 なんと言っても修学旅行の醍醐味(だいごみ)と言えば、夜に友達の泊まる部屋に遊びに行って遅くまで喋ることだ。


 1泊目の夜、私と(かおる)、ミッチーの泊まる部屋にクラスの女子が遊びにきた。

「よっ!遊びにきたぜ」

 元気印の小山ゆりを先頭にぞろぞろと入ってくる。少し内気な渡辺歩美、おしゃれに気を遣っている須藤瑠奈(るな)も彼女に続く。

 話は自然と恋の話になっていった。

「・・・でさ、7組の中野がほんとは鳩山(はとやま)のことが好きなんだって」

「へー・・・・」

 薫は平静を装っているが、明らかに動揺していることが見ててわかった。それを面白がってゆりは話を続ける。ミッチーと同じくらいゆりも噂話には通じているのだ。

「まぁ、鳩山とは小学校からずっと一緒だったもんね。仲もいいし、案外まんざらでもなかったりして」

 薫の顔がぎょっとする。とうとう我慢できずに私とミッチーと瑠奈は笑い転げた。薫がむーっとした。そんな顔もするらしい。

「ごめんごめん。鳩山もモテるんだから気をつけなよって話」

 ゆりがすかさず言ってのけた。

「でもモテるっていったらあの2人のほうがすごいよね」

 瑠奈がちらっと私を見てきた。すぐに何を言いたいのか理解した。

「こないだウチのクラスの男子が体育やってたときに3年の女子が騒いでたよ。学年問わず人気だよね」

 歩美が感心して言う。それにゆりが反論した。

「かっこいーけどさー・・・完璧すぎない?もうちょっと欠点あってもいいなー」

「実際どうなの?柚芽は」

 瑠奈は初めからそれが聞きたかったらしかった。私は言葉につまる。ミッチーも薫も何も言おうとはしなかった。

「これ1年生が言ってたんだけど、バレンタインデーに柚芽が佐々木君に告ったけど佐々木君は今の関係がいいと言ってオッケーをしなくて、それから3人の関係が妙にぎくしゃくしてきた・・・とかなんとか。それって本当なの?」

 ゆりが早口でそんなことを言った。視界の片隅でミッチーが今にも笑い出しそうになっているのを私は見た。

 そもそもバレンタインデーが終わった日から、確かに私たちはよそよそしくなったと思う。10年以上友達として付き合ってきた佐々木とキスなんてしたのだ。あの後、家まで送ってくれた佐々木は、ノロケと言われてもおかしくないが、本当にかっこよかったのだ。その翌日、たぶん私のチョコか、あるいは風呂上りに寒い所に呼び出したのが原因で佐々木が風邪をひき、2日後に会ったときから無視ではないが、露骨(ろこつ)に目をそらされるようになった。

 薫とミッチーにはケンカしたの?と心配された。

 ひょっとしてチョコがまずすぎて怒っているのかもしれない。

「・・・・・きっかけとかはないんだけど、気づいたら佐々木のことが好きになってて、それで付き合うことに」

 かなり省略して私は言った。その瞬間、えーーーーー!!!とゆり、歩美、瑠奈の3人が大声を上げた。

「知らなかった!えっちゃん、この修学旅行中に佐々木君に告るって言ってたよ?」

 ゆりがあちゃーというような顔をする。えっちゃんと言われても、私には誰だかわからない。

「えっ!?えっちゃんって大学生の彼氏がいるっていう・・・?」

 ミッチーだけが反応する。

「別れたらしいよ。ここだけの話、相手が超ヤキモチやきでウザかったんだって」

「うわー・・・ヤキモチやく男とかウザくね?」

 さっきまでからかわれていた薫が反応した。他の女の子はヤキモチやかれたいと口々に言っていたが、私はどうだろうか。考えてみても、佐々木がヤキモチをやくような人間には思えなかった。

 と、そのとき部屋のドアがノックされた。私たちはぎゃっと驚いてしまった。ドアが開く。

「あらまぁ・・・もう消灯時間は過ぎているのよ。もう寝なさい」

 足立先生の声でなんとなく眠くなってきた。ゆりたちは慌てて自分の部屋に帰っていき、私たちは就寝した。


 翌朝、いつもより早く目の覚めた私は外の空気を吸いにタオルを持って1人でホテルの廊下を出て行った。誰もいないロビーに降りていき、外に出ようとする。

「あ、柚芽?」

 誰かに呼び止められるなんて思ってもいなかったので驚いて振り返る。そこにはジャージ姿の佐々木がいた。同じように1人でいて、意味もなくどきっとしてしまった。

「おはよ・・・早いんだね」

「俺、環境変わるとあんま寝れないんだよ。子供みたいだけど」

 苦笑して答えた佐々木に、私は少し安心した。普通に話しかけてくれた・・・と思ったらすぐに目をそらされてしまった。

「じゃ・・俺戻るよ」

 さすがにショックだった。もうちょっとだけでも一緒にいてくれたっていいのに、目をそらされることがどのくらい傷つくのかわかっているのだろうか。

 私はタオルを丸めて、立ち去ろうとする佐々木の後頭部に向かって投げつけた。昔、ドッジボールで佐々木に顔面にボールを当てられたことを思い出す。当てられた佐々木は驚いて振り返った。私は彼の胸倉を(つか)んだ。

「言いたいことがあるなら言ってよ!チョコがまずかったこと怒ってるの!?それともバレンタイン忘れてたこと!?それとも・・・・・・・・」

 思い当たる節が多すぎる。言葉につまってしまって私は掴む手から力が抜けていった。と、佐々木が私の手首を掴んで、

「何してるの!?」

 女の声が重なった。その声のほうを向く。見ると、髪の長い綺麗な女の子がそこにいた。

「あ、えっちゃん・・・?」

 佐々木の声に私はびくっと反応した。それにしても佐々木は私より交友関係が広そうだ。

「翔太!大丈夫?」

 慌てて駆け寄ってくるえっちゃん。まるで私が佐々木に暴力でもふるっていたような雰囲気だ。それにしても、翔太なんて馴れ馴れしいと私はむかっとした。こういうのをヤキモチというのだろうか。えっちゃんが私を見る。

「・・・出しゃばっちゃってごめんなさい。でも、このままじゃ良くないような気がしたから・・・」

 何をやっているのだろう。急に現実に引き戻された気がした。

「ごめん!もう戻るよ」

 私は猛ダッシュで階段へと走っていった。追いかけてはくれなかった。視界がなぜか潤んだ。


 2日目は団体行動だった。私は極力男子軍団とは遠く離れた場所で行動していた。

 2,3度佐々木が私に声をかけようとしていたが、友達と話し込んだり、トイレに行ったりしてとにかく関わろうとはしなかった。それがどれだけバカなことかはわかっている。それでも自分の行動を止めることができなかった。

 長崎の名所をまわっているとき、西村が男子の輪を外れて私のところへやってきた。

「よー、夫婦ゲンカ中?」

「べっつにー」

 私は不機嫌な顔をした。本当にかわいくない態度である。

「何があったかは知らないけど、許してやれよ。あいついいヤツなんだよ」

「わかってるよ・・・小さい頃からずっと友達だったもん」

「じゃぁ、なんでまだ怒ってんだよ?」

 西村が頭上にある木を眺めながら言う。私はうつむいた。

「私が意地張ってるだけ・・・・」

 しばらく沈黙が続いた。西村はただずっと頭上を仰いでいるだけだった。何も言ってくれないことがむしろありがたかった。

 やがて西村が口を開いた。

「柚芽」

 んー?と私は顔を上げる。西村はただ前方を見ていた。

「なぁ・・・他のみんなどこ行ったと思う?」

「どこってここにいるじゃ・・・・・・」

 そのとき、やっと気づいた。そこにいたのは全然知らない顔ばかりだった。薫もミッチーも佐々木もいない。私はさーっと頭から血の気が引くのを感じた。

 そのとき、私のケータイが鳴った。慌てて電話に出た。

『もしもし柚芽?あんた今どこにいるの!?』

 電話の相手は薫だった。

『柚芽と西村君がいなくなったってこっちじゃ大騒ぎだよ!』

「うん。カズも一緒にいる・・・すぐにそっちに行くから足立先生には内緒にしといて。それと今どこ・・・・・」

 唐突にケータイが切れた。どうやら電池がなくなったらしかった。慌てて私は西村に向き直る。

「カズ!ケータイ持ってるよね!?」

「はは・・・・でかい荷物のほうに入れっぱなし・・・・・」

 文字通り、私たちは迷子になった。

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