第16話 分け与えし力
我はゴーレムなり。
巨人の遊びに付き合っていたら、突然巨人がいなくなり、代わりに小人が我の前で土下座をしている。
この状況は、いかに名探偵ゴーレムといえど、解きあかせない。
推理をするためのピースが少なすぎるのだ。
いや、待て。
諦めるな。
我ならこの数少ないピースから、正解を導き出せる、かもしれない。
現状を整理してみよう。
巨人と遊んでた。
巨人が超必殺技を放って、煙が晴れたら巨人がいなくなった。
巨人の代わりに小人がいた。
小人が土下座をして謝っている。←今ここ。
巨人が小人になったのだろうか。それならば、なんとなく話がつながる気がする。
いや、でも、小人が巨人だとしたら、巨人だった小人が我に謝る理由がないのだ。
うーむ。
迷宮入りだ。
こうなれば、直接聞くしかないな!
『小人よ、そなたはここにいた巨人を知らぬか? 我と遊んでいたのだが、突然いなくなってしまったのだ』
小人は土下座をしたまま、我の問いかけに返事をする。
「すいませんでした。巨人だったのは、このオレです。力を使いすぎてしまったために縮んでしまったのです」
我は、小人の返事を聞いて、びっくりする。
わ、我の推理が当たっていたのだ!
謝る理由がないというところ以外は、我の推理が当たっているじゃないか!
マジか?
我ってばすごいじゃん!
『なぜ、っ』
我は巨人になぜ謝るのだと問いかけようとしたが、ここは自分で答えを導き出すべきだろう。
我は名探偵ゴーレム!
我に解き明かせぬ謎は数知れぬ!
でも、解き明かす時には解き明かす!
それがゴーレムクオリティなのだ!
◆
謝罪するというのは、相手に申し訳ないと思っていることがあるということなのだ。この巨人だった小人は我に対して何か申し訳ないと思っているのである。
はて、何が申し訳ないのだろうか。
我は巨人のシナリオ通りの行動で、って、そうか、そういうことか!
『巨人だった小人よ、気にすることはない! 我がおぬしに力を分け与えるのだ! そうすれば、まだまだ遊び続けられるのだ! 力がなくなったからと言って謝る必要などまったくないぞ!』
「えっ、いったい何を言っているのですか?」
『ふっふっふ、遊べなくなったから、我に謝っているのだろう。
いいよ、いいよ。力加減を間違う事は誰にでもあるよ。
我の力を受け取って、遊びの続きをするのだ!』
「えっ、いったい何を言っているのですか?」
我は巨人だった小人の肩にそっと手を添える。
『遠慮することはない!
どんと持って行くが良い!』
「えっ、いったい何を言っているのですか?」
我は巨人だった小人に力を注ぎ始める。
我も世界儀に力を注ぎ続けたので、注ぎ方はばっちりなのだ。
我の力を受け取った巨人だった小人は、小人から我と同じくらいの大きさになった。
おぉ、力を注げば本当に大きくなるのだ。
ちょっと面白いな。
「えっ、いったい何をしているのですか?」
『えっ、力を注いでいるだけだけど?』
我と巨人は無言で見つめ合う。
そんな状態でも我はしっかりと巨人だった小人、いや、もう我と同じ大きさだから、小人でもない。なんて言えばいいのだろう。もういいや、ジャジャイアンと呼ぶことにしよう。ジャジャイアンに力を注ぎ続けるとどんどんとジャジャイアンは巨大になっていく。もう肩には手を添えられないので、ジャジャイアンの足に触りつつ、力を注ぐ。
「えっ、いったい何をしているのですか?」
『だから、力を注いでいるのだ』
ジャジャイアンは大きくなったから、我のかなり上の方から声をかけてくる。
ほー、いいね! 最初に出会ったときと同じくらいの大きさになったよ!
『これで最初と一緒くらいの大きさなのだ』
「え、ええ。そうですね」
『でも、これだとまた力がなくなるかもしれぬから、もっと力を注いでおくことにするよ!』
「えっ、いったい何を言っているのですか?」
我はジャジャイアンにさらに力を注ぎ込む。
力の注ぎすぎでジャジャイアンがはじけ飛ばないように注意しながら、慎重に力を注ぐ。ぱーんとはじけたら大変だからね。
我の注ぎ込む力と比例するようにジャジャイアンがどんどん巨大になっていく。
こ、こいつはすごいのだ。
もう、ジャジャイアンの顔が我からは見えないほど大きくなったのだ。
どこまで大きくなるのか試したいところだが、このあたりでやめておこう。
『ジャジャイアーン、このくらいで力を注ぐのはやめることにするのだぁ!』
我がジャジャイアンに大声で声をかけると、上の方からジャジャイアンが返事を返してきた。
「あ、あの、これだけ力を注いでもゴーレム殿は大丈夫なのでしょうか?」
?
どういうことだろう?
ああ、そうか、ジャジャイアンはまだ遊びたいのだな。
『ジャジャイアンよ! 気遣いは無用なのだ!
我はまだまだ元気だから、もっと一緒に遊べるぞ!』
「いえ、もういいです。もうオレは部屋の中へ帰ります。本当にありがとうございました」
『そうか? 我なら、まだまだ余裕だから、もっと一緒に遊んでもいいのだぞ?
さっきの超必殺技とかを、もっと撃ってきて良いのだよ!
たいした威力じゃなかったし、我の攻撃も見せたいしさ!』
「たいした威力じゃない?
攻撃を見せる? オレが攻撃されるってこと?
いや、死ぬよ。本当に」
ジャジャイアンがぶるぶると震えだした。
トイレに行きたいのだろうか?
『どうした?
トイレに行きたいのか?』
「は、はい。すいませんが、オレは自分の部屋に戻ります」
ジャジャイアンはゆっくりと落ち込んだ様子で、ジャジャイアンがいた部屋の扉へと向かう。
部屋の扉の前でジャジャイアンは立ち止まり、我の方を振り返った。
「ゴーレム殿、なにとぞ、もう何も壊さないようにお願いします」
ジャジャイアンは、神妙な表情を浮かべ、我に向かって一礼し、扉の中へと入っていった。
ちなみに、ジャジャイアンが大きくなりすぎて、扉の中に入るのに、匍匐前進をしながらでないと入ることが出来なかった。ちょっと力を注ぎすぎたのかもしれない。
すまぬな、ジャジャイアンよ。
◆
我はジャジャイアンが消えていった扉を見つめながら、ぽつりとつぶやく。
『ジャジャイアンよ、またな。
次は我の必殺技も見せてやるからな』
さぁ、別れを惜しんでばかりもいられない。
元の世界へとつながる扉を探そうではないか!
我は、次なる扉を求めて歩き始めた。




