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第12話 禁断の扉

 我はゴーレムなり。


 かぐや姫の部屋では、ちょっとダメだったかもしれないなぁと反省しつつ、我は白い空間をさまよう。


 まっ、終わったことは仕方がないのだ。

 次から気をつけよう!



 それにしても、どこに我がいた世界につながる扉があるのだろうか?


 我はカシャカシャと音を立てながら歩いていると、ひときわ目を引く扉があった。なんというか、あれだ。夢の王国につながるようなデザインの扉なのだ。


 丸3つで表現できる世界一有名なネズミのシルエットのような扉があるではないか。異世界にも似たようなデザインがあるのだなぁと思いつつ、我はその扉をノックしてみることにした。


 ノックをしてしばらく待つと、扉の向こうから、「ハハッ」という笑い声が聞こえてきた。


 その声を聞くと同時に我のゴーレムセンスが、ダメだ、この部屋はかつてないほどの危機へと繋がっていると囁いてくる。


 我は、ゴーレムセンスに従って、ピンポンダッシュをした後の小学生ばりにダッシュでその扉の前を離れる。


 かなり離れたところの扉の陰から、ネズミのシルエットの扉を観察していると、中からは我もかつて人であった時に行ったことのある有名なテーマパークのマスコットのネズミと瓜二つの存在が姿を現した。


 我は背中にかつて感じたことのないほどのゾクゾクとした寒気を感じた。


 だ、大丈夫なのか、これ?

 我の存在は消されたりしないか、と猛烈な不安に襲われる。


「ハハッ」

 我の耳元で、笑い声が聞こえた気がして、バッと振り返るが何もいない。


 ……。



 我は何も聞いていないし、見ていない。夢の王国のネズミなど、どこにもいなかったのだ。世の中には関わってはならぬものがあるのだ。


 我は素早くその場を離れた。



 ◆



 我はゴーレムなり。


 かぐや姫の部屋を出た我は、ぶらぶらとさまよう。とても不吉な部屋を見た気もするが、我の気のせいであろう。



 さて、どうするかな。

 ちょっと考えてみても我のすべきことは決まっている。


 ひとつひとつの扉をノックし、我がいた世界へと繋がる扉を探すだけなのだ。


 そう思ってどの扉をノックしようかと考えていると、ひとつの大きな扉がリンゴーン、リンゴーンという大きな鐘の音とともに厳かに開きだした。


 な、何事だ!?

 我は近くにあった扉の陰にササッと隠れる。


 すると、大きな扉の中から、赤い服と赤い帽子をかぶった人物が、トナカイにひかれたソリに乗って姿を現した。それも1人ではなく、もんの凄く大勢なのだ。我はあの人気番組の司会をしている師匠のように、両手の掌を下から上に持ち上げるようにして、もんの凄くをアピールした。まぁ、だれも見ていないんだけどね。


 あ、あれはサンタクロース!?

 なんだ!?


 今日は何かいつもと違うのだ! 何か夢の王国のキャラも登場しかけたし、今日は何かいつもとひと味違うぞ!


 我は、内心の驚きを隠しつつ、サンタクロースたちをじっくりと見る。


 なんというか、サンタクロースはプレゼントをひっそりと送り届けているのかと思ったが、ピカピカとする電球? か何かでソリを飾り付けて、目立つようにしているようだ。それぞれのソリには大きな旗で、なにか文字らしきものが書かれている。


 あれか?


 もしかして、サンタクロースたちにも、成果主義の時代がやってきたのか? だから、自分たち仕事してますよってアピールしているのかもしれんな。


 サンタクロース達は、さまざまな扉に近づくと、扉をノックした後、その扉の中に入っていった。


 なるほどなぁ。サンタクロースたちは、この白い世界からやってきていたのだなぁ、と我は一人で納得した。


 サンタクロースたちがいなくなって、大分時間が経ってから大きな扉からゆっくりと1人のサンタクロースが出てきた。まだいたのかと思いつつ、そのサンタクロースを観察すると、どうやら、トナカイではなく、羊にソリを引かせているようだ。


「めぇ〜」

(もうダメだ〜)


 羊が鳴き声を上げて立ち止まった。我は扉の影からその様子を見つつ、そりゃそうだと一人で頷く。羊が引いているソリも、ソリに乗っているサンタクロースも羊よりもデカイのだ。それなのに一匹でソリを引かせるのは無理であろう。


 そもそもなぜ羊なのか、我はそこから問いかけたい。


「がんばれ! メープルプーシ! ワシらのプレゼントを心待ちにしている子供達がおるんじゃ! お前ならできる! がんばるんだ!」


「めぇ〜」

(重すぎる〜)


 な、なんというか、無理だろう。

 我はサンタクロースが引いた方がまだ早いのではないかと思いつつ、羊とサンタクロースを見守る。


「がんばれ!」

「めぇ〜」

(無理〜)


「がんばれ!」

「めぇ〜」

(無理〜)


「がんばれ!」

「めぇ〜」

(無理〜)


 なんという不毛なやりとりなのだろうか。

 もう、我には黙って見ている事なんて出来ないのだ!


 我は扉の陰から姿を現し、サンタクロースの前に駆けつけた。サンタクロースと羊は、我の突然の出現にビクっとして驚いている。


「な、なんじゃ? お前は?」

『我はゴーレムなり! サンタと羊が困っているようで見てられなかったから飛び出してきた、ただのお節介さ!』


「めぇ〜」

(何しに来た〜)


 羊が何しに来たかと問いかけてきた。

 ……何しに来たかと言われても、特に何も考えていないのだ。


『応援?』


 我は首を傾げつつ、声をかける。


「おお、おぬしからもメープルプーシを応援してやってくれ! こやつはやれば出来る羊なんじゃ!」


 サンタクロースは我が意を得たりと言わんばかりに、大声で我に話しかけてくる。我もサンタクロースの期待に応えるべく、わかったと力強く頷く!


『がんばれ! 羊! お前ならできる!』

「がんばれ! メープルプーシ! お前なら出来る!」

「めぇ〜」

(無理〜)


 羊は無理と鳴き声を上げるが、それでもなお、我は羊に声をかける。そしてサンタクロースも我のあとに続く。


『がんばれ! 羊! お前ならできる!』

「がんばれ! メープルプーシ! お前なら出来る!」

「めぇ〜」

(無理〜)


 我は何度も声をかける。


『がんばれ! 羊! お前ならできる! お前ならできる!』

「がんばれ! メープルプーシ! お前なら出来る! お前なら出来る!」

「めぇ〜」

(無理〜)


 まだ、我の応援が足らぬようだ。我は声を振り絞り、羊を応援する


『がんばれぇ! 羊ぃ〜! お前ならできる! お前ならできるのだー!』

「がんばれ! メープルプーシ! お前なら出来る! お前なら出来るぞ! お前なら出来るんじゃー!」

「めぇ〜」

(やってみる〜)


 おお、我らの応援が羊に力を与えたようだ。羊の瞳が力強く輝く。羊がゆっくり一歩、足を前に踏み出す。


 おおおおおおおおお!

 我は両手を握りしめて羊を応援する!


『動いてる! 動いてるぞ! 羊! がんばるのだ!』


 羊は真剣な表情で、さらに一歩、足を前に踏み出す。そして、もう一歩、足を前に踏み出そうとして止まってしまった。


「めぇ〜」

(無理〜)


 あぁ、やっぱり無理だったのだ。


「メープルプーシ。お前ががんばってくれないと、ワシの担当している範囲の子供達にプレゼントが届けられないんじゃ。なんとかがんばっておくれ」

「めぇ〜」

(無理〜)


 くっ、我にも何かできることはないのか?

 サンタクロースと羊だけではなく、このままではプレゼントをもらえない子供たちも悲しんでしまうことになるぞ!


 あっ! そうか!

 羊がソリを引かなくても我が引けば良いじゃないか!


 ふっふっふ。我は伊達にリヤカーを引き続けていたわけじゃないのだ!


『サンタクロースよ! こうなったら、最終手段なのだ! 我が羊の代わりにソリを引いてやろうではないか!』


 サンタクロースと羊は我の言葉を聞いて、はぁ、こいつ何を言ってるんだ? という表情を我に向けてきた。


「銀色の小さいの、お前の気持ちはうれしいが、メープルプーシでも引けぬソリをお前のような小さい者が引けるとは思えんぞ」


 我はサンタクロースの言葉を待たずに、羊とソリをつないでいる器具を取り外す。そして、羊をよいしょと持ち上げて、唖然とするサンタクロースの横に座らせた。


 我はソリとつなぐ器具を自分の身体に取り付ける。すると、どこにいけばいいのかが勝手に頭の中に浮かんできた。これはソリの力か!?


 いける。これならいけるのだ!

 確信を得た我はサンタクロースの方を振り向いて、一言告げた。


『ゴーレム、発進する!』


 サンタクロースが「えっ」と呟いたが、我は気にせず勢いよく走り出す。ぎゅんぎゅんとスピードを上げて、目指す世界がある扉へと向かう。


「ちょ、ちょっと待てぇ!!!」

「めぇ〜」

(早すぎ〜)


 サンタクロースと羊が何かを叫んでいるが、我らはすでに遅れているのだ。ちょっと待つなどとんでもないのである! むしろ、もっとスピードを上げねばなるまい! 我はサンタクロースに『心配不要だ』と告げ、さらにぎゅんぎゅんとスピードを上げて走り続ける。


 目指す世界がある扉が近づいてきた。ノックをしようと思ったが、勢いがつきすぎて、扉を突き破ってしまった。我はあとで直すからと心の中で詫びつつ、部屋の中にあった透明な四角い箱へと突き進む。


 あっ、やば、止まれない。

 ぶ、ぶつかっちゃうよ!


 我が慌てて回避しようとしたところ、サンタクロースが慌てて、四角い箱に手をかざし、「は、入る!」と叫んだ。すると我らは四角い箱にぶつかることなく、箱の中に入ることが出来たようだ。


「はー、はー、はー。あ、危なかった。扉を壊すことなんて出来んはずなのに、なぜ? 四角い箱を壊していたら、えらいことになっていた。あ、危なかった」

「め、めぇ〜めぇ〜」

(世界を救いましたね〜)

『ま、まぁ、結果オーライなのだ! がんばってプレゼントを配ろうではないか!』

「そ、そうじゃな。でも、そんなに急ぐ必要はないから、ゆっくり行ってくれればいいからな。銀色の」

『うむ! わかったのだ!』


 我はサンタクロースに返事をし、ソリを引きながら夜空を駆ける。

 あっ、そうだ。ラインライトで演出をしておいたほうがいいね! 我は気を利かせて、ラインライトで我が走った後に、光の道ができるように演出をした。



 ◆ ◆ ◆



 こうして、ゴーレムはサンタクロースと羊と一緒に世界中を駆けまわり、世界中の子供たちにプレゼントを配った。そして、ラインライトは1週間ほど消えることなく夜空に残り続けた。


 仕事をやりきったゴーレムとサンタクロース、そして羊は互いの健闘をたたえ合う。

 そして、世界儀から外に出たゴーレムとサンタクロースはしっかりと握手をする。ゴーレムは『またな』と声をかけ、颯爽と去って行った。


 残されたサンタクロースと羊は、ゴーレムの姿が見えなくなるまで、その後ろ姿を見送った。


「あんな小さいのに、大したものじゃな」

「めぇ〜」

(たしかに〜)


 そんなサンタクロースの肩にそっと手が添えられた。手を添えたのは額に青筋を浮かべた、この部屋の管理者だ。


「ようやく捕まえたぞ! よくも余の部屋の扉を壊してくれたな! この扉を壊した落とし前どうしてくれるのだ!?」


 サンタクロースは、「あっ」と小さな声を上げて、扉を見た。

 そこには壊れたままの扉があった。サンタクロースは、管理者に謝った。だが、管理者の怒りは収まらずサンタクロース協会に苦情を入れたため、サンタクロースと羊は3万年の間、配達係から外されることになる。

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