第4話 放置された世界
我はゴーレムなり。
元ひげもじゃ、いや、もう違うな。
まろ眉毛のちょびひげ、略してまろひげのお世話が終わったから、部屋を出て行こうかと考えたが、ちょっと待てよ。
そういえば、まろひげの管理している世界はどうなっているのだろう。
すやすやと寝ているが、世界の管理をしていないんじゃないのかね。まろひげは。
我は部屋の中央に置かれている透明な四角い箱の前まで進む。
デカイ鳥は箱の中の様子までちゃんと見えているようだったけど、我にも見えるのだろうか?
我はゴーレムアイを作動させて、箱の中をじっと見つめる。
うーん、我の視界はまったく変わっていない。もっと拡大して見えたりしないのだろうか。
ゴーレムスキャンはあったのだ。ゴーレムズームとかもあるかも知れないぞ。
我は目の前で手を輪っかにして、双眼鏡のようにし、『ゴーレムズーム発動!』と唱えた。
すると、我の視界がぐぐぐぐっと変化していくではないか。
こ、これは、拡大できているのである!
わふー!
やったのだ! 我の体に秘められた能力がまた一つ解き明かされたのだ!
◆
我はゴーレムズームを発動させたまま、まろひげの管理している世界をのぞき込む。
どれどれ。どうなっているのだろうか。
うわぁ。なんというか、すさんでいるのだ。
これは、あれだな。まろひげが力を注いでいないから、この世界に力がなくなっているんじゃないのかと、我は思うよ。
あっ、人だ。
人というか、宇宙人だな。いや、宇宙人というのとも違うか。
なんて言えば良いのだろう。
まぁ、人でいいや。
白い肌に青い髪の人がいるぞ。
なんかみんな疲れているのだ。
せっせと畑を耕しているのに、作物が実らなくて落ち込んでいるのである。
なんという悲しい世界なのだ。
夢も希望もない世界を生きているようではないか。
我はまろひげをキッとにらみつけ、『ちゃんと管理していないからこうなるんだよ』と憤るのだった。
◆
我は、さらにまろひげの管理している世界を確認していく。
白い人たちは一応、村のような場所に住んでいるようだ。
あっ、なんかみんな動き出したのだ。
ん?
これは祭壇か?
みんな祭壇のまわりに移動しているぞ。
何をするつもりなんだろう。
なんか、祭壇のまわりにいる者達は思い詰めた顔をしているし、何かイベントが起こるのではないだろうか。
我はどきどきしながら白い人たちの様子を見守る。
おや、なんか女の子が一人祭壇の上に寝かされたのだ。すやすやと寝ているようなのだ。うーん、これはひょっとしてひょっとすると生け贄というやつなのではないだろうか?
いや、まさかな。
我の予想はよく外れるから、早とちりはダメなのだ。
自重できるゴーレム!
それが我なのだ!
我はどきどきしながら、さらに見守る。
するとナイフを手に持った祭司みたいな者が祭壇の前に現れた。
あっ、これは、あかんパターンや!
我は祭司が祭壇の上に上がる前に、『やめよ!』と声をかけてみた。
すると白い人たちには我の声が聞こえたのか、びっくりしたように周りを見回したり、空を見上げたりしている。
おお、どうやら我の声が聞こえているようなのだ。
我はしゃべれないはずなのに、これはどういうことだろう?
あれか、育成ゲームだから、声が届くのか?
まぁ、いいや、このような生け贄はやめさせるのがよいのである。
『我は生け贄など欲してはおらぬ』
白い人たちは慌てて、ひれ伏し始めた。
なんかしゃべっているようだけど、我には相手の声は聞こえてこないのだ。
とりあえず、それっぽいことを言って、世界に力を注いでみようかな。
『そなた達が清く正しく生きていくならば、我が世界に力を与えよう』
我は厳かに言葉を告げると、ゆっくりと慎重に力を注いで行った。
やっぱり、なかなか力が満ちていかないな。
なんでだろう。やっぱり、世界って言うだけあって、器が大きいのかね。
おっ、なんか白い人たちが驚きながら、きょろきょろし始めたぞ。
あっ、ちょっとずつ草木が緑を取り戻してきているのだ。
我のやり方は間違っていないようだな。
白い人たちが、喜びだした!
泣いている者もいるし、なんか我もうれしくなってきたぜ!
もっと気合いをいれてやるのだ!
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
我は力をどんどんと世界に注いでいく。
おお、我の力を注げば注ぐほど、すさんだ世界に力が満ちて行くではないか。何これ、ちょっと面白い! 楽しいじゃないか! なんで、こんな楽しいことをまろひげはやっていないのだ!
白い人たちの住む世界が、きらきらと輝きだした。
ま、まぶしいぜ。
◆
我は力を注ぐのをやめて様子を見守ると、世界に緑があふれ、みずみずしく潤っていた。そこは、いままでのようにすさんだ世界ではなくなっていた。
うむ、このくらいでやめておくのが良いかな。
何事もほどほどが一番だからな。
白い人たちが、空に向かって手を上げている。なんかものすごく喜んでくれているぞ。ふっふっふ、そんなに喜んでくれると我もうれしいのだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ん?
なんか聞こえ始めた。
我の耳がおかしくなったのか?
「ありが、、、」
「、、、とう、ざいます」
いや、我の空耳ではないのだ。やはり、何かが聞こえてくるのだ。
我はじっと耳を澄ます。
その声は徐々に大きくはっきりと我の耳に届くようになってきた。
「ありがとうございます!」
「神様! ありがとう!」
「これで私たちは救われる」
「緑がいっぱいになったー」
「うぉおおおん!!」
なんか、感謝の言葉なのだ。もしかして、これは白い人たちの声なのではなかろうか?
なぜ聞こえるようになったのか、わからぬがちょっと間違いは正しておかないといけないな。
『違うぞ。我は神ではない』
我に聞こえていた声がぴたりと止んだ。やはり、今までの声は白い人たちの声だったのだな。
「あのそれではあなた様は何者なのでしょう?」
何者なのでしょうかと聞かれては答えねばなるまい。
『我はゴーレムなり! そなたらの様子を見て、見るに堪えなかったので力を貸したまでのことだ。しかし、我はもう行かねばならぬ。 我の注いだ力は簡単には尽きぬだろう。後は、そなたらがどう生きるかだ』
白い者達は互いに顔を見合わせながら、うなずきあっている。何か思うところがあるようだな。
最初に見た時とは違って、みんなに活力がわいてきているようなのだ。
まぁ、これで白い人たちは大丈夫そうなのだ。生け贄という馬鹿なこともやめたようだし、このくらいで我は、元の世界につながっている扉を探すことにするのだ。
『我は行く。さらばだ。達者に暮らせ』
「ありがとうございます!」
「ゴーレム様! ありがとう!」
「この世界を守っていきます!」
「ありがとー!」
白い人たちの声を聞きつつ、我は透明な箱から離れるのであった。
◆
我はすやすやと眠っているまろひげの前に立ち、まろひげを見下ろす。
まったく、まろひげがきちんと管理をしていないから、白い人たちが困っていたではないか。白い人たちに代わりに我が一発たたいておくのだ!
我はバシっと、まろひげをたたいた。
まろひげは「ぐわっ」という声をあげたが、まだ眠っている。
まったくちゃんと働けよと思いながら、我は部屋の扉を上に開けて、部屋から出て行くのであった。
◆
ーーまろひげ視点
突然、頭に衝撃があったことまでは覚えている。
どうやらワシは気絶していたようだ。
何者かがワシの部屋にいたような気がするがなんなのじゃろう。
ワシは自慢のあごひげをいじりつつ、体を起こす。
ふー、やはりワシのあごひげはいいのぅ。このつるつるの地肌がワシの男らしさをアップさせておる。
つるつる?
はて、どういうことだ?
ワシは両手で顔を触るが、つるつるだ。ひ、髭がない!
「な、なんじゃこりゃああああ!!」
ワシは大慌てで飛び起きる。な、何があったのじゃ!? ここはワシが管理している世界の部屋じゃ。間違いない。部屋の中央には世界儀があるしの。
しかし、きれいに片付けられておる。部屋が汚すぎたので嫌になって、床に次元シールを貼って、その中で寝ていたから間違いない。ワシは自分の体をぐるりと見る。すると、ワシの体に破られた次元シールが貼りついていた。
なっ!?
次元シールが剥がされたのか!?
しかも力任せにだと?
だから、次元シールの効力が切れて、ワシはこの部屋の中にいたのじゃな。
な、何者がワシの部屋に入ってきたのだ?
ワシはおそるおそる部屋の様子を探るが、すでに部屋の中にはワシ以外は誰もいない。
「掃除されているくらいなら、まぁ、よいか」
ワシは独り言をつぶやきながら、念のため管理している世界儀の様子を見てみる。
きちんと力が満ちておる。これならまた眠っても大丈夫そうじゃのう。
たまにはホワイティス人らに声をかけておくかと思い、ワシは世界儀の前に立ち、ホワイティス人らに管理者として、神としての言葉を告げた。
『世界は変わりないか?』
するとホワイティス人らは、空を見上げて、何かを話し合っている。
……なぜ、ワシの言葉に誰も返事をしないのじゃろうか?
ワシの言葉に反応はしているから、ワシの声は届いているはずだ。
念のため、ワシは世界儀の管理項目を表示させてみると、そこには筆頭管理者の名前がワシの名前ではなくなっていた。
「ゴーレム、だと?」
ゴーレムとはなんだ!?
ワシは慌てて、他の管理項目もチェックする。
ワシに対する信仰ポイントが320なのに対して、ゴーレムとやらに対する信仰ポイントが振り切っておるではないか!? これがホワイティス人らの声がワシに届かぬ原因だ!
さらに世界儀には今後、数億年は力を注がなくても大丈夫なほどの力が注がれておる!
こ、これはいったい何があったのじゃ!