第14話 封印されしモノ
我はゴーレムなり。
博士の夢を叶えた我は達成感を覚えつつ、今日も元気に元の世界に帰るために白い空間をさまよっている。
それにしても歩けど歩けど、果てが見えないのだ。
もしかして、どこまでも続いているのだろうか? まぁ、我は歩き続けるだけなのだ。
おっし、歌いながら、がんばろう。
ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ヘイ!
ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ハイ!
ゴゴッゴッゴッゴ、ゴーレム〜。ホイ!
◆
我が歌いながら、さまよっていると、白い空間の中にとても大きい黒い球体が現れた。
なんだろう、あれは。明らかに特別な何かだと思うのだ。もしかすると、あれが我がいた世界へと続く扉がある部屋なのかもしれぬ!
我は黒い球体の周りをぐるぐると歩く。
黒い。
とても黒い。そして、大きい。
うむ、周りを観察していても何もわからぬ! こういう時は中に突っ込んでみるのだ!
我は意を決して黒い球体の中へと突き進む。
思ったよりもすんなりと中に入れたのだ。
我は一歩足を前に進める。
あれ?
ちょっと体が重い気がする。
なぜだろう? この黒い球体、いや、これだけ大きいと、黒い空間といって問題ないだろう。黒い空間の中は重力が違うのだろうか?
我はさらに足を一歩進める。
うーん、やっぱり、ちょっと重い気がする。試しにジャンプしてみるのだ。
我はぐっと足に力を入れて、ジャンプする。すると普通にジャンプすることができた。そして、高く飛び上がったため、黒い空間から出てしまった。その後はまた黒い空間の中へと落ちて、ドスンと大きな音を立て、着地した。
うん、まぁ、特に問題ない。重い気がするというのも、気のせいかもしれないな。黒い空間だから、気分が重くなったのが原因かもしれぬ。心理的な要因で体が重いと錯覚したのかもね。
どうでもいいことは気にせず、この黒い空間を探索するのだ!
◆
我は黒い空間の中を奥へ奥へと進んでいく。
すると何かをたたくような音が聞こえてくる。
何かが、いや、誰かがいるのかもしれぬ! 我は音が聞こえてくる方へと走り出す。
音が聞こえてきた方へと走っていくと、遠くからもわかるような巨大な扉が見えてきた。巨大な扉は何十もの鎖でがんじがらめにされている。
我はなんだこれと思いつつ、扉の前へと到着した。すると鎖でがんじがらめにされた扉がドン! ドン! と中からたたかれているではないか! さらに「出せー! ここから出せー!」という声が聞こえてくる。
こ、これは!?
中に閉じ込められている人がいるのだ!
大変なのだ! 中に人がいるのに、外から扉を閉められちゃったんだな。これは助けてあげねば!
我は慌てて扉をたたきつつ扉の中へと声をかける!
『おーい! 中に閉じ込められているのか!?』
我が声をかけると扉の中から叫ぶ声が途絶えた。
「だれか、そこにいるのか?」
おぉ、ちゃんと聞こえていたようだ。
『うむ! 我はゴーレムなり! おぬしはこの扉の中に閉じ込められてしまっているのか!?』
「ああ、そうだ! 忌々しい他の管理者どもにこの扉の中に閉じ込められてしまった!」
やはり、他の管理者が気づかずに扉を閉めてしまったみたいなのだ。
『忌々しいというのはちょっと言い過ぎなのだ! 誰にでもミスはある! 我が今扉を開けてあげるから、出たいのなら出てくればいいよ!』
「はぁ!? お前、何を言ってるんだ?」
我は、ゴンレムで鍛えたゴンレムソード(ラインライト)で扉をがんじがらめにしていた鎖をスパパパッと切り裂いた。ジャラジャラと大きな音を立てて、鎖が落ちていく。
『おし! 鎖は外したので、これで扉が開くはずなのだ! 出てくるが良い!』
「ほ、本当か?」
扉が中からガチャガチャと動かされるが開く様子がない。鍵がかかっているのだろうか?
「ダメだ。鍵がかかっているから扉が開かない。ゴーレムとか言ったな、お前さん、鍵を持っていないのか?」
『残念ながら、鍵は持っていないのだ』
「くそぉ! オレはここから出ることができないのか!」
ずっと閉じ込められていたから、苛立っているようなのだ。これは一刻も早く外に出してあげねばなるまい!
『おし! 我が扉を壊すから、離れているのだ!』
「はっ? 扉を壊すって、壊せるわけが」
我は扉を全力で殴った。
ドガーン!!!
大きな音を立てて、扉が砕け散った。我は扉の中へと駆け込む。
『おーい! どこにいるのだ!? 扉は開いたのだ! これでおぬしも外に出ることができるぞ!』
我が声をかけるも、部屋の中に閉じ込められていた者は返事をしない。どこにいったのだろう?
我が部屋の中を調べると、部屋の中程で倒れている巨人を発見した。どうやら、この状況から推測すると我の攻撃に巻き込まれたらしい。だから、扉から離れているように言ったのに。
我はやれやれと首を振りつつ、倒れている巨人を扉の外へと引き摺っていく。
◆
扉の外へ倒れていた巨人を連れ出すと、「ぐぅううううう」とうめきだし、苦しみだしたではないか。
な、どうしたのだ!?
『お、おい! 大丈夫か?』
我は巨人に声をかけるが、巨人は地面に倒れ伏したままだ。この巨人は部屋の外に出ると苦しみだしたのだ。我はまた、巨人を部屋の中へと入れる。すると、巨人の様子が落ち着いた。
しばらく待つと巨人は目を覚まし、ゆっくりと上半身を起こした。
『大丈夫か?』
「あ、あぁ。扉の外は超重力空間になっているようだな」
『超重力空間?』
我は扉の外に出て、走り回るが特に異常はない。ちょっと身体が重いだけだ。我は再び扉の中へと入る。
『特に異常はないぞ?』
我の様子を見ていた巨人は、唖然としつつ、「そんなバカな」と言って、扉の外へ一歩踏み出した。すると、潰れたカエルのようにベチャっと地面にひれ伏し、「ぐぅううううううう」とうめきだした。
な、何をしているのだろう、こやつは。
我は巨人を引き摺って、再び扉の中へと入れる。
『何をしているのだ?』
「はぁ、はぁ、はぁ。いや、何をしているも何も、やはり扉の外は超重力空間で身動きひとつとれなかった」
我は首を傾げる。
そして、再び扉の外に出て、走り回ってみるが、やはりなんともない。
『いや、おぬしの気のせいではないのか?』
巨人は我の様子を見て、「いや、お前がおかしい」と断言した。初対面なのに、お前がおかしいとはひどい言われようなのだ。
『おぬしは外に出たかったのだろう? だから、我は扉を開けたのに、外に出てこないとはどういうことなのだ?』
「いやいやいや、出たくても、超重力空間だから、外に出られないんだよ! というか、うわああああああああああああああああ!!!」
突然、巨人が大声を出した!
『な、なんなのだ? 突然、大声を出すとはびっくりするではないか!?」
「と、と、扉が壊れてるじゃないか!?」
『鍵もなかったし、開けるには壊すしかなかったからね。当たり前なのだ』
「いやいやいや! 当たり前じゃないだろ! 壊すとかバカか! お前!」
『むー、バカとはひどいのだ! おぬしが出たがっていたから、扉を開けてやったのではないか!』
「扉を開けてくれとは言ったが、扉を壊すバカがいるか!? どうすんだよ、これ!」
『あー、もう、わかったのだ。直せばいいんでしょ! 直せば!』
我は扉の破片を拾い集め、【復元】のスキルを発動させる。すると、瞬く間に扉は元の姿に戻った。
「は? な、直した!?」
『これで扉も元通りなのだ。で、おぬしはここから出ないのか?』
「いや、なんで、扉を元通りに直せたんだ」
『我のスキルで直したのだ。そんなことよりもおぬしは外に出ないのか?』
「よ、よくわからんが、オレだって出られるものなら出たい! だが、この黒い超重力空間を脱出するのは不可能だ」
巨人が落ち込みつつ、部屋の外に行くのは不可能だと嘆いている。
この黒い空間を破壊できれば、この巨人も自由に外に出られるのだよな。
あっ、そうなのだ!
今まで、怖くて試したことがなかったけど、この黒い空間なら【万物崩壊】を使って壊せるか試してみてもいいのではなかろうか!
名案じゃないか!
『巨人よ。我に任せておくがいい。この黒い空間を見事破壊してみせようではないか!』
「えっ、いや、ちょっとやめてもらっていいですか」
『なに、遠慮することはない! 我は困っている者を放っておくことなどできんからな!』
「いや、ほんとにやめてもらっていいですか」
『すぐ終わるから大丈夫なのだ!』
「いやいやいや、オレはこの部屋に閉じこもっていますから、大丈夫ですよ」
『そんな哀しいことをいうのではない! 我が今、この黒い空間を破壊してみせるのだ!』
我は扉の外に颯爽と躍り出た。
巨人が我を引き留めようとしたが、遠慮することはないのだ。我は両手を横に広げて、【万物崩壊】を発動する。その様子を見た巨人は慌てて扉を閉めた。
我の両手の先から、ゴゴゴゴゴという音が鳴り始める。
キュインという音と共に光と闇が我を中心に混ざり合い始め、万物の崩壊が始まった。
◆ ◆ ◆
ゴーレムを中心にすべてが崩壊し始める。黒い空間はもちろん、白い空間も、あちこちにあった数多くの扉も消え去っていった。この時、消えてしまった白い空間は全体の30%にも及ぶ。
せめてもの救いは、扉が消え去っても、扉の中の部屋は無事だったことだろう。
ゴーレムはこの日から管理者達から災厄のゴーレムと呼ばれることになるのだった。




