第7話 Oh! マイ・ロボット!
我はゴーレムなり。
タッタッタと我のロボットを確保するために、町の中を走っている。
どこだ。我のロボットはどこにあるのだ!
ロボットを探しつつ、走っていて嫌でも目に入るのは壊れた町並みだ。まったく、戦いというものは普通の生活を壊してしまうのだから、よくないよね! ま、起こってしまったものは仕方ない。みんな、がんばるのだ。我も自分のロボットを確保するために頑張るからさ!
たまに、「ありがとう」と声をかけられるので、ブンブンと手を振っておく。よくわからないが、昨日、我の活躍を見たファンかも知れないからね。ファンサービスは大事なのだ。
◆
昨日、たくさん壊したはずなのに、なかなか見つからない。
なぜだろう? 我は疑問を抱きつつも、タッタッタと町の中を走る。
あっ、あったのだ!
我は、壊れた敵のロボットを発見した。へっへっへ。これが我の機体になるのか。
ワクワクしつつロボットを見ていると、がしっと肩をつかまれた。
だ、だれだ!
我が振り返ると、見知らぬ男が立っている。
……。本当にだれだろうか? 我は首をかしげながら、見知らぬ男を見る。
「おまえさんは、昨日の襲撃で活躍したというロボットか」
活躍とな? ふっふっふ、それは間違いなく我のことだろう。我は堂々とうなずく。
「そうか、ありがとな。これから、このロボットは格納庫に持って行くから、どいててくれ」
なっ、どこかに持って行ってしまうのか!?
これは我が壊したのだから、我に所有権があるのではないだろうか!
我は男と壊れたロボットの間に立ち、バッと手を広げる。
これは我のだ! 手出しはさせないぜ! という強い意志を込めて男を見つめる。
「ん? おまえさん、このロボットを触らせないって言うのか?」
我はこくりと頷く。この男、なかなか察しがいいではないかと評価を上げる。
「だがなぁ、壊れているぞ、これ。どうするんだ?」
ふっふっふ、壊れていることなど問題ないのだ。我はどんと自分の胸をたたき、まかせておけとアピールする。
我は壊れたロボットに手を当てて【復元】する。あっという間にロボットは元の姿に戻ったのであった。
「なっ!?」
おし、これで我もロボットのパイロットになれるぜ。
我のテンションがぐつぐつと上がっていく。
ふー! ふー! ふー!
落ち着け、我!
ロボットは逃げたりしないのだ。
我はぐるぐると直したロボットの周りを歩き回る。
どこから乗り込めばいいのだろうか?
背中の方からか? うーん。よく分からないのだ。
「おい、なんで元通りになったんだ!?」
男が何か話しかけてくるが、忙しいから後にして! 我のスキルで元に戻っただけなのだ。それ以上の詳しい事なんて我も知らないのだから、深く聞いてこないで欲しいのだ。あるがままに受け入れてくれ。
我は男の話を無視して、ロボットに乗り込む方法を真剣に探していく。
「なぁ、もしかして、おまえさん、このロボットに乗り込みたいのか?」
ん? なんだ、この男は乗り方を知っているのか?
とりあえず、我はこくりと頷く。
「だったら、ここのカバーを開いて、レバーを回すんだ。捕獲したパイロットからキーを回収したから、コクピットへ入れるぞ」
おぉ! 開いた! ハッチが開いたのだ!
やるじゃん! 男!
我はカンカンと両手を叩く。
我はいそいそと、開いたコクピットへと乗り込むのだった。
◆
現実とは常に残酷なのだ。
我はロボットのコクピットから外に出て、空を見上げる。
このロボットには構造的欠陥があったのだ。
ーー大人用
小柄な我には、身体的特徴という大きな壁が立ちふさがったのだよ。大体1メートルしか身長のない我には、大人用だと大きすぎるのだ。
我が座席に座ると、パイロットは全員大人だから操縦桿に我の手が届かないのだ。
出力を操作するという足元にあるペダルにも我の足は届かない。
なんという設計ミス!
誰でも使える設計にしておくべきであろう!
だれだ! こんな設計でOKを出したのは!
我は、『ちくしょー!!!』と空に向かって大声で叫ぶ。声は出ないけど。
はぁ。どうしたものか。
我が落ち込んでいると男が声をかけてきた。
「ま、まぁ、元気出せよ。小さいロボット」
我はうむと力なくうなずく。そんな我らの目の前に、ガシャコン、ガシャコンと音を立てながら、5メートルほどの今までのロボットより小型のロボットが姿を現した。
『隊長! ここ以外の敵のロボットはすべて格納庫に運びました。これが、って! なんですか!? なんでこの機体だけ直ってるんですか!?』
我の近くにいた男は、「どう説明すりゃいいんだよ」と頬を人差し指でかきながら、小型のロボットを見やるのだった。
◆
小型のロボットは、胸のハッチを開けると小柄な少年が姿を現した。
ん? 我より少し大きいくらいだぞ?
あんなちっちゃい少年が操縦できるのか?
我は男の横で小型のロボットを見上げる。男と少年が何かを話しているが気にしない。我は、よじよじと小型のロボットをよじ登る。そして、「わっ、なんだ?」と驚く少年を押しのけてコクピットの中を見る。
お、おお!
これなら我でも操縦できそうな気がするぞ!
我はコクピットで座席に座ろうとするが、少年から待ったがかかった。
「ちょ、ちょっと、なんなのさ! いきなり乗り込んできて何がしたいんだよ!」
おお。興奮のあまり暴走してしまったようだ。我は少年に、ごめんごめんとジェスチャーで伝える。
我はロボットが欲しいんだよとジェスチャーで伝えるが伝わらない。
「よくわからないけど、敵のロボットを運んだあと、町の復興を手伝わないといけないんだから、邪魔しないでね」
そういうと少年は我をコクピットの外に出し、後から来たトレーラーに敵のロボットを乗せると行ってしまった。
あぁあ、我のロボットが行っちゃったのだ。遠ざかる5メートルほどの小型ロボットを見ていると、隊長と呼ばれた男が我に話しかけてきた。
「なぁ、ああいう小型のロボットで良いなら、廃棄寸前のものがあるから、直せるなら一台やろうか?」
我はぐるっと男の方を向く。ま、まじか!?
この男、我にロボットをくれるというのか!?
男は我の視線にたじろぎながらもうなずく。
「ま、まぁ、おまえのおかげで被害が少なくてすんだからな。どうせ廃棄寸前だし、戦闘力もない作業用のロボットだから、おまえさんにやっても大丈夫だろ」
我は両手を握りしめ、天に向かってこぶしを突き上げる!
やったぜ!
これで我もパイロットになれるぞ!
『ゴーレム、いきます!』
とか言えちゃうんだぜ。はー! 我もパイロットか。夢が広がるなぁ。
「なんか、俺、早まったかな」
と男がぽつりとつぶやいたが、我は男をせかして、くれるというロボットの所まで案内してもらうのだった。
◆
我は男と一緒に格納庫へとやってきた。格納庫の奥へ奥へと進んでいく。
ほほう。いろいろなロボットがあるじゃないか。いいね。
我のものになるロボットはどこにあるんだろう?
しばらく歩くと、男が立ち止まった。目の前にはずんぐりとした足が太く、丸っぽいフォルムのロボットがあった。装甲がごつい。なんかスタイリッシュではないが、いかにもロボットしてますっていう外観だ。
「これが、もうほとんど動かないんだが、作業用のロボットだ。子供たちの訓練にも使われていたロボットだから、おまえにも乗れると思うぜ」
ああ、これが我のものになるのか。
感慨深いな。
我はそっと右手を男の方に差し出す。
『ありがとう。隊長。おぬしの好意は忘れないぞ!』
我の言葉は伝わっていないが、男が我の手を握り替えしてきた。
「ちなみに、このロボットの名前は、ゴンレムだ。大事に使ってやってくれ」
ゴンレムか! 良い名前だ。
我は颯爽とコクピットへと乗り込む。
ふっふっふ。いいね。この世界に来たかいがあったというものだ!
きちんと操縦するための所に手足が届く!
我が操縦桿に手を触れると、ゴンレムのモニターが輝きだした。モニターには何か文字が映し出されている。これはゴンレムって文字なのかもしれないね。
おっし、行くぞ!
簡単な操作方法は乗り込む前に教えてもらったのだ。
我は一歩足を踏み出す。記念すべき第一歩だ。
我は更にもう一歩足を踏み出す。
おお、いいじゃないか! 我はそのままどんどんと歩く。
いける! いけるぞ!
我はうれしくなって、どんどん速度を上げながら、町の外へ向かう。
やはり広いところで性能を試してみないとな。
「おい、ちょっと待て!」
男が何かを言っている。コクピット内まで声が届かないが、男の様子を見れば、我にはわかる。
我が練習もなしにいきなり動かせたことに驚いているのだ。ちょっと言ってくるぜと、我は男に向かって握りしめた拳をかざした。
◆
我はゴンレムに乗って町の外へとやってきた。
結構、でかかったのだ。この町は。出るのに時間がかかってしまった。
我がゴンレムには武装がなかった。試しにコクピット内からラインライトを発射してみる。
チュインとラインライトが飛んでいった。うむ。問題ない。
次に我はラインライトをロボットの手の所に発生させてみた。おお、思ったよりも良い感じだ。ラインライトソードの完成なのだ。いや、呼び方が長い。
コクピット内で我はしばし考える。
この機体の名前はゴンレム。
ゴンレムのソード。ゴンレムソード!
これはゴンレムソードという名前にするのだ!
我はしゅ、しゅとゴンレムソードでの素振りを繰りかえす。なかなか難しいな。
あっ、そうだ。
エイや! と、ゴンレムソードを振り抜きざまに、そのままラインライトを拡大させて飛ばしてみた。
チュインとラインライトが飛んでいく。
ふっふっふ。飛ぶ斬撃なのだ。もっと練習しておこう。
我は努力するゴーレムだからな。
チュイン!
チュイン! チュイン! チュイン!
ゴンレムソードを振り回しながら、我は思った。
『あー! ロボットってすばらしい!』
◆ ◆ ◆
世界の声が休暇中のために、ゴーレムは気付かなかった。
ゴンレムソードから放ったラインライトが、迫り来る艦隊を撃沈していたことに。