第5話 ゴーレム異世界に立つ
我はゴーレムなり。
元の世界に戻るために、白い空間を探索中の孤高のゴーレムなり。
孤高といえばかっこいいが、ぼっちというと寂しく感じるのだから、不思議なものだ。
さて、次はどこに入れば良いのだろう。
扉にもいろいろな種類があるから、どれにしようか迷っちゃうね。
我はキョロキョロしながら、どの扉に入ろうかとさまようのだった。
◆
おっ、なんか、近未来的な扉があったぞ!
なんか、宇宙船の中の扉みたいじゃないか。ここに入ってみちゃおっかな。
我が扉に近づくと、扉が自動で開いた。
なんと!?
自動ドアではないか!
これは、我にお入りくださいということだね。では、遠慮なく入りますよ。
我は自動ドアをくぐりながら、『お邪魔します』と律儀に声をかけた。
返事はないが、このまま奥に進むのだ。
あっ、やっぱり部屋の真ん中には、四角い透明の箱があるのだ。
ん?
箱の側に人影がある。
あれはこの部屋の主だろうか。
挨拶しとかなくちゃ!
我が片手を上げて『おーい』と声をかけようとすると、部屋の主は箱に手をかざして、突然消えてしまった。
我は、上げた片手をそっと下ろし、透明な四角い箱の側に近づいていく。
我が思うに先ほど消えた人影は、この四角い箱の中に入っていったのだと思う。デカイ鳥が入れるみたいなことを言っていたし、間違いないだろう。
我は四角い箱に近づいて、両手を顔の前に持って来て、ゴーレムズームを発動させる。
ぐぐぐぐっと我の視界がズームアップ。この四角い箱の中にはどんな世界があるのだろうか。
我はドキドキしながら、四角い箱の中を観察していく。
な、なんだと!?
かっこいい!!
ま、まさか、こんな世界があるだなんて。
まるでアニメのようではないか!
デカイ人型のロボットがあるのだ!
ロボット同士の戦いも発生しているし、ここはロボットが対戦する世界なのか!
我のテンションがどんどんと上がっていく!
なんということだ。
こんな楽しそうな世界があるのに、我は見ていることしか出来ないのか!? 我も、ロボットに乗って対戦してみたいのである!
我はゴーレムズームを中断し、四角い箱の周りをぐるぐると回る。
どうにか、我も中に入れないかな。ボタンなんてないし、我には無理なのか。
デカイ鳥は、箱に手をかざして、入ると思えば入れると言ってたけど、それで我も入れたりするのかな。
おし。ものは試しなのだ。やってみよう。
我は四角い箱に手をかざして、『入る』と念じてみた。
すると我は突然、倉庫の中のようなところに立っていたのだった。
◆
ここはどこだろう。我は不思議に思いながら、きょろきょろと周りを見回す。
なんか、箱がいっぱいあるのだ。箱と言うよりはコンテナと言った方が良いかな。ここは倉庫なのかね?
我は箱の間をてくてくと歩く。
これは、四角い箱の中にきちんと入れたと考えて良いのではないだろうか。なんで、こんな倉庫の中なのかはわからぬが、まぁ、いいのだ。我は自分の乗るロボットを手に入れるためにがんばるのだ。
我はどこに行けば、ロボットが手に入るのだろうかと考えながら、倉庫から出ることにした。
どっちが出口かな。
我が倉庫の中をうろうろしていると、突然後ろから声をかけられた。
「あれ、なんでこんなところにサポートロボットが?」
我はびくっとして振り返る。
そこには十代前半と思われる少年が、片手にタブレットのような機械を持って立っていた。
「ダメだよ。サポートロボットが勝手に持ち場から離れたら」
サポートロボットなんのことだろう? 我は首を傾げながら、少年に違うことを伝えようと話しかける。
『違うぞ、少年。我はゴーレムなり。サポートロボットではないのである!』
「さぁ、こっちに来て仕事を手伝って。でも、こんなロボットあったかな? 親方がまたどこかで買ってきたのかも。ちょっと注意しておかないとね」
あれ、我が話しかけたのに、少年にスルーされた。もしかして、我の声は聞こえていないのだろうか?
『あの、少年? 我の言葉が聞こえてる?』
立ち止まったままの我を少年は首を傾げながら見てくる。
「あれ、ついてこないな。もしかして、音声認識できない旧式のロボットなのか? だとすると、使い道がものすごく限られてくるから、困ったなぁ」
やっぱり、少年には我の言葉が伝わってないのである。まろひげの部屋にいた白い人にはきちんと我の声が伝わったのに、これはどういうことだろう。もしかして、四角い箱の中に入ると声が届かなくなるのだろうか?
我が首を傾げていると、少年が我の手を取って、「ついてきて」と引っ張っていくのであった。
◆
我はせっせと仕事をする。
よくわからんが、伝票のようなものをせっせと仕分けしているのである。
文字は読めないが、なんか、記号事に分けたら良いみたいなのだ。
少年に連れてこられた事務所のような部屋で、我がきちんと言葉を理解しているのを確認した後、少年は仕事の説明を開始した。
我は、『いやいやいや、サポートロボットとやらではないから』と、手をぱたぱたと振り、顔を左右に振ってみても、一向に理解してくれなかったのだ。
最近、ジェスチャーでものを伝えてなかったから、我のジェスチャー力が衰えてしまったのだろうか?
もう話を聞かぬ少年だなと思いつつ、我は少年から伝票のようなものを仕分ける仕事の説明を受け、今に至るというわけなのだ。
なんか伝票もいっぱい溜まっているようだったから、ちょっとは手伝ってあげてもいいかなと思ったのだ。我は思いやりのあるゴーレムだからね!
我はせっせと仕事をしていく。
そんな我の仕事ぶりに、同じ部屋にいた事務のおばさんや、お姉さんは驚いているのである。
「セドの坊やが変なロボットを連れてきたと思ってましたけど、すごいですね」
「そうだね。見たことないデザインだし、身体が角張ってるから旧型のポンコツかと思っちゃったけど、最新式でもあんなに見事に動かないね」
「ですよね。なんか、整理整頓までし始めてますし、どこから買ってきたんでしょう?」
「さぁ、でも私たちの仕事が楽になるんだから、ありがたいことだよ」
「そうですね。ロボットくん、ありがとうね」
我は、お姉さんからお礼を言われたので、ふっと笑いながら、右手の親指をグッと立てて、『任せておきな』と伝える。表情は変わらないんだけど。
その仕草に、お姉さんとおばさんは驚いているが、我は気にせず仕事をせっせとこなしていくのであった。
◆
おばさんとお姉さんが休憩に入って、部屋の隅にあったテーブルのところでお茶を飲み始めたので、我も一緒に休憩をする。お茶は飲めないけど、おばさんとお姉さんとコミュニケーションをとってみようと思うのだ。
我は身振り、手振りでここはなんというところなのだ? とか、ロボットってどこで手に入るのですかねと質問をしていくが、おばさんとお姉さんには一向に伝わらない。
すごい変わったロボットもいたもんだねと、おばさんとお姉さんは楽しそうに話し合っている。
だ、ダメだ。
しゃべれないし、文字もわからないから、筆談もできぬし、ジェスチャーまで通じないとなったら、どうしたらいいのだろう。
我はグデーっとテーブルの上に突っ伏した。
◆
ーー2日後
我はどんどんと仕事を覚えていく。
ふっふっふ、この程度の仕事造作もないのだ。
空いた時間には、お掃除をしたので、部屋中ピカピカだぜ。
我をここにつれてきた少年はあれから姿を見せない。我は、おばさんとお姉さんと一緒にせっせと事務仕事に励むのだった。
今日の休憩では、おばさんとお姉さんが心配そうに話し合っていた。
何でも、ここから遠くない場所でロボット部隊を見たという者がいたそうなのだ。そのため、この街を警護しているロボット部隊の中から、4体1組の小隊を編成して、偵察におもむかせたらしい。
おお、ロボット部隊とやらが、ここにはあるのかと思いながら、我はおばさんとお姉さんの話を聞いていた。
◆
ーーさらに2日後
我のがんばりもあって、事務仕事はすっかり片付いたのである。
さすが我。
伊達にゴーレムしていないのだ。
今日の仕事も終わりね、とおばさんとお姉さんが話していたときに、それは始まった。
ドゴーン!!
突如として鳴り響く、轟音!
我は何事だとびくっとしながら、窓の外を見る。するとモクモクと煙が上がっているではないか。
おばさんとお姉さんも驚きながら、顔を青ざめさせている。
「まさか?」
「攻められているの」
「とっととシェルターに逃げるよ」
「はい!」
おばさんとお姉さんは状況を理解して、シェルターへと逃げることにしたようだ。
「ロボットちゃん、さぁ、早く!」
おばさんから声をかけられたので、我もおばさんとお姉さんと一緒にシェルターへと逃げることにした。
◆
シェルターへと急ぐも、敵と味方の砲撃が交差し合う。どれだけの距離があるのかわからぬが、命がけだな。
我ら以外にも同じ方向へと大勢が逃げている。
どこの世界も戦いなのだ。
人というものは世界が違えど、戦いから逃れられぬ生き物なのかもしれぬ。
我はそんな哲学者っぽいことを考えながら、おばさんとお姉さんのあとに着いてタッタッタと走っていく。
お姉さんはまだ大丈夫そうだが、おばさんの呼吸が怪しい。
「ぜー、はー、ぜー、はー」
とものすごい息切れをしているのだ。
あっ、おばさんが立ち止まった。お姉さんもおばさんを心配して、大丈夫かと声をかけている。
「ぜー、あん、たは、はー、はやく、ぜー、ぜー、お逃げ」
「でも、マルチダさん!」
「いいから。はー、はー」
「いやです、マルチダさんと一緒に行きます!」
我も『がんばれ、おばさん!』と伝わらぬ声援をかける。
おばさんは押し問答をしている場合じゃないと思ったのか、顔を上げ、また走りだそうとした。
しかし、そんな我らがいた横の建物へ砲撃が飛んで来て、建物が我らの方へと崩れてくる。おばさんはとっさにお姉さんを抱きしめるようにして、庇おうとする。
我は、建物の下敷きになろうとしているのが、おばさんとおねえさんの二人だけじゃないと瞬時に判断を下した。我は周りの見えるゴーレムだからね。
我が唯一使える魔法、ラインライトを落ちてくる建物の残骸に向けて撃ち出す。
巨大なラインライトが、建物の残骸を消し去り、天へと昇る。
我は片手を上げて、ちらりとおばさんとお姉さんの方を見る。
どう、かっこよかった?
あっ、ダメだ。見てくれていない。
でも、おばさんとおねえさん以外の周りの人は、ちゃんと見てくれていたようで、「なんだ、あれは?」「新型のロボットか?」とざわついている。
おばさんとお姉さんもどうなったのか理解できないといった表情できょろきょろと周りを見回している。
そんな中、ゴゴゴゴゴという音と共に、武器を手にした3体の巨大なロボットが姿を現した。我が放った巨大なラインライトを見たから、近づいてきたのかな。
そんなことよりもかっこいいのだ!
わふー!
巨大なロボットが動いているぜと我は両手を握りしめ、うれしくなる!
いいな!
いいなぁ!
巨大ロボットいいなぁ!!
我の喜びとは反対に、お姉さんが「あれは敵の機体だわ」と、ぽつりと呟く。我の耳は、お姉さんのつぶやきを聞き逃さない!
あれは敵の機体か!
おっし! 我のテンションがぐぐっと盛り上がっていく!
我のテンションの盛り上がりとは対照的に、おばさんや、お姉さん、周りにいる人々は蛇に睨まれたカエルの如く動かない。いや、動けない。敵の巨大なロボットの銃口が、動きを止めている人たちに向けられる。
我はおばさん達の前へと進み出て、巨大なロボット達の前へ立つ。そんな我の様子におばさんとお姉さんは驚きの声を上げる。
「ろ、ロボットちゃん。危ないよ!」
「ロボットくん! 動けるなら逃げて!」
ふっ、案ずることはない。
我の魔法はこの世界でも使えるのだ。
我は15本の大きめのラインライトを我の周囲に発生させ、敵のロボットへと向けて放つ。放たれたラインライトは、敵のロボットの頭、両方の腕と足を一瞬で消し去った。
その様子におばさんやお姉さんはもとより、周囲の人たちは呆然とする。
ズズーンという大きな音を立てて、3体の敵のロボットの胴体が、地面へと落ちたのであった。
我はどうよと思いながら、おばさん達の方をちらりと見やる。
「えっ? えっ?」
「一体、何が……」
ふっふっふ、おばさん達が驚いてるのだ。やったのだ!
我が満足しながら、敵のロボットを見る。
あっ!?
しまったのである!
全部の敵のロボットの同じパーツを消したらだめなのだ。それぞれ違うパーツを残しておいた方がよかったのである!
失敗した!