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第10章 告白

 きっかけなんてなかった。

 よくマンガであるような劇的な出来事が起こったとか、優しくされたとか、ピンチのときに助けてくれたとかそんな都合の良いことは起こらなかった。ただ、気がついたら好きだった。理由もない。突然だった。

 でも、世の女子高生は好きになった男子とはいつも一緒にいたいと思うようになるのかもしれないが、いつも一緒にいたせいか私はむしろ距離を置きたいと思うようになった。あからさまに避けるのではなく、1本線を引くようなカンジ。そうすると、自然とそれ以上踏み込むことがなくて安心した。

 なんで好きになっちゃんだろう。

 そう思うようになったのは、たぶんこの日からだった。その日、日直でたまたまごみ置き場に1人で行くと、佐々木と誰か知らない女の子の姿があった。とっさに隠れると、いくつかの会話が聞こえてきた。

「・・・・・・・・・・ごめん。すごく嬉しいんだけど、付き合えない・・・・ごめん」

 その後の会話を聞くことができなかった。初めて他人の告白シーンを見てしまった。佐々木も西村もラブレターをもらったことがあるのは知っていたが、こんなふうに真剣に告白されることもあったんだ。

 あんなふうに断られるくらいなら、今のままの関係がいい。そう強く思った。


 そうしているうちに10月の半ばになり、文化祭のシーズンが近づいてきた。2年4組はお好み焼きと焼きそば屋台を開くことになった。

「こらー!柚芽(ゆめ)、手を休めるなー!」

「いや、ちょっと待ってよ!なんで私だけが日曜大工やってんのさ」

 気がつけば、軍手をはめて金づちをを持ち、左手には(くぎ)なんか持ってたりしてなんとなく大工のゲンさんっていう姿になる。ゲンさんって誰だ?

 そのときミッチーが私の傍でちょこんとしゃがみこむ。

「だって柚芽のお父さんって大工さんでしょ?」

「大工の娘が大工できるとはかぎんないでしょーが!」

「おっ柚芽!超似合う〜!!」

 私の背後で聞こえたその声は他ならぬ佐々木だった。大工のゲンさん姿を見てげらげらと笑っている。私は平静を装うつもりが、ぷっちんときた。

「だったら佐々がやんなよ!か弱い少女にこんなことさせちゃっていいの!?」

「うーん・・・ほんとにか弱かったら代わるとこなんだけど、俺もやることあるしなー」

 さりげなく私はか弱くないと言っている。なんで私はこの男のことを好きになってしまったのだろうか。

「そういやさ、まだバイトやってんの?」

「やってるよ。ちょっと減らしてもらったけど・・・」

「じゃーさ、今度食べに行ってもいい?」

「もー来んなー!それよりさっさと準備しろよー!」

 しっしっと佐々木を追い払ってから緊張した心臓を押さえ込んだ。いつのまにいたのか(かおる)が私を覗き込んでいた。

「わっ・・薫かー」

「柚芽、もしかして佐々木君のこと・・・・・・」

「違う違う!!違うんだってば!」

 こんなにムキになって否定したのは初めてだった。


 文化祭まで残り1週間をきった。この頃から実際に鉄板を使ってお好み焼きと焼きそばを作り始めた。

 作るのが上手かったのが、意外にも鳩山(はとやま)だった。お好み焼きをひっくり返すときも豪快に、かつきれいにひっくり返し、出来上がりを食べたときは本当においしかった。

「薫、おいしーね!」

 私が茶化すと薫はじーっと私をにらんでしぶしぶこくんと頷いた。

 男子は口々にうめーうめーと言って片っ端から食べていく。その中を鳩山が抜けてきて、紙皿にのった焼きそばを薫に差し出した。

「食べてみねー?」

「あっ・・・うん」

 それをクラスメート全員がニヤニヤとした目で見ていた。当の本人たちがはっと気づいて慌てて離れた。

「どーぞどーぞ続けて」

 佐々木が言うと鳩山の顔がかっと赤くなった。蒸気機関車のようで見てて微笑ましかった。

「おまえら・・・見てんじゃねぇよ!!」

「顔赤いよ」

 西村の言葉にますます顔が真っ赤になって、クラス中は大笑いになった。薫もゆで卵のように固まってしまった。


 文化祭のためのチラシ作りに時間がかかり、私は薫と居残って作っていた。薫はあれからあまり喋りたがらなかった。あまりからかわれることが好きではない上に、みんなの前で恥ずかしい思いをしたからだろう。

「薫・・・怒って・・る、よね?」

 私がおずおずと尋ねると、薫は急に顔を上げて私を見た。

「たぶん・・・私、鳩山のこと好きだ」

「は?」

 いきなり何を言い出すのかと驚いてしまった。目をぱちくりとさせると薫はまっすぐな視線を送り続けてくる。

「そーなんだ!そうじゃないかとは思ってたんだ!そっかー・・・」

「まぁ隠すようなことでもないもんね。あんたもでしょ?佐々木君のこと好きになった」

「違うって!」

「まーまーいい加減に認めちゃいなよ」

 少し笑ってそんなことを言われた。認める・・・認めてしまったらもうあきらめられないような気がして嫌だった。言葉にしちゃうともう後戻りできないような気がする。

「それより鳩山君と付き合っちゃうの?」

「そうだねー・・・柚芽が認めたら少しだけ話してみようかな・・・」

「ずるいなー」

 私は苦笑したが薫は笑ってなかったのでどうやら本気らしかった。薫は本気で何かを言うとき、決して笑わないのだ。

 まぁ、いっか・・・急にそんなふうに思えたのはなぜだろうか。

「よくわかんないけど・・・たぶん好き・・・・・・」

 がらっ・・ばたーん

 その音と私の声が重なった。見ると、教室の前の扉がいつのまにか開いていて、傍に佐々木が倒れていたのだ。扉の向こうには西村がいて、なにやら薫に自分の元へ来るように手招きしている。すぐに薫が教室を出て行ってしまった。

 何が起こったのかよくわからなかったが、最悪な状況であることはわかった。


 頭の中が真っ白になった。佐々木が起き上がるまでにずいぶん時間がかかったようにも思えた。

 なんでこんなことになったのだろう。こんなふうになるなら好きにならなければ良かった。

「柚芽」

 名前を呼ばれてびくっとなった。もう逃げてしまいたかった。

 佐々木は思いっきり顔をそらして話を続ける。

「おまえさ・・・・・・俺のこと、好きなの?」

 佐々木の顔がこっちを向いたのがわかった。私はうつむいたまま何も言わずに小さくうなずいた。とうとう認めてしまった。でも、すぐに以前見た告白シーンを思いだした。あんなふうに断られてしまう・・・また今までのように気楽に話せなくなる・・・そんなのは嫌だ。

「いやっ・・・あの・・・ちがくて・・・」

 なんだかわけのわからないことをつらつらと言ってしまった。もう何を言えばいいのかわからない。

「すげーうれしい・・・サンキュー」

「いや・・・・・・」

「なんつーか・・・照れるし、なんて言えばいいのかわかんないけど・・・・・うわっほんと照れるなー・・・・」

 断るならさっさと断ってくれ、私は緊張で立っていられなくなってきた。

「まぁ、ぶっちゃけて言えばオッケーです」

「は?何が?」

「え・・付き合うって話じゃないの?」

 少し頬を赤らめた状態で目をぱちくりとさせる佐々木に、今度は私がきょとんとする番だった。付き合う、それはその言葉のとおりの意味なのだろうか。だとしたら・・・

「はー長かったなー・・・」

「え・・?」

「俺の片想い期間」

「そんな素振(そぶ)り全然見せなかったじゃん」

「ずっと頑張ってたから。柚芽が俺のこと好きじゃないのわかってたもん。でも超一途(いちず)に待ってた。そんなん全然気づいてなかったろ?」

 私はいきなり顔が熱くなってしまった。こくんとうなずくと、佐々木はへへっと笑った。

「だからさっき教室の前で、ごめん立ち聞きしちゃったんだけど、すげーうれしかった。今度は俺から言うね」

 佐々木は改めて私の目の前にやって来た。どくんと緊張した。

「・・・俺と付き合ってください」

「・・・・はい・・・」

 西日が教室を照らす頃、私たちは両想いになった。

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