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第20話 ヒゲはオシャレ?

 我はゴーレムなり。


 デカイ鳥が心配になって駆けつけようとしたが、老婆に引き留められてしまっている。この老婆は他者を助けようという気がないのであろうか?


 我が老婆をいぶかしげな視線で見ていると老婆が話しかけてきた。


「で、ゴーレム。あんた、まず一つ目って言ったね。

 他の扉の中にも入って何かしたんだろう。全部正直にしゃべりな」


『むぅ! なんか、我が他の扉の中でもやらかしているように思われていて、心外なのだ!』


「違うというならそれを証明するために、全部正直にしゃべるんだよ」


 まったく、失礼しちゃうのだ!

 まぁ、よかろう。我も心の広いゴーレムだからな。

 この部屋から出ては行かぬというのであれば、出来ることもないから、寂しい老婆の話し相手になってあげるのだ。


『うむ、それでは、2つめの扉は洋風のドアノブのついた扉だったのだ。

 これがまたやっかいな扉でな、普通には開けることができなくて、シャッターのように上に上げる扉だったのだ。あの部屋にいたひげもじゃは性根がひねくれていると思うのだ』


「ひげもじゃねぇ」


『うむ。返事もなかったから、その部屋の主が倒れているのではと心配になった我は扉の中に駆け込んだのだ。そこで我は衝撃を受けたよ』


 我はタメをつくり、老婆をちらりと見る。

 老婆は特に何の反応も示していない。我は内心でがっかりしつつ、続きを話すことにした。


『その部屋はとても汚くてな。そう、汚部屋だったのだよ。

 最初は、ひげもじゃもいなくて、ゴミだけがあったのだ。それで、我はお掃除を始めたんだ。もう他の事は忘れてしまうくらいに汚くて、見るに見かねたからね。それで、分別をしつつゴミを片付け、床にあったシールもかりかりと指ではがしたんだ』


「シール? そのシールをあんたははがせたのかい?」


 おや、老婆がシールの箇所に食いついてきた。

 この老婆もシールを貼ってきれいにはがせなくて困っているのかもしれんな。

 ふふふ。我はお掃除をし続け、【磨きしモノ】という称号を手に入れているからな。シールをはがすなんて簡単なのだ!


 我は大きく頷く。


『無論だとも!

 我もだてにお掃除をがんばっていないのだ!

 シールなんて、かりかりときれいにはがせちゃうのだ! 老婆もシールに困っているのなら、我が代わりにはがしてあげようか?』


「いや、いい。続きを話しておくれ」


 我はぽかーんという表情で老婆を見る。ゴーレムだから表情は変わらないけど。


 なんだ?

 老婆はシールをはがせなくて困っていたのではないのか? 我は念の為、質問をする。


『老婆よ。シールをはがせなくて困っていたのではないのか?』


 老婆は首を傾げながら、「困ってないよ」と一言返事をしてくれた。

 我は解せぬなぁと思いながら、話を続ける。


『それで、積み重ねていたゴミ袋の方から音がしてな。我がびくりとしながら、ゴミ袋を見てみると、ひげもじゃがいたのだ。我は驚いたね。さっきまではいなかったのにどこから出てきたのだろうと』


「そのひげもじゃは、シールを捨てたゴミ袋から出てきたんじゃないのかい?」


『!?

 老婆よ! 凄いな! さすがは占い師なのだ!

 たしかにひげもじゃの身体にははがしたシールが付いていたよ!』


 はぁ、と大きく老婆がため息をつき、我に話の続きをうながす。


『で、ひげもじゃに聞きたいことがあったから、揺すったら、寝てるんだから起こすなと怒鳴られたのだ。まったくひどいと思わぬか? 怒鳴ることはないよね! で、我もひげもじゃに聞きたいことがあったから、再びひげもじゃを揺すったら、好きにしろと言われたのだ』


 老婆は目を細めて、「あの若造が、またサボっておったんじゃな」と呟いた。


『我はひげもじゃの顔を見つつ思ったのだ。ヒゲの手入れもできていなかったし、好きにしろと言われたので、我がヒゲをきれいにしてやろうってね。だから、ヒゲモジャのヒゲをきれいに永久脱毛したよ』


 老婆は目を見開いて我を見てくる。

 何か、我は変なことを言っただろうか?


「なんで、お前さんは勝手にヒゲを永久脱毛したんじゃ?」

『? ヒゲの手入れが出来ていなかったから、きれいにしてあげただけなのだ』


 我は首を傾げて、老婆を見つめる。


「いや、勝手に人のヒゲを剃る、というか、永久脱毛するのはおかしいだろう?」


『いや、手入れをしていなくて、好きにしろと言われたからこそ、我は気を利かせて永久脱毛をしたのだ。人に言われないと動けないようではダメだと思うんだよね。

 相手が何を望んでいるのかを察して動く! これが大切なことだと思うのだ!』


「いや、それはおかしいよ。

 ヒゲを剃るだけなら百歩、いや万歩ゆずってまだしも、永久脱毛だともう生えてこないんだろう?」


『? 当たり前なのだ。永久脱毛だからね。

 これでもうひげそりに手間暇をかけなくてよくなったから、ひげもじゃ、いや、まろひげは喜んでいるであろうよ!』


 我は胸を張って堂々と告げる。どうよと老婆を見ると、老婆は首を左右に振っていた。


「いや、もしかしたら、オシャレでヒゲを伸ばしていたのかもしれぬじゃないかえ?

 あたしが思い浮かべている男と同一人物ならば、その男はヒゲを大事にしていた男だよ?」


 えっ、と我は驚き、固まる。


『な、なんだと!?

 オシャレ!?

 あの汚部屋の住人がオシャレだと!?

 いや、そんな……。まさか!?

 あの汚部屋の住人がオシャレだと!?

 ないない! うっそ!?

 あの汚部屋の住人がオシャレだと!?

 ええええええええええええええええええ!?』


 そんな事はこれっぽっちも想像していなかったのだ!

 オシャレ!? もしも、オシャレでしていたのだとしたら悪いことをしてしまったかもしれない!


 あっ、でも大丈夫なのだ!


『老婆よ、心配ない!

 その男が永久脱毛をしているときに、寝返りをうってしまってな。眉毛も永久脱毛してしまったのだよ』


「いやいやいや!

 心配ないというより、ヒゲ以上に問題大ありじゃないかい!」


『もう! 話は最後まで聞いて欲しいのだ!

 我もやばいと思って、公家といってもわからぬか?

 我は【発毛】というスキルを持っていてな、丸い眉毛、いわゆる、まろ眉毛をはやしてあげたのだ!』


「いや、それを聞いてもっと心配になったよ」


『もちろん、我も丸い眉毛だけではだめだと思ってな。鼻の下にちょびひげを生やしておいたのだ。

 まろ眉毛とちょびひげでファッショナブルになったから、何も心配いらぬよ!』


「いや、だめだと思うが、まぁ、あの若造には良い薬になったじゃろうから、いいか。

 あんたはその部屋でやらかしたのは、それだけなんだね?

 世界儀には触ってないんだね?」


 我はふるふると首を横に振る。


『いや、世界儀にも力を注いだよ!』

「一応聞いてみるけど、なんでだい?」


 我はうむと厳かに頷く。


『うむ、まろひげの部屋にあった世界儀の中には、白い肌に青い髪の人達がいてな、せっせと働いているのに、作物も実らず、皆、夢も希望もないという感じで生きていたのだ』


「きちんと管理していなかったらそうなるだろうねぇ」


『しばらく我はその世界儀の中を見ていたのだけど、なんと白い肌に青い髪の人達は少女を生け贄にしようとしたのだよ!』


「生け贄かい?

 それもよくあることだわえ」


『よくあることなのか? だが、我は見過ごせなくて、世界儀の外から声をかけたのだ。止めよとな。そして、我が力を注げば作物も実るようになるのではないかと考え、力を注いだのだ。

 すると、すさんでいた世界が光輝き、力の満ちた世界へと変わったのだ!』


「うーむ、なんというか、あの若造がきちんと管理していないのが原因だね」


『うむ、我もそう思ってまろひげの頭を一発叩いておいたぞ。

 そうそう、不思議なことに、我が力を注いでしばらくすると、世界儀の中の人々の声が徐々に聞こえるようになってきてな。白い肌に青い髪の人たちに感謝の言葉を贈られたのだ。

 我は別に感謝されたくてやったわけではないから、達者で暮らせと言って颯爽とその場を後にしたのだ』


 老婆はうぅーむと何かを考えているようだ。


「世界儀の中の生命の声が聞こえるじゃと?

 それは筆頭管理者が書き換わっておるのでは……」


 老婆はそこで一旦首を振り、我に話しかけてきた。


「ゴーレム、あんたは、というより管理者は世界儀に過度な干渉はしちゃいけないんだからね。

 これからは困っている者がいても、簡単に力を注いだらいけないよ?」


 我は老婆の言葉に首をひねる。


『なぜなのだ?

 目の前で困っている人がいたら、助ける。助けたい!

 それが人としての当然の心の動きではないか!

 まぁ、我はゴーレムだけど』


「いや、まぁ、そうなんじゃが。

 力ある者が過剰に対応するのは、流れを乱すことにつながるからのぅ」


 我は老婆の言葉に首をひねる。


『流れを乱してはいかんのか?

 それに我は自分にできる範囲のことをやっただけなので、過剰には対応していないよ?』


 老婆は、くっと呟いた。


「こ、こやつは。

 悪意もないのに【世界を破壊するモノ】という称号を持っているから、おかしいと思っていたが……。

 人の話を聞かず、己の力が異常なモノだと考えておらんから、タチが悪いんじゃな。

 世界を滅ぼすのは、悪意ではなく、大きな善意のすれ違いか」


『えっ?

 我も自分の力が、こう、凄い、異常かもってのはわかってるのだ!

 だからこそ、困っている人がいて、自分にできることがあるのであれば、力を貸す。当たり前のことをしているだけなのだ!』


「あぁ、そうかい。

 あたしもわかったよ。あんたにはお目付役が必要だってことが、よくわかったよ」


 老婆が何かを悟ったように、乾いた笑みを浮かべた。

 それを見つつ、我は首を傾げるばかりだった。

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