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第3話 お掃除

 我はゴーレムなり。


 デカイ鳥のお手伝いをした後、部屋の扉から外に出た。我は白い空間に浮かぶ扉を見渡す。


 数え切れないほど多くの扉がある。


 このひとつひとつの扉の先に、引きこもってゲームをしているものたちがいるのかと思うと、大丈夫かと心配になってくるね。他者とのコミュニケーションを取らなくて大丈夫なのだろうか。



 おっと、今は人の心配をしている場合ではない。



 もしかすると、この数多ある扉のひとつに我がいた世界があるのではなかろうか。


 うむ、多分、そんな気がする!

 我のゴーレムセンスが、きっとあると囁いてくるぞ!


 我は両手を握りしめ、いようしと決意を新たに探索を再開することにした。


 とりあえず、すぐ横の扉に入ってみようかな。



 洋風のドアノブのついた扉の前に立ち、我はコンコンとノックをする。

 我は先ほどのことも踏まえ、中から返事が返ってくるまで待つのだ。我は礼儀正しいゴーレムだからな。


 

 なかなか返事が返ってこない。


 我は再度コンコンコンとノックする。



 ーーだいたい30分後


 あれから、何度もノックをし、待つのを繰り返しているが、一向に返事がないのだ。


 どういうことだろう。

 お留守だろうか。


 仕方ない、立ち去るかと思い、我は扉を離れようとするが、我の脳裏に万が一の可能性が浮かんできた。


 相手は引きこもりなのだ。もしかすると病気で動けないのかもしれんぞ!


 立ち去るのが正解か!?

 否である!


 ここは中に入って安否を確認することこそ大事なことなのだ!


 我はそう思い、ガッと扉のドアノブを回して、扉を引いて開けようとする。


 バキッ!!


 ……。


 な、なんてこった。


 ドアノブが壊れたのである。

 バキッという音とともに、ドアノブが外れてしまったよ……。


 ふっ、だが心配はいらぬ。我には【復元】のスキルがあるから、直せるのだ。我は伊達にいろいろなものを壊してないんだぜ。


 我はドアノブをそっと扉に近づけ、直れ、直れと念じる。すると、あら不思議。ドアノブが元どおりに戻りました。


 おし、ドアを引いて開けるタイプの扉ではなかったのだ。ということは、この扉は押して開ける扉だったのだな。


 我は今度は、ドアノブを回して反対側に押してみた。


 ん?

 ビクともせんぞ?

 鍵でもかかってるのか?


 いや、鍵がかかっている感じではないのだ。鍵がかかっているなら、もっとガチャガチャ動くはずだし。


 この扉はビクともしないから、何か違うはずなのだ。


 力か?

 我の力が足りぬのか?


 我は、えい!っと力を込めて押してみる。


 バガっという音と共に、ドアノブのとこだけ穴が開いて壊れてしまった。


 ……。


 な、なんて脆い扉なのだ。


 我は穴の開いた扉に片手をっこんだまま、しばし考える。この扉には構造的欠陥があるのではないのだろうか。


 いや、そんなことは後で考えれば良い。まずは扉を直すのが先決だ。


 我はドアノブを掴んだままの右手を扉から引っこ抜き、直れ直れと念じる。


 おし、直った。


 この扉はどうなってるのだろう。


 引いてダメ。

 押してもダメ。


 まさか、和風の扉のようにスライドさせるとかじゃないよな。


 ふっ、ありえない可能性も試してみる。それが大事なことなんだぜと思いながら、我は扉をスライドさせてみるが動かない。


 まぁ、思った通りなのだ。スライド式ではなかったのである。


 あぁ、シャッターみたいに上に開けるとかじゃないよね。

 とりあえず試してみるか。


 我はどうやって開けるのだろうかと思いながら、ドアノブを持って扉を上に上げてみた。


 あ、空いたのだ。


 

 こんなところでこんなトラップがあろうとは驚きなのである。やはり、どんな可能性も否定してはいかんな。


 我は『お邪魔します』と言いながら、扉の中へと入っていく。


 こんなひねくれた扉の部屋の主は、きっと変わり者なのだ。もしかすると、もう救助もこないうちに一人寂しく孤独死してるかもしれないぞ。


 我は、アセアセと扉の中へと駆け込んだ。



 ◆




 ーー汚い。


 我が部屋に入ってまず思ったことが、これだ。


 ここは非常に汚いぞ。


 いわゆるひとつの汚部屋だ。

 もう一度言おう、ここは汚部屋である。


 もう!


 我のお掃除魂がふつふつと煮えたぎってくるよ!

 こんなのはダメなのだ!

 きれいにしておかないとダメなのだよ!


 我はせっせとお掃除を開始した。


 


 ◆



 あー、もうなんでこんなに散らかすかな。


 もう!

 みかんの皮はきちんとゴミ箱に入れないとダメなのだ!


 なんかよくわからない文字で書かれた本が無造作に置かれているぞ。

 あっ、このページが折れちゃってるじゃん。


 もう!


 我は折れているページをすっすっと手でこすってシワを伸ばす。


 都合良くゴミ袋があったので、我はせっせとゴミをゴミ袋に入れていく。

 なぜ、ゴミ袋があるのかなど考えてはダメだ。


 ゴミ袋がある。今はそれだけが大事なのだから。



 これは燃えるゴミ。

 これは燃えないゴミ。


 ん?


 なんだ、これ?

 ちょっと変わったシールみたいなのが、床に貼られているぞ。


 仕方ない。剥がしておくか。


 我は、シールの縁をかりかりと指でこすり剥がしていった。



 ◆



 部屋に落ちていた布を使って、我はきゅっきゅと床を磨いていく。

 伊達に【磨きしモノ】の称号を持ってないんだぜ。


 お掃除をしたことで、部屋の中央には、デカイ鳥の部屋と同じように、四角い透明な箱がその姿を現した。


 我はぴかぴかになりつつある部屋を眺めて、うんうんと満足してうなずいた。






 はっ、いかん!

 我はここに掃除をしに入ってきたのではない!


 部屋の住人が倒れていないか確認するために入ってきたのだ。


 うーん、汚部屋はほとんど片付いたけど、部屋の住人がいないぞ。

 どういうことだ。


 すると、部屋の隅にまとめていたゴミの山から、がさっと音がした。


 我は突然の事に少しびくっとする。


 なんだろう。

 何かいるのか?


 我はおそるおそるゴミの山に近づく。

 するとゴミ袋の中に一人のひげもじゃの男がいた。


 もしかして、我は燃えるゴミと思って、ゴミ袋に入れてしまったのだろうか?


 いや、さすがに我もゴミとひげもじゃの区別はつくのだ。

 おや、ひげもじゃの体についているのは、我が床から剥がしたシールだぞ。


 ……。うん、だからどうした。シールがついているけど、我にはさっぱりわからぬ。

 とりあえず、ひげもじゃをゴミ袋から出そう。



 我はよっこいせとひげもじゃをゴミ袋から出す。


 ひげもじゃは、すやすやと寝ている。

 よくこんな状態で寝られるものなのだ。


 我はゆさゆさとひげもじゃを揺する。


 するとひげもじゃは、ばっと我の手を払いのけた。


「あと3万年寝るんじゃから、揺するんじゃない!」


 ひげもじゃは怒鳴り終わると、またすやすやと寝息を立て始めた。


 我は再びひげもじゃをゆさゆさと揺する。


『ひげもじゃ、ひげもじゃ。我はゴーレムなり。ちょっとひげもじゃに用があるんだけど』


「だー!! じゃかあしい! ワシは寝てるんじゃ! 起こすな。おまえの好きにすればいいだろう!!」


 そう言ってひげもじゃは、まったくとつぶやきながら、また寝始めたのだった。



 ◆



 怒られてしまったのだ。

 我はしょぼんとなりつつ、ひげもじゃの顔を見つめる。


 結構、年をとった感じの顔をしている。

 ひげもじゃは、ひげを剃るのも面倒なんだろうな。


 そうじゃなかったら、こんなにひげもじゃにはならないのだ。

 好きにすればいいと言っていたし。


 おし! 我が髭を脱毛しておいてあげよう。


 我はひげもじゃの顔に手をかざし、スキル【脱毛】を発動する。


 すると、なんということでしょう!

 あれほどもじゃもじゃだった髭が、あっという間につるつるになってしまいました。


 へへへ、良い仕事したぜと思いながら、我はひげもじゃの顔に手をかざしたままでいると、元ひげもじゃがごろりと寝返りをうった。


 あ、ああああああ!?


 も、元ひげもじゃの眉毛まで【脱毛】しちゃったよ!

 ま、まずいのである。


 今のは不可抗力だが、このままでは元ひげもじゃに申し訳ない。


 我は両手の人差し指を、元ひげもじゃの眉毛があった場所にちょんとくっつける。

 今度は、スキル【発毛】の出番なのだ。


 生えろ、生えろ。


 おし!

 ちょろっと生えてきたのだ。


 お公家様のような、まろまゆげが生えたから、まゆげなしよりは良くなっただろう。

 これで大丈夫かな。


 我は元ひげもじゃの顔を見つめながら考える。


 これじゃ、ちょっとアクセントが足りないね。

 我は元ひげもじゃの花の下に、スキル【発毛】でちょびひげを生やした。

 

 うむ!


 いいんじゃないかな。

 まろ眉毛にちょびひげ。

 おしゃれなのだ。


 元ひげもじゃが目覚めたら、ファッショナブルな外見に驚くだろう。

 我は気を利かせて、【脱毛】は永久脱毛としたから、ぬかりないのだ!


 何万年寝ようとも、ひげが生えてくることはないんだぜ。



 さて、元ひげもじゃのお世話もしたし、この後はどうしようか。


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