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第2話 デカイ鳥のお手伝い

 あー、びっくりした。

 うまいこと言っちゃったなんて、満足している場合ではないのである。


 まさか、部屋の中に鳥がいるとは思わなかったのだ。


 それにしてもデカイ。


 我はしげしげとデカイ鳥を見る。これは、あれだな。大きいスズメだな。色は黄色ベースだが、形はスズメなのだ。


 さっきからデカイ鳥が、我をじっと見ている気がする。つぶらな瞳が我には、なんだこいつはと思っているように見えるぞ。


 とりあえず、聞こえぬとは思うが挨拶をしておこう。


『はじめまして。我はゴーレムなり。

 道に迷っているので、しばしお邪魔します』


 挨拶をして、ペコリとお辞儀をする。デカイ鳥に挨拶をしても、我の言葉は伝わらぬだろうが、そこは気持ちの問題なのだ。


 我が頭を上げると、目の前のデカイ鳥が、まばたきを何度か繰り返した後に口を開いた。


「えっと、はじめまして。

 ボクは、チュンヂュンチュチュンです。

 新米管理者ですが、よろしくお願いします」


 なっ、鳥が喋った!?


 まじか!?

 鳥が喋るとは!?

 ここは我が今までいた世界とは違うのか?


 うーん、よくわからない。

 わからないことは考えてもダメだ。考えないでおこう。


 我の挨拶に返事をしかえしてくるとは、知恵のある鳥なのだなと感心する。



 ん?

 我の挨拶に返事をした、だと?


 もしかして、我の言葉が聞こえていたのか?

 いや、でも、我には口がないから喋れないよ。


 我が首を傾げていると、デカイ鳥が話しかけてきた。


「あのぅ、ここは僕に初めて任された世界なのですが、あなたはなぜここにこられたのですか?監査にでも来られたのでしょうか?」


 初めて任された世界とはどういうことだ?

 監査ってどういうことなんだろう?



 たしかに我はゴーレムキングダムで毎月月末にハンコを押してるから、監査してると言えるだろう。まぁ、誰に頼まれたわけでもないけれど。ハクがハンコを押した後に、すぐ横で我もハンコを押してるのだ。


 そして、ちょっと気になったところで、質問をして仕事してますアピールをしてるのさ。これはどうなっているのかね、という質問を書いて見せるだけの簡単なお仕事なのだ。



 我はとりあえず、よくわからないが頷いておくことにした。


『うむ、その通りだ。よくわかったな』


 すると、驚いたようにデカイ鳥は目を見開いた。そして、あわてて質問をしてくる。


「あの監査官さん、ボクが管理する世界に何かまずい点でもあったのでしょうか?」


 あ、やばいのだ。なんか、デカイ鳥がマジな反応を返してきたぞ。


 これは軽く頷いたら、ダメなことだったようだ。我の思い描く監査と、デカイ鳥が思い描く監査に温度差がある気がするぞ。



『いや、何、まずい点などないのである。ただ鳥君、君が君の役割をきちんと理解しているか、確認しに来ただけなのだ』


 デカイ鳥は安心したように、大きく息を吐いた。


「ああ、よかった。何かまずい点でもあったのかと思いましたよ。

 それで、ボクの役割ですよね。もちろん理解してます。こちらを見てください」


 そう言ってデカイ鳥は、ガラス張りのような四角い箱が我に見えるように少し移動した。


 我はなんだろうと、四角い箱を覗き込む。箱の中には、黒い空間の中に青い星が浮かんでいた。まるで、宇宙に浮かぶ地球を箱の中に入れているみたいだ。


 うわぁ、なんだこれ。ちょっとオシャレだ。どうなってんのさ。


 我は、箱の周りをくるくると回って、いろんな角度から観察する。


 で、これがなんなのだろう。さっぱりわからぬ。



 あっ、そうだ。デカイ鳥に念のため確認しておくか。


『鳥君、ひとつ質問なのだがね』


 デカイ鳥は緊張した様子で、「はい」と返事をする。


『君には我の言葉がきちんと伝わっているのかね?』


 ビクッとして、デカイ鳥は首を傾げる。


「あの、それはどういうことでしょう?」


 うーん、やはり、このデカイ鳥には我の言葉が伝わっているのだ。声に出していないのに伝わるとはどういうことだろう。


『いや、我が部屋に入ってきた時にね。その』


 デカイ鳥は、ああと大きく頷く。


「はい。きちんと聞いていましたよ。監査官さんが楽しそうに、ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレムって歌ってましたよね」


 はぅあ!?


 我の歌を聞かれていたのだ!

 超恥ずかしいんですけど。鼻歌を聞かれることほど、恥ずかしいことはないのだ。


 ふー、ふー、ふー。

 落ち着け、落ち着くのだ。


 ここは歌のことは、なかったことにして話を進めるのだ。大丈夫、我ならできる。


 デカイ鳥は首をかしげながら我に質問してくる。


「あのどうかされましたか?」


『いや、歌のことではないのだ。我は鳥君が本当に理解しているのかを知りたいのだよ』


「えっと、それはどういうことでしょう?」


 我は背中の後ろに手をやり、デカイ鳥の周りをゆっくりとまわる。


『鳥君、君なら分かっていると思うのだが、敢えて言おう』


 チュンとデカイ鳥はのどを鳴らす。


『君は我に、四角い箱を見せたが、それだけではダメなのだ。相手にきちんと自分の言葉で伝えることが出来てこそ、初めて理解していると言えるのだよ。分かるかね』


 はっとしたように、デカイ鳥は翼をバサッと広げた。


「た、確かに。監査官さんの言うとおりです」


 我がそれらしく言った言葉に、デカイ鳥は何かを感じたようだ。デカイ鳥は、何かを決意したように我に話しかけてきた。


「監査官さん、どうかもう一度ボクに説明をさせてください!」


 我は『もちろんだとも』と、厳かにうなずいた。



 ◆



 デカイ鳥が四角い箱の横に進み、説明を初めてくれた。


「まず、これはボクが管理をしている世界です」


 ?

 さっきも言っていたけど、管理している世界とはどういうことなのだ?


 我は手を上げて質問する。


『鳥君、世界を管理しているとはどういうことだね?」


「はい。この四角い箱はボクが管理者として、力を注いでいる世界です。今はまだ知的生命体はいませんが、ようやく生命体が発生しました。これから長い年月をかけて力を注いで行けば、何億年か先には生命体の進化が起こるのではないかと考えています」


 ……。


 何を言ってるのだ、この鳥は。 何億年? どれだけの寿命があるというのだ。


『鳥君、君は管理者と呼ばれる以外に別の呼ばれ方もするのかね?』


「はい。管理者以外には、神と呼ばれることもありますね」


 なんと、神だとな? 天界にも女神がいたけど、あれとはまた別な気がするな。神ってなんなのだろう。

 いや、気にしたらダメだ! 神のことは忘れよう。


 今までの内容を言葉通り受け取るのである。この四角い箱は、このデカイ鳥が管理している世界ということだ。


 ふむふむ、我には分かってきたよ。


『鳥君、この星を管理することで君には何か良いことがあるのかい?』


「はい、あります。自分の担当している世界や星が発展していくと、後々その世界で暮らせることができるようになるからです! だから、できるだけ立派な世界になるように、管理していっているのです」


『ほう、この四角い箱の中に入ることができるのか?』


「今は無理ですけど、一定以上のポイントがたまると世界に入ることができます」


 なるほどな。我には今までの説明で、全て理解できたのだ。

 デカイ鳥の説明はわかりにくかったが、簡単にいうと育成ゲームをしているということだな。

 

 外にあったたくさんの扉の先には、引きこもった管理者と呼ばれる者達がいて、一人で寂しく育成ゲームをしているのだ。そして、自分が管理している世界に入って遊べるようになるまで頑張っているということなのだろう。


 我はデカイ鳥を優しく見つめる。

 引きこもってないで、もっと扉の外に出て体を動かした方がいいよ、と視線で語った。


 しかし、我の思いは伝わらなかったみたいだ。

 デカイ鳥は首をかしげている。


 しかたない、この寂しい鳥に少し話を合わせてあげるのだ。


『発展した後は、世界の中にはどうやれば入れるのだね?』


「簡単ですよ。世界に手をかざして、入ると念じれば入ることが出来て、世界から出ると思えば、出ることが出来ます」


 案外、出入りは簡単なのだな。


『ありがとう、鳥君。君は確かにきちんと理解しているようだ』


「いえ、監査官さんが、ボクに大切なことを気付かせてくれたおかげです!

 こちらこそありがとうございました!」


 我は、ふっとほほえむ。表情は変わらないけど。


『なに、大したことはないさ』


「いえ、監査官さんのおかげですよ!」


 なんだ、このデカイ鳥。我をそんなに持ち上げてくるとは、なかなか見所があるやつではないか!


『チュンデュンチュチュンくん』

「チュンヂュンチュチュンです」


 あれ、違った?


『我はもう行くけど、最後に少しだけ君の担当している世界に力を貸してあげよう』


「えっ、でも」


 我は、デカイ鳥の声を遮り、声をかぶせる。


『遠慮するな! これは頑張っている君への我からのプレゼントなのだ!』


 我は四角い箱の近くまで進み、手をかざす。そして、魔力を四角い箱に注いでいく。


 あれ、なんか、全然、四角い箱に力が満ちていっていない気がするのだ。なんでだろう?


「す、すごい! これほどの力を短時間で注ぐなんて」


 デカイ鳥が感動しているが、我は納得がいかぬ。我の力はこんなものではないのだ! この程度で感動されては困るのである。


『はぁああああああ!!!』


 我は、全力で魔力を注ぐ!


 もっと、もっと、もっと!

 我のありったけの力を注いでやるのだ!


「なっ!?」


 おっ、四角い箱が徐々に光り出したのだ。


 いける! いけるぞ!


『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


「ちょ、ちょっと。ちょっと待ってください、監査官さん!」


 我は気にせず、力を込める。遠慮するな、デカイ鳥よ!


『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』


 四角い箱がまばゆく輝いた。それと同時に、ゲシっとデカイ鳥が我にキックをかましてきた。我は力を注ぐのに夢中で気付かずに、もろにキックを受けてしまう。


 ごろごろごろと転がる我。


 何をするのだと思いながら我は起き上がる。デカイ鳥が「な、なんてことだ」と言いながら、四角い箱を呆然と見ている。


 我には特に変わっているようには見えないけど、何か変わったのかな。


「せ、生命体が、い、異常、大変だ。進化してしまっている」


 おっ、我には分からないが、良い状態? に進化したのか。やったね。


「なんてことだ、これは何億年か先に起こるはずの進化、いや、生命体が話し出している!? なんだ、これは? こんなことが起こるなんて聞いたことがない」


 デカイ鳥は、感激のあまり、四角い箱を翼でつかみ、食い入るように見ている。

 我のことなんて眼中にない様子なのである。


 ちょっと目が血走ってて怖いのだ。


 お邪魔しては悪いなと思い、我はデカイ鳥に一礼して、入ってきた扉から外に出て行ったのであった。

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