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第10話 おとぎ話の世界

 我はゴーレムなり。


 巨大ロボットがあった世界の部屋から、飛び出して近くにあった和風な扉を開けて入る。

 ふー。危なかったのだ。あの人影はきっと我一人だけで楽しんでたから、文句を言いに来たのに違いないのだ。今度からはちゃんと断ってから、遊ぶ……いや、世界に介入せねばならんな。


 うむ、気をつけよう。我は一人で反省をする。


「ちょっとなんなのよ、あんた!」


 一息ついていた我に、突然声がかけられた。

 声がした方向を見てみると着物っぽい服を来た黒髪の少女がいた。


 なんだ、こやつ?

 なんなのよとは、乱暴な挨拶なのだ。


 あぁ、もしかして、この部屋の主なのかもしれぬ。うむ、我は大人なゴーレム。きちんと挨拶をしておこう。


『我はゴーレムなり。ただいま元の世界に戻るために彷徨っている、彷徨うゴーレムなのだ!』


 我の挨拶に、きょとんとした表情を浮かべる黒髪の少女。

 はぁ? って感じの表情をしているのだ。


『ところで、おぬしは何という名前なのだ?』


 黒髪の少女は驚いて、我に話しかけてくる。


「えっ、なに、私のことを知らないでこの部屋に来たの!?」


 我は少女の問いかけにこくりとうなずく。なんで、知っていると思ったのだろうか。


「私は、カグヤ! かぐや姫と言った方が有名かも知れないけど、おとぎ話で聞いたことない? いろんな世界に私の話を配布したんだけどなぁ」


 はっ? かぐや姫?

 我は黒髪の少女の言葉に驚く。


『かぐや姫って、あの竹から生まれて、男を手玉にとって、月に勝手に帰って行ったという、身勝手なかぐや姫のことなのか!?』


 我は驚いて少女に問いかけるも、なぜか少女は眉間にしわを寄せている。

 おなかでも痛くなったのだろうか?


「身勝手って、あんたの中の私の評価ってそんな感じなの?」


 あっ、どうやら、かぐや姫は我の評価に怒っているみたいだ。

 ちょっとフォローしておかないと。


『も、もちろんそれだけじゃないのだ! 見た目は美人っていう話だよね! 見た目は!』


 あっ、かぐや姫の眉間のしわがさらに深くなったのだ。

 我は何か回答を間違えたらしい。美人と褒めたのに、どうしてなのだ。どうしよう、困ったな。


「で、私の部屋に入ってきてなにか用なの?」


『いや、特に用はないのだ』



 我はしばし、かぐや姫と無言で見つめ合う。気まずい。

 何か、変なことを言っただろうか? いや、何も言っていない。


 何か、会話のきっかけを探さないと。こんな時は天気の話か、共通の知り合いの話をするに限るのだ。我とかぐや姫が共に知っている人物となると……。


『育ててくれたおじいさんとおばあさんは元気?』


 かぐや姫の体から何かよく分からぬプレッシャーがあふれ出る。なんだ!? 我はまた何か地雷を踏んだのか? これはいかぬ。物語の事は触れないでおこう。


『ところで、かぐや姫は今どんな世界を管理しているのだ?』


 ちょっとかぐや姫のプレッシャーが収まったのだ。我は正しい質問ができたようだぞ!


『かぐや姫が管理しているからにはすばらしい世界なのだろうなぁ』


 我はそう言って、ちらりとかぐや姫を見る。おっ、かぐや姫の口元がちょっとにやけるのを我慢しているようになっているのだ。うむ、この調子でおだてていこうではないか。会話のキャッチボールは大変なのだ。


『我もかぐや姫を見習いたいから、どんな世界を管理しているのか教えて欲しいのだ」


 かぐや姫は、仕方ないわねといいつつ、我を透明な四角い箱の前に連れてきた。


「いい、よく見なさい。これが私の管理するおとぎ話の世界よ」

『ほほう、おとぎ話の世界とな。おもしろそうではないか』


 ふふんと胸を張るかぐや姫。我はそんなかぐや姫を気にせず、目の前に手をやってゴーレムズームを発動させる。ぐぐぐっと我の視界がズームアップされていく。


 我の目に飛び込んできたのは、様々な鬼達が、犬、猿、キジに監視されながら酷使される世界が広がっていた。そして、一段と立派な建物から、桃のはちまきを額に巻いた男が、美女達をはべらせてその様子を満足そうに見ている。


 な、なんだ? この世界は? おとぎ話の世界というからには、もしかして、桃太郎の世界なのか?


 我が目の前の光景を理解できずに呆然としていると、かぐや姫が勝ち誇った顔で話しかけてくる。


「どう? 桃太郎の世界よ。鬼達を桃太郎がやっつけて、めでたしめでたしというところなのよ!」


 我は、ゴーレムズームをいったんやめて、かぐや姫に向かって、手をぱたぱたと振る。

 いやいやいや。ないないない。


『いや、めでたしではないだろう! 鬼達がかわいそうではないか!』


 我は犬、猿、キジに監視されながら、働いていた鬼達を思い浮かべる。老若男女とわず、鬼と言うだけで酷使されていたのだ! あれはあんまりであろう。


「なによ。鬼なんて、やられるためだけに存在しているんだから、別にかまわないでしょ!」


 かぐや姫はちょっと怒りつつ、我に反論してきた。

 ぐぬっと思うも、ここはひいてはだめなのだ!

 だめなことをダメと伝えるのも大人のつとめなのだ!


『それは違うのだ! 我が見た限り、鬼達はやさしそうな顔をしていたぞ! 酷使されつつも互いにいたわり合いながら、必死に生きていたのだ! それに比べて、桃太郎はぶくぶくと太ってメタボではないか! あれではどちらが悪役かなどわからぬぞ!』


「ちょ、うるさいわね! 私の管理する世界なんだから、別にいいでしょ! 物語の中の登場人物には、それぞれに与えられた役目があるのよ! 鬼はやられるためにいるの、だからあれでいいの!」


 我とかぐや姫は互いに譲れぬ主張を言い合う。ムキーっとなるが、ここは我慢なのだ! 手を出してはならん。あくまでも、論破せねば!


『だから、かぐや姫の物語は人気がないのだ。そもそも竹取物語だから、かぐや姫はある意味脇役なのだ』


 我は脇を向いてぼそっとつぶやく。


「ちょっとそれどういうことよ!」


 かぐや姫が怒った様子で我を問い詰めてくる。


『ん? 知らぬのか? 我がいた世界では、絵本とかではかぐや姫というタイトルだったが、その元となる古典では竹取物語、あるいは、竹取翁の物語というタイトルだったぞ。だから、かぐや姫が主役ではなくて、おじいさんの方が主役と言えるのだ』


「な、な、なっ! そんな馬鹿な事あるわけないじゃない!」


 かぐや姫が顔を真っ赤にさせて怒っている。真実を告げられて受け入れられていないみたいなのだ。


『いや、間違いない。我が記憶に間違いなどあろうはずはないのだ』


「ふん、どうでもいいわ! あんたがなんて言おうと、鬼達の役割は変わらないんだからね!」


 かぐや姫の言葉に、我はぐぬぬと歯を食いしばる。食いしばる歯はないけど。ふー、ふー、ふー。落ち着け。我は大人なゴーレム。押してダメなら引いてみるのだ。


『かぐや姫よ、役割だから、そのままでいいというのは違うのでないか?』


「どういうことよ?」


『役割など別にこなさなくて良いのだ。おぬしもかぐや姫という役割にとらわれていなければ、おじいさんやおばあさんとずっと一緒に暮らせたのではないか?』


 我の言葉にかぐや姫が黙り込んだ。おっ、いけるんじゃないか? 我の言葉でかぐや姫を説得できるのではないか!?

 我のゴーレムアイがかぐや姫の表情を正確に分析する。かぐや姫の表情は、なつかしさと役割に従っておじいさん、おばあさんを見捨てて月へと旅だった悔恨が浮かんでいるのだ。


 我はさらに追い打ちをかけるべく、かぐや姫に話しかけようとしたところ、かぐや姫はふんと鼻を鳴らして、「あのくそじじいとくそばばあのことを思い出させんなよ」と悪態をついた。


 あれ、なんだ?

 またかぐや姫から正体不明のプレッシャーを感じるのだけど。我の言葉はかぐや姫には逆効果なのか?


「あんた、勘違いしてるけど、私は望んで月に帰ったのよ。強欲じじいに強欲ばばあ。私を金づるとしか、道具としてしかみてなかったあんな老害たちと離れることができて私はうれしかったのよ」


 かぐや姫のプレッシャーが強くなる。


 これは、あれだ! かぐや姫はぐれているのだ! おじいさんとおばあさんが育て方を間違えたのだ! このかぐや姫はいじわるじいさんといじわるばあさんに育てられてしまったのじゃないか!?


『ま、まぁ、過去は忘れて今はこの世界の話に戻ろうではないか。話の内容がそれるのはよくないよ』

「あんたが、そらさせたんでしょ!」


 ごもっともと思いつつ、我はかぐや姫に『ごめん、ごめん』と謝る。我は謝れるゴーレムだからね。



 さて、我はどうやって、このひねくれて育ったかぐや姫を説得すれば良いのだろうか。

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