第1話 異世界への扉
我はゴーレムなり。
気がつくと見知らぬ場所にぽつんと立っていた。
どこだ、ここは?
なんか、真っ白い空間の中にいろいろな扉が浮かんでいるのだ。扉の数はとても多い。一つ一つの扉が違うし、慎重に行動しないとダメだな。我は慎重なゴーレムだからね。
足元に影は落ちるけど、太陽はない。どういうことだろう。
我は足元の影を見る。
しゃがみこんでじっくり見るが、よくわからぬ。この影は地面ではない、白い空間にうつっているように見えるぞ。
本当にどうなっているのだろう。しかし、あせることなかれ、我がゴーレムアイに見抜けぬものはないのだ!
あれ?
いつもなら、ゴーレムアイというスキルはありませんという世界の声が聞こえてくるのに。
どういうことだ?
どうしたのだ、世界の声よ。仕事して!
{連絡:異世界のため、ただいま業務を停止しております}
{連絡:業務の再開は元の世界に戻ってからとなりますのでご了承ください}
なっ、業務とな!?
冗談で仕事してと言ったつもりだったのに、世界の声は、本当に仕事でやっていたとは!?
ということは、世界の声の情報なしで、我はこの不思議空間を抜け出さねばならぬのか。ジスポもハクもいないし、世界の声までお休みとは。我は今、まごうことなくぼっちなのだ。
寂しい。
こんなことなら、誰かを巻き込めばよかったのである。
我はがっくりとうなだれる。
ーー5分後
いつもならそろそろ、「【悟りしモノ】の効果により、がっかり状態が解消しました」っていうログが聞こえてくるはずなのに、全く聞こえて来ない。
これは本格的に世界の声はお休みらしい。
どうしよう。
はっ!?
呪われしないわーポーチを取り外そうとすれば、さすがに世界の声も仕事をするはずなのだ!
へっへっへ、外しちゃうぜと思いながら、我はないわーポーチをそっと肩から外そうとする。いつもなら、ここでまがまがしいオーラが出て、取り外せないんだよね。
そう思いながら、ないわーポーチを持ち上げると、なんの支障もなく我の体から外れてしまった。
……。
えっ?
は、外れたよ。
どういうことなのだ?
どうやっても外れなかったのに。
我は、ないわーポーチを足元にそっと置き、一歩、また一歩と遠ざかる。
お、おぉ!
は・ず・せ・たー!!
これは完全に装備から外せたのだ!
わふー!
我は自由だぜ!
やっほい!
わっほい!
我は嬉しさのあまり、ゴロゴロと前転をする。
ーー30分後
いかん。
世界の声がお休みだから、誰もストップをかけてくれないのだ。
少し迷いながらも、我はないわーポーチを置いた場所へと戻ってきた。振り返ってみれば我は世界の声にかなり助けられていたのだな。ありがとう。ありがとう、世界の声よ。
おだててみても何の反応もなしか。
まぁ、いいや、今は静かに休むがよい。世界の声よ。
さて、ないわーポーチには、ブラックカードとノートくらいしか入ってないから、目印に一番近くの扉のドアノブにひっかけておこう。ブラックカードは使う機会がないのだよね。
これはもしもの時の目印なのだ。
迷ったら、最初の地点に戻らないといけないからね!
ないわーポーチよ、ここはおぬしに任せたからな。我は周囲の調査に行ってくる。
あっ、そうだ、我のステータスはどうなっているのだろうか?
ステータス!
すると我の頭の中にイメージでステータスウィンドウが表示された。
ーー
名前 ゴーレム
種族 メタルゴーレム
Lv 49
ステータス
最大HP:578
最大MP:551
攻撃力:255(+0)
防御力:255(+0)
素早さ:213
頭 脳:209
運 :255
スキル
【ステータス固定】【復元】【覚醒】【悪あがき】【非接触】【バカになる】【水泳】【遠吠え】【通訳】【祈り】【ラインライト】【大虐殺】【姿隠し】【ブレス】【バリア】【救済】【角生】【下克上】【光合成】【精霊のささやき】【悪魔化】【万物崩壊】【残忍】【発毛】【脱毛】
称号
【変わらぬモノ】【悟りしモノ】【諦めぬモノ】【愛でるモノ】【煽りしモノ】【人魚のトモダチ】【犬のトモダチ】【声のトモダチ】【死者のトモダチ】【屠りしモノ】【精霊のトモダチ】【竜のトモダチ】【女王の守護者】【信仰されしモノ】【鬼のトモダチ】【王殺し】【植物のトモダチ】【エルフのトモダチ】【天使殺し】【神殺し】【紂せしモノ】【救いしモノ】【磨きしモノ】
ーー
ちゃんと表示された。良かったのだ。内容も、うん、いつも通りのステータスなのだ。変わりない。変わらないよ。
なぜならば、我は【変わらぬモノ】だからね。
おし、弱体化とかしていないならば何とかなるだろう。
出発するのである!
ーー数時間後
歩けど、歩けど、扉ばかり。人っ子一人おりません。物音もしないし、怖いな。ここは、本当になんなのだ。
もしかして、我はずっとこのままここに1人なのか?
いや、いかぬ。後ろ向きなことを考えてはいけないのだ。
考えるな!
感じるのだ! 適当に!
ここは異世界、ファンタジー。この程度ことくらいあって当たり前なのである。こうなったら、扉を開けて入ってみるしかないのかもしれんな。
おし、もうしばらく歩いて何もなかったら、扉を開けて入ることにするのだ。
あー、こんな時は声を出しながら行くのがよい。声は出ないけど、頭のなかで歌うのは自由だからね。歌を歌えば気分も晴れやかになるはずなのだ。
『あー、あー、ゴホン』
おし! 歌うのだ!
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ヘイ!』
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ハイ!』
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ホイ!』
ヘイのところで、我は軽くジャンプし、ハイのところで、我は両手を広げる。ホイのところで、我はくるりとターンする。
ちょっと楽しくなってきた! このまま調査を頑張るのだ。
『ゴー! ゴー! レッツゴー!』
『我はぁ、ゴーレム、さまよぉい中〜』
『ここーはぁ、どこなのぅ、扉がたぁくさーん』
ぐっとこぶしを握り、ぐるぐると手を回す。近くの扉の周りを我はくるりと一周まわる。
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ハイ!』
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ホイ!』
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。へイ!』
ハイのところで、我は前転し、ホイのところで、我はバク宙をしようとして失敗する。へイのところで、我はうちつけた頭をそっとさする。おし、いこう。我は心を決めて近くの扉をノックする。
『おじゃぁまぁ、しますよ〜』
『ちょっとごめーんねぇ』
返事を待たずに我は扉を開ける。どうせ誰もいないのだから、大丈夫だろう。
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ホイ!』
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ヘイ!』
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ハイ!』
両手のこぶしを握りしめ、手を上下に動かし踊りながら、背中で扉を押し開けて中へと進む。
『我はぁ、ひとぉり、寂しくさまよぉうの〜』
『こんなぁことなぁら〜』
『描くんじゃなかったぁ、魔法陣』
くるっとターンをして部屋の中を見渡すも、広いし、すこし暗くてよく分からない。でも、外の白い空間とは明らかに違うぞ。これは、扉の中に入って正解だったのである!
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ハイ!』
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ヘイ!』
『ゴゴッゴッゴッゴ、ゴー、ふわッ! なんだこのデカイ鳥は!』
我は踊りながら、部屋の中へと進んでいく中で、デカイ鳥と出会ったのであった。
であったのであった、とは。
うまいこと言っちゃったのだ。