第18話 占い師の老婆
我はゴーレムなり。
今日も我は元の世界に戻る為に白い空間を彷徨っている。
まぁ、ところどころ我が使った【万物崩壊】のために空間がバチバチ言っているけど、仕方ないのだ。あの巨人を助けるためには必要な事だった。
今振り返ってみても、あの時の我の行動は最善だったと思う。
むしろ、全力で【万物崩壊】を使わなかった自分自身を褒めてあげたい。
我はとりあえず、バチバチいっている空間を直しながら、てくてくと歩いて行く。
◆
しばらく歩いて行くと、バチバチいっている空間から白い空間になった。
そして、バチバチ言っている空間にはなかった扉がまた見え始める。
すると、バチバチいっている空間と白い空間の境目の辺りで、半分だけになった扉が見えた。我はその場に立ち止まり、ふと考える。
あれ?
あれは、もしかして我の【万物崩壊】で壊れた扉なのか? ひょっとして我ってばたくさんの扉を壊しちゃったのだろうか?
うーむ。その可能性が否定できない。
我には時間は巻き戻せないから、目の前の事にひとつずつ対処していくしかない。
ということで、我は半分だけになった扉に近づき、【復元】する。
やっぱり、扉はなかなか復元しづらいのだ。
でも、我はがんばるのだ。やってしまったことの責任を取る。それが大人ってことだからな!
◆
我は扉を見事に復元した。
巨人の時も扉の中には影響がなかったようだけど、念の為確かめておいた方がいいだろう。
我は復元した扉をコンコンとノックする。
『ごめんくださーい。我はゴーレムなのだ。部屋の中には変わりはないかー?』
しばらく待っても返事がない。
これは、部屋の中で影響があったのかもしれぬ!
我は扉のドアノブをまわして、ガチャリと開ける。
扉の中は真っ暗だった。
我が扉の中に入るとバタンと扉が勢いよく閉まる。
我はびくっとしつつ、部屋の中を見る。真っ暗であろうと我がゴーレムアイは全てを見通すのだ!
すると部屋の中央付近にある世界儀の前に、フード付きのローブを着た老婆が座っていた。老婆はなぜか、世界儀の方を向いておらず、我の方を向いている。そして、老婆の前には水晶玉が置かれた机があった。
な、なんなのだ? この老婆は。何をしているのであろうか。
我が老婆に声をかけようとすると、部屋の壁際に置かれていたロウソクにポゥと灯がともる。
これは何の演出だ?
ちょっと不気味なのだけど。
「いらっしゃい」
老婆がしわがれた声で我に声をかけてくる。
とりあえず、老婆にケガはなさそうだし、うむ、大丈夫そうなのだ。でも、念の為に確認しておこう。
『我はゴーレムなり。老婆よ、おぬしの部屋に何か変わりはないか?』
老婆はフードの下から赤く光る目を我に向けてくる。
「ひっひっひ、変わったことはあったよ」
『なんと!?
いったい何があったのだ!?
我に出来ることであれば力になるぞ!』
「ひっひっひ、世界を破壊するモノがあたしの前に現れたわえ」
『せ、世界を破壊するモノだと!?
そ、そんな危険なヤツがこの世界にはいるというのか!
そやつは、今どこにいるのだ。我もこう見えて、戦うことが出来るラインライト特化型のゴーレムなのだ! 我がそやつと戦っている間に老婆は逃げるがいい!』
我は両手を握りしめ、ファイティングポーズをとる。
どこだ。どこにいるのだ、世界を破壊するモノは。世界を破壊するモノ、つまりは、世界の敵と言うことだ!
我がこの生命をかけても、そやつを止めてみせようではないか!
老婆は落ち着いた様子でにやりと笑う。
「ひっひっひ、逃げる必要はないわえ。
世界を破壊するモノはお前さんじゃ」
?
どういうこと?
我は老婆の言葉に首を傾げる。
『老婆よ、どういうことなのだ?
我はただのメタルゴーレムだぞ。世界を破壊するようなことはしていないのだ。誰かと間違えているのではないか?』
老婆はゆっくりと首を振る。
「間違いないわえ。
お前さんが部屋に入ってきたときに、鑑定してみたら称号に世界を破壊するモノというのがあったからのぅ」
『えっ?』
この老婆、いつの間に我を鑑定したのだ。
我は鑑定されると、いつもログで表示されるから、わからぬはずがないのだ!
……。
あっ、思い出した!
世界の声が今はお休み中なのだ!
だから、鑑定されても我は気づかなかったのだな。世界の声が休みだといろいろと支障が出てくるのだ。困った困った。やはり、我はできるだけ早く元の世界に戻らねばならんな。
「それで、あんたは何をしにこの部屋に来たんだえ?」
我も白い空間に来てから、大分経ったから、久しぶりにステータスを確認しておいた方がいいのかもしれない。おし、いったんステータスを確認するのだ。
ステータス!
「あんた、全然、人の話を聞かないね」
我は久しぶりにステータスを開いてみて、その内容に愕然とする。
ーー
名前 ゴーレム
Lv 78
ステータス
最大HP:578
最大MP:551
攻撃力:255(+0)
防御力:255(+0)
素早さ:213
頭 脳:209
運 :255
スキル
【ステータス固定】【復元】【通訳】【光】【動】【殺】【崩】【毛】【使用不可】
称号
【変わらぬモノ】【悟りしモノ】【諦めぬモノ】【トモダチ】【磨きしモノ】【滅殺するモノ】【救いしモノ・改】【崇拝されしモノ】【煽りしモノ・改】【導くモノ・改】【世界を破壊するモノ】
ーー
なんか、いろいろと表示のされ方が変わっているのだ。スキルとか、称号がかなりすっきりしてしまっている。
う、うわ、な、なんなのだ、これは。スキルからラインライトがなくなっているのだ!
我が唯一使える魔法がなくなっているとは、これはどういうことだ?
我はラインライト特化型ではなくなってしまったのか!?
我は慌てて、ゴンレムブレード、もとい、ラインライトを自分の手のところに発生させる。するとラインライトは今までと同じように発動することが出来た。
?
あれ。別になにも変わっていない感じなのだ。
どういうことであろうか?
まぁ、ラインライトが使えるならば、スキルの方は問題ないのだ。我にとって一番大切なことはラインライトが使えることなのだから。よくわからぬことを考えても無駄なのだ。
あっ、【バカになる】も消えてるのだ!
これはきっと我の日頃の行いが良いから、消えたのだろう! ふっふっふ。情けは人のためならずなのだ。
次に称号を見ていくと、こちらもすっきりしていた。いろいろな称号があったから、何がなくなったのかがよくわからない。まぁ、気にしなくていいだろう。
問題は老婆が言っていたように、我のスキルの最後に【世界を破壊するモノ】があることなのだ。
我は首を傾げる。
なぜ?
我が何をしたというのだろうか?
掃除をしても何も壊さないと評判の我が、世界を破壊するモノというのはどういうことなのだ? これは何かがおかしい。間違っているのではなかろうか。我はステータスをまじまじと見る。
よく見たら、ステータスから種族が消えている。なぜだろう。
『老婆よ、なぜ、我には世界を破壊するモノという称号があるのだろうか?』
「ひっひっひ、あんた、本当に人の話を聞かないねぇ。
そりゃ、あんたが世界を破壊したのだろうよ。
心当たりはないかえ?」
『うーん、ちょっと黒い空間を壊したり、白い空間を壊したり、扉を壊したりしたけど、我は世界を壊したことはないと思うのだ』
「いや、多分、あんたが気づいていないだけで壊してるんだよ。白い空間というのは、扉の外のことだろうけど、そんなものは普通壊せないし、扉だって壊せないんだよ」
『な、なんと!?
我は知らず知らずの内に世界を破壊していたというのか!?』
「ああ、間違いなくそのはずだよ」
我はなんてこったと両手で頭を抱えて首を振る。
しかし、世界を壊したとしても、そのことに悔いはない。
なぜならば、我はその時、その時に正しいと思えることに全力で取り組んでいるからだ。
『老婆よ、生きるってのは辛いことの連続なんだな。
でも、我はその業を背負って生きていくよ』
「いや、ちょっとお待ち。一人で納得しているけど、あんたはもっと人の意見を聞いた方がいいよ!」
『失礼な!
我は人の話はよく聞いているのだ!
助けを求める声なんてぎゅんぎゅん聞いてるよ!?』
「いや、多分、あんたは聞いたつもりになっているだけなんだよ。そして、そのまま自分の中で自己解釈して、突き進んでいってるんじゃないかえ。この部屋に入ってくる時もあたしの返事をまたなかっただろう?」
ガガーンと我は衝撃を受ける。
な、なんか、この老婆の話には説得力があるような気がするのだ!?
ひょっとして我はいろいろなところで勘違いをしていたのか!?
我が両手を広げて驚いて固まっていると、老婆が我を見てにやりと笑う。
「まぁ、あんたの心根はいいんだろうさ。もしも、あんたの心根が悪かったら、世界はとっくに滅んでいるだろうからね」
『なんか、褒められているのか、けなされているのかわからない言い方なのだ』
「ひっひっひ、両方さ」
『はぁ、まぁ、わかったのだ。これからは気を付けていくのだ。老婆に問題がないのであれば、我は元の世界に通じる扉を探すために出発するよ』
我が扉の外に出て行こうとすると、老婆が待ったをかけた。
「ちょっとお待ち。
あんたはしばらくこの部屋で待っておきな」
『なぜなのだ?』
「ひっひっひ、しばらくしたら、あんたが元の世界に帰る為の力になってくれる者達がやってくるからさ」
我は老婆の言葉を聞いて首を傾げる。
『どういうことなのだ?
なぜ老婆にそんなことがわかるのだ?』
「ひっひっひ、あたしゃ占い師だからね。そりゃわかるよ」
なんと、この老婆は占い師なのか!?
言われてみれば、いかにもうさんくさい恰好をしているのだ。たしかに、占い師と言われれば、納得できるのだ。
あっ、我は一度手相を占ってもらいたかったのだよね。
頼んでみよう。我は右手を老婆に差し出す。
『老婆よ、我の手相を占って欲しいのだ』
「ひっひっひ、おやすいご用だよ」
老婆は我の右手を手に取り、まじまじと見やる。そして、ぽつりと呟いた。
「あんたはロボットだから、手を見てもわからないね」
我はがっくりと両手を地面についた……。




