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<プロローグ> 夢を見ていました

ーーゴーレム物語 夢の扉 プロローグより


 我はゴーレムなり。


 最初に苦情が来ないように、この巻の結論を述べておこう。

 この物語の結末は夢落ちである。



 我は古書店で見つけたうさんくさい本、【異世界への扉】を参考にして描いた魔法陣に魔力を込めると、魔方陣から発せられた光に包まれた。そして、突如として見知らぬ場所に立っていた。


 あの時は現実だと思っていたが、今ならわかる。あれは我の妄想の、いや、空想の中、つまりは夢の世界の出来事だったのだ、と。


 やけにリアルでいろいろな異世界を訪れることができる夢だった。さすがは我の夢の中。いろんな世界を訪れることが出来たのだ。眼が覚めるまでは、我もさすがファンタジー、異世界は不思議なことがいっぱいなのだ! と思っていたほどだ。


 我の夢の世界の話だが、とてもリアルだった。多くはないが、少なくもないエピソードがあるので、我が見ていた夢の内容を「夢の扉」というタイトルをつけ、一冊の本にまとめたみた。


 夢落ちではあるが、もしよければ、この先のページにも目を通してもらいたい。


ーープロローグ終わり



 ◆ ◆ ◆



 我は目の前に積まれている本の山を前にしばし立ちすくむ。


 せっかく頑張って書き上げて作ったのに、我が著作ゴーレム物語 夢の扉が投げ売りされているのだ。


 〈今なら期間限定で大銅貨1枚の破格の価格で提供しております。これは著者であるゴーレムが、せっせと手作りしたからこそ可能なお値段です〉


 くっ、なんだこの売り出し文は!?

 ほぼ原価で売られているのだ。それなのに誰にも買ってもらえぬとは……。


 我は山積みの本を全て抱え上げてカウンターへと進む。


 店主がしまったという顔をしているが、我は気にせずないわーポーチから、そっと一枚の金貨を取り出してカウンターに置いた。大銅貨1枚をお釣りにもらい、我は本をリヤカーに乗せていく。


 へっへっへ、買い占めてやったのだ! もう誰かが読みたいとか言っても見せてあげないのだ!


 くっ、これでは負け惜しみなのだ。


 我は何が悪かったのだろうと考えながら、我の著作を積んだリヤカーを引きつつ、王宮へと帰っていくのであった。我が引くリヤカーはかつてないほどに重く感じた。



 ちなみに我が作ったのは100冊だ。一冊だけ売れてたのである!


 誰が買ってくれたのだろう。


 ありがとう。

 ありがとう! 見知らぬ読者よ!


 我は一人でも読んでくれる人がいるなら、また続きを書くからね!



 ◆



 我は王宮の自分の部屋で本棚に99冊の本を並べていく。どうしよう、これ。在庫の山だ。保存用に5冊として、布教用として残りの94冊を使おうかな。いや、それでは、買ってくれた1人に申し訳ない!


 そんなことを考えていると、 我の部屋の扉がノックされ、ハクが入ってきた。


 我が寝ている間に、ハクはすっかり大人になっていたのだ。ハク達は我が5年もいなくなっていたというが、きっと我が寝ている期間のことを言っているのだろう。5年も寝てしまうなんて、我も疲れていたのかもしれない。ゴーレムになってから、ずっと寝てなかったので長期睡眠が必要だったのかもね。


「ゴーレム、私は夢の扉を買って読みました」


 あっ、どうやら我の本を買ってくれた読者はハクだったみたいだ。我はドキドキしながらハクの続きの言葉を待つ。


 どう?

 どうだった?

 我の本を読んだ感想はどうだった?


 我はそわそわしつつ、ハクの感想を待つ。


「ゴーレムは5年の間にいろいろな世界を救っていたのですね」


 ハクが穏やかな笑顔で話しかけてくる。おぉ、我の本の評価はそんなに悪くなさそうだ。


『うむ、我の夢の中でのことだがな』


 と、厳かに頷きながら返答する。ハクはちょっと困ったような表情を浮かべて質問する。


「あの、なんで夢だと思っているのですか?」


 えっ、なんでと言われても。それは、我が夢の世界から目覚める時に、登場人物のみんなが


「ああ、ようやく悪夢が終わる」

「これは夢だ。夢なんだ」

「こんなことがあっていいはずがないです……」

「なんだよ、あれ、おかしいだろ!」

「夢なら良かったのに」

「これからはきちんと仕事をしよう」


 みたいなことを言ってたから、夢だと思うんだよね。我の潜在意識の中のキャラ達が夢だというのだから、夢に違いあるまい。そして我が夢だと思う一番の理由は、夢の中では我から取り外すことができたないわーポーチが、今はまた我から取り外せないのだ。


 あれから魔法陣に魔力を込めても反応しない上に、変なログが出るだけだしね。


 我のそんな様子を見ながら、ハクが「多分、夢じゃないですよ」とつぶやいた声がやけに耳に残ったのだった。

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