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第6話 壊した。直した。気がついた。

 我はゴーレムなり。


 我は敵のロボットの捕獲に失敗して、がっくりと膝を地面につく。やっちまったと右手を地面に叩き付け、うなだれる。


 ゴン、ゴン、ゴンという音が鳴り響いた。


 そんな我の思いとは関係なく、周囲の者達が徐々に騒ぎ始める。


「な、なんだ、あの小型のロボットは?」

「一瞬で敵の機体の頭と手足が消え去ったぞ」

「武器も持っていないみたいなのに、どういうことなの?」

「すごいね! あのちっちゃいロボットすごいね!」


 我のゴーレムイヤーが、周りの我を賞賛する声を捉えた。

 ふっふっふ。もっと褒めてくれて良いんだぜ!


「どこにあれほどの攻撃を放てるエネルギーをもってるんだ?」

「それより、今は早く逃げた方がいいよ」

「いや、シェルターの方からも戦いの音が聞こえてきている。逃げるなら、町の外を目指さないと」


 我は気を取り直して立ち上がる。

 どうやら、皆困っているようなのだ。我もみんなと一緒に逃げていたけど、気がついたのだ。我が敵をさくっと倒してあげた方が、皆うれしいのではないだろうか。


 うむ、そうに違いない。


「ロボットちゃん、あんたすごかったんだね」

「すごかったです! ロボットくん!」


 おばさんとお姉さんが声をかけてきた。我はたいしたことはないんだぜと首を横に振る。そして、左手を腰に当て、胸を右手で叩いて、我に任せておけとアピールする。


「ん、どうかしたのかい?」


 あっ、ダメだ。伝わってない。

 我のアピールに対して、おばさんは首を傾げた。


 しかたない。ここは行動で示すのだ。



 ◆



 我は、その場で両手をあげて、トゥ! と天高くにジャンプをする。

 地面がバキという音を立てた気がするが、小さいことは気にしてはダメなのだ。


 我は空中から町を見渡す。

 巨大なロボットは全部で……


 はっ!?

 いかん! 言い方を間違えたのだ。やり直すのだ。



 我は空中からゴーレムアイを発動させ、町を見渡す。

 我がゴーレムアイが、町の中で戦っている巨大なロボットの姿を捉えた。ロボットは全部で13機いるのだ。


 そろそろ落ち始めたし、ゆっくりとしている暇はない。

 ゴーレムアイで補足した全てのロボットをロックオン。我は65本のラインライトを我の周りに発生させる。


『当たるのだー!』


 という叫びながら、全てのロボットに向けてラインライトを発射するのだった。口がないから叫べないけどね。


 我は落ちながら、巨大なロボットが頭と手足を消し去られ、行動不能になったことを確認する。ふっふっふ、我がゴーレムアイから逃れられる者なし!


 我はズガンという大きな音を立てて、華麗に着地した。



 ◆



 我の華麗な行動に、みんな大はしゃぎなのだ。


 ふふ。落ち着きなよ。みんな。

 これくらい我にとってはたいしたことではないのだ。


 パーン!

 そんな空気に水を差すかのように、銃声が響いた。


 もう! なんなのだ?


 我が音のした方に視線を向けると、胴体だけになったロボットからパイロットと思われる者が出てきて、空に向かって発砲したようだ。


「機体の自爆が作動しないが、まぁ、いい。貴様ら、そのロボットは一体何なのだ!」


 残りの2体からも同じようにパイロットが出てきて、大声で話しかけてきているパイロットの側に銃を構えながら駆け寄った。


 我はあのロボットには自爆スイッチがあるのか、危ないなぁと思いながら、パイロットを見つめる。おっと、いかん。何なのだと聞かれたら、答えてやらねばなるまい。


 我は皆の前に進み出て、パイロットの方へ一歩進み出て口上をのべる。


『我はゴーレムなり! 面白そうだから、この世界にやってきた、メタルなゴーレムなのだ!』


 我は両手を腰に当てながら、どうよと胸を張って口上をのべたが、相手の反応がない。これは、やはり、我の言葉が伝わってないのだ。はぁ、と思いながら、やれやれというジェスチャーをする。


「自分の意思で動いているのか? なんだ、そのロボットは。そんなものはまだどこも開発に成功していないはず」


 パイロットが何かぶつぶつ言っている。まぁ、いいや。我は我のしたいようにしよう。


 我は自爆ボタンがあるという危ないロボットを消し去ることにした。ついでに、パイロット達の銃も消しておくか。我はラインライトで巨大なロボットとパイロット達の銃を、チュインと消し去った。


 うむ、これでよし。


 なぜか、周りの者も相手のパイロットも呆然としている。


 我は何か間違ったことをしただろうか?

 いや、していない。おかしいところは何もなかったはずだ。我は首を傾げる。



 ◆



 町から危機が去った。それは間違いがなかろう。

 それなのに、我はなぜか尋問を受けている。


 なぜだろうか?

 解せぬ。


 我は強面のおっさん数名に囲まれていた。おっさん達の言葉は我には理解できるが、我の言いたいことをおっさん達は理解できない。


 まったく、ままならぬものだぜと、我は首を左右に振る。


 このおっさん達が言うには、どうやら町の被害は我のおかげで最小限に収まったらしい。それについてはお礼を言われた。しかし、我が空中から壊した13体のロボットは敵のものだけではなかったらしい。


 13体の内の4体はこの町の警備のためのロボットだったという。

 なるほどね。我は敵も味方も特に気にしてなかったから、そういう失敗があってもおかしくない。


 だけど、もう壊れたのだろ?

 終わったことについて、あれこれ言われても我にはどうしようもできないぞ?


 そういうジェスチャーをしてみたのだが、一向に伝わらない。部品がないのだとか、今後の警備をどうするかだとか、我にいろいろ言ってくるが、それは君たちが考えることだろうとおっさん達の方を指さす。


 我とおっさん達の話し合いは平行線を辿っていた。



 そんな中、おばさんとお姉さん、この世界で最初にあった少年が部屋の中にやってきた。あとは見知らぬおっさんもいる。


 どうやら、おばさん達にも我の事を聞くらしい。


 少年が我についてサポートロボットだと思ったと説明しているが、我はブンブンブンと首を振り、違う違うとアピールする。見知らぬおっさんーー親方と呼ばれているようだーーが、オレもこんなロボットは買ってないと相づちをうつ。


 少年は、ひどく驚いているが、我は最初からそうアピールしてたじゃんとため息をつく。口がないから、つけないけど。


 おばさんとお姉さんは、我がお手伝いをしっかりとしてくれる良いロボットだと言ってくれた。


「このロボットちゃんのおかげで、みんな助かったんだから、細かいことはいいじゃないか!」

 と、おばさんが尋問をしているおっさん達にくってかかる。


 我もその言葉に大きくうなずき、そうだそうだと手をあげる。


 まったく、ロボットが4体くらい壊れたからって、そんなに怒ることはないだろう。あっ、そうだ。我がロボットを直してあげたら、丸く収まるんじゃないのかな。


 我はそれがいいと思い、おっさん達についてきなと、クイクイと手を動かして部屋の外へと出て行った。



 ◆



 さてさて、やってきました。

 巨大ロボットの格納庫。


 うむ。我ながら、すばらしいほどの精密射撃だな。胴体だけ残して全て消し去っているのだ。ラインライトマスターの腕前はこの世界でも健在なのだ。


 我の後ろについてきていたおっさん達の方を見やり、我にまかせろとトンと胸を叩く。


 いぶかしげな視線を我に送ってくるおっさん達。

 おばさんとお姉さんは、何をするきなんだろうと小声で話し合っている。


 我は巨大なロボットの胴体に近づき、両手をそっとあてる。そして、スキル【復元】を発動させた。


 すると、なんということでしょう!

 手も足もなかった巨大なロボットがあっという間に新品同然の姿に戻ったではありませんか!


 我もいろいろなモノを壊しては直してきたからな。その経験が役に立ったのだ。おし、このまま全部のロボットを直すことにするか。


 我はタッタッタと別のロボットに近づき、【復元】する。


 OK。次に行こう。


 我は、ほどなく全てのロボットを【復元】したのであった。

 敵のロボットを壊したときは、失敗したと思ったけど、我にはこのスキルがあったから、全然失敗ではなかったのだ。



 そうだ、外にある敵のロボットを直したら、我が使っても誰も文句を言わないんじゃないか! 3体だけしか我は消し去っていないから、まだ残っているはずなのだ!


 名案じゃないか!


 待ってろよ!

 マイロボット!


 わふー!


 我はそう思いながら、敵のロボットを探すために、格納庫を後にする。



 ◆ ◆ ◆



 格納庫に残された者達は、目の前の光景に理解が追いつかなかった。


 ただでさえ、「小型のロボットが恐るべき威力の光線で、すべての戦闘用巨大ロボットを壊した」ということさえも、信じがたかったのに。


 壊すためだけの小型兵器なら、自分たちが知らないだけで、どこかで開発されていてもおかしくないのではないかと思い、小型ロボットを調べていた。


 しかし、今、目の前で小型ロボットが起こしたことはありえないと、そこにいた全ての者達は理解した。


 壊れた戦闘用ロボットを、部品も何もないところから、元の姿に戻す。

 そんなことを単なるロボットができるはずがない。



 マルチダと呼ばれる女性が疑問を口にする。


「ど、どうなってるんだい? なんで新品同然にロボットが元に戻ったんだい?」


 それに答える者は誰もいない。しばらくして、マルチダと同じ職場で働く若い女性がぽつりとつぶやいた。


「まるでおとぎ話に出てくる神様みたいですね」


 そのつぶやきを聞いた者達は、すとんと腑に落ちる気がした。

 無から有を生み出す、そんなものは[神]と呼ばれる存在しかいないのではないか、と。



「いや、でも、結構おっちょこちょいなロボットだよ? あのロボットちゃんが神様はないだろう」

「ですよね。ロボットくんが、神様なわけないですよね。あはは」


 2人の女性の声だけが静かな格納庫に響いたのであった。

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