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第1章 再会

 とにかくこの2人と関わるとロクなことが起こらなかった。

 小学生のとき、彼らと帰った日に山からなぜか野生の熊が下りてきて、1歩間違えれば死んでいてもおかしくない状態に陥ったこともある。中学生のときは、修学旅行中3人でぎゃーぎゃーケンカしてしまい、誤って東京湾に沈みそうになった。そういえば、3丁目に住んでいる雷オヤジの家の夫婦喧嘩の仲裁に入ったはいいものの、結果的に夫婦とあの2人だけが無傷で私だけが擦り傷をこしらえたことも思い出した。

 さらに、あの2人が学校中の人気者であることにもしっくりこない。2人とも容姿端麗で頭脳明晰、運動神経抜群だったため、まるでマンガか何かの世界のようにクラスの女子はかっこいいと騒いでいた。

 私はといえば・・・お世辞にも美人とは言えず、成績も良くない、運動は人並みにはできたがなんとなくどんくさくて失敗が多い。とりわけ、どこにでもいそうな普通の女だった。

 だけど、高校からは違う。あの2人と一緒にいて初めて名前を覚えられる生活にももう飽きた。彼らとは違う高校に行って、充実した生活を送ろうと思っていた。

 そう・・・高校2年生の春までは・・・・・・・


柚芽(ゆめ)!起きなって!」

 肩を揺さぶられて私は深い闇から目を覚ました。見覚えのある風景、ここは体育館・・・?途端に現実に引き戻された。そうだ、確か今日は入学式で、校長先生の話があまりにも長くてついうたた寝をしたんだった。

「っていうか、これで入学式を終了しますって言った後になんで寝るかなぁ。後ろで見てて退屈はしなかったけどね」

 私、三枝(さえぐさ)柚芽(ゆめ)は、声の主である倉咲(くらさき)(かおる)を見上げた。高校生になって初めて仲良くなった友達である。いつもは長い髪をそのままにしているが、今日は入学式があるためか後ろで1つに縛っている。

 気がつけば周りにいる人はまばらであった。在校生もすでに各自退場した後らしい。

「うっそ!やばいじゃん!・・・・・あれ?なんで薫がここにいるの?」

「あんたがいないから迎えにきたんだよ!」

 ほら行くよ、と薫に腕を引っ張られて私たちは新しいクラス、2年4組に向かっていく。2年生のクラス分けは、文系か理系のどちらを選ぶかで決まり、1年生の終わりにクラス分けテストを受けて最終的に決定する。噂によれば、2年4組は頭の良い文系の集まりだと聞くが、実際のテストで32点を取った私が4組にいるのだから何かの間違いであると思う。

「そういやさっきミッチーが言ってたんだけど、今日転校生が来るんだってさ」

「ふーん・・・珍しいね。女子?」

「ミッチーは男子だって騒いでた。そしたらクラスの女子が期待しちゃって、きっと今教室ざわついてんじゃないかな」

 ミッチーこと向井深雪(みゆき)。彼女は1年生のときからとにかくかっこいい男子をチェックするのが趣味であるという。私も彼女の手帳を見たことがあるが、男子のありとあらゆる情報が書かれてあった。ただ、いまだミッチーの満足するレベルに達する男子は現れてないらしい。


 新しい教室前はなんとなくしんとしていた。

「薫、もしかしてホームルーム始まってるかもしんない」

「・・・・・・もう始まってるみたいだよ」

 薫は扉をがらがらと開けて一旦止まる。ちょっとお腹が痛くて、などといったような言い訳をしてそそくさと教室に入っていく。私もそれに続いた。

 窓際にいたのは1年生のときと同じ担任である足立先生だった。教師3年目のおっとり系美人で密かに男子に人気がある。私自身も言い訳するべきであるかどうか迷っていると、

「あー!!柚芽だ!同じクラスだったんだ」

「ほんとだ。いないから違うクラスだと思ってた」

 その声に私は聞き覚えがあった。確か、今年の春休みに似たような声を聞いた。そう・・・忘れもしない、あの2人の声。

 見ると教壇の前に見知った顔があった。

 背の低いほうが佐々木翔太、高いほうが西村和樹。

 たぶんそのときの私の顔は、とても形容し難いような、あえて言うならかなり嫌そうな、そんな顔をしていたと思う。それを察したのか佐々木は、

「うわー、予想通りの反応だなー」

「えっっっ!なんで・・・?なんで佐々とカズがここに・・・ええっ?」

 どっきりテレビなんじゃないかと本気で疑った。私が混乱していると、足立先生が場違いなくらいのほほんとした声でその場を治めた。

「三枝さんの友達だったのかな?まぁ懐かしい話は後にして、とりあえず席に着きましょう。佐々木君と西村君は自己紹介をしてください」

 理解不能の状態のまま私は窓際から2列目の1番後ろの自分の席に座る。と同時に、ウチの高校の制服を着た佐々木が喋り始めた。

「今日からこのクラスにお世話になる佐々木翔太でっす!すっげー友達欲しいから、俺のことシカトとかしないでくださいよー。超ナイーブですから。

あっ、こっちの西村君現在彼女募集ちゅ・・ぐえっ!」

 相変わらずだ。佐々木のボケに、西村の痛いツッコミ。突然の西村のチョップに周囲は大爆笑している。

「いってーーー!」

「これ以上何か言ったら、今度は佐々の恥ずかしい過去をみんなの前で言うから」

 爽やかに笑って言っているが、西村の場合、有限実行な気がして怖い。

「西村和樹です。俺も友達が欲しいので仲良くしてくれると嬉しいです。中学まで陸上をやっていたので高校でもできればやりたいと思っています。よろしくお願いします」


 佐々木と西村の存在は、すぐに学校中に知れ渡ることになった。

「4組の転校生、なんかかっこよくない?」

「私は佐々木君がいいなぁ。すごく人懐っこいし、明るくて、一緒にいるだけで楽しくなりそう。顔も私好きだし」

「私西村君派。誰にでも優しそうだし、笑顔が爽やか!ほんっとかっこいいよね〜」

「あーぁ。4組が羨ましいよ」

 そんなような会話を女子トイレの中で私は聞いた。なんだか後ろめたい気持ちになったのはなぜだろうか。

「ねぇ、例の転校生君とはどういう関係なの?」

 トイレから出てきた薫がこっそりと尋ねてくる。

「どうって言われても・・・別に小、中一緒だっただけだよ」

「ほー幼なじみかぁ。すごいね」

「や、そんなんじゃないって。腐れ縁っていうか、腐った縁みたいな」

 後で思い返しても、腐った縁というのは実に適切な表現であったと思う。確かにロクなことがなかった。彼らと一緒にいると運気が低迷するのかもしれない。

 それにしても、なぜ2人は転校してきたのだろうか。県内トップ校の秀明高校に通っていたはずだ。

「柚芽」

 その声に振り返ると、渦中の1人である西村が近づいてくる。

「びっくりした?俺たちが転校してきたこと」

「そりゃびっくりするって。なんで転校することになったの?」

 率直に聞くと、相手は困ったように笑った。昔からのクセだ。西村は言いにくいことがあると困ったように笑って口元に手をやる。

「まぁいろいろあってさ、自主退学してきたんだ」

「佐々も?」

 うんと彼は頷いた。これ以上はもう聞いてはいけないような気がした。

 そのとき、西村は初めて私の隣にいた薫に気づいたらしい。

「あ・・ごめん。話してる最中だった?」

「ううん、大丈夫。友達の倉咲薫だよ」

「どうも」

 薫はぺこりと頭を下げる。彼女は他の女子とは違って、外見で人を判断したりはしない。

「よろしく。柚芽がいつもお世話になっています」

「いや、まったくです」

「どういう意味よソレ」

 これは、私に対してかなり失礼な会話ではないだろうか?


「なぁ柚芽〜スピード出し過ぎなんじゃない?けっこー急だぜ?」

「うるっさーい!!じゃぁ降りなよ、重い!」

 後ろには、私の頭に腕を乗せ、立ち乗りしている佐々木の姿がある。傍から見れば、女である私が自転車をこいで、男の佐々木がその後ろに立ち乗りしている図である。

「はぁ・・・なんで私がこんなめに・・」

「ほんとはカズに乗っけてってもらおっかなーって思ってたんだけど、むこう部活見に行ってくるみたいでさ。まぁいーじゃん。俺らダチじゃん」

「だったら代わってよ。私か弱いんだから・・・」

「ちょっ前前!!」

 私の言葉と佐々木の警告が重なった。気づいたときにはすでに遅い。私たちは歩行者にぶつかりそうになる寸前で避けて、バランスを崩してそのまま倒れてしまった。

 膝を豪快に擦りむいた。

「大丈夫か?」

 傍にしゃがみこむ佐々木は無傷でけろりとしている。本当に私の運気がなくなってしまうのかもしれない。

 そのときはっとした。そういえば、ぶつかりそうになった歩行者は無事だろうか。

 見ると、右手で額を押さえてうずくまっている男性がいる。

「あの、すみませんでした!大丈夫ですか!?」

「大丈夫じゃないよ。花瓶が割れたじゃないか!」

 男性の傍には、欠けた青い色の30センチくらいの花瓶がある。

「大切な物なんだ。お前たち2人には弁償してもらうからな。俺の店でホストとしてタダ働きしてもらう。そっちのお嬢さんには体で払ってもらおうかな」

「えぇぇっ!!」

 純粋な佐々木は素直に驚いていたが、私はひねくれているので自分の運勢を呪っていた。

 本当にロクなことが起こらない。

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