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第8話 delirante~錯乱して~

 空から見ると、相当に広いのだろうと思っていた森林の東端が意外と近くにあることが分かる。

 飛竜ワイバーンの背は乗り心地が良く、風がそよそよと頬に当たって気持ちがいい。

 しかしよく考えてみると、飛んでいる速度や高度から考えると、気持ちいい、で済むような風しか吹かないというのは明らかに不自然だ。

 何か特別な現象が起こっていることが察せられた。

 それがIMMの名残としての何かなのか、それとも飛竜ワイバーンが自身の力を使って僕に配慮してくれているのかは分からないが、考えても分からない事は放っておくしかないだろうと眼下の観察に戻ることにする。

 まずはどこを目指して飛んでいくべきか少し考えてみたが、とりあえずはこれからのホームとなる土地についてはしっかり把握しておいた方がいいだろうと考え、しばらくは≪フォーンの音楽堂≫とその周辺の空を飛ぶことにした。

 そして予想通り、というべきか、遥か下に広がるのは鬱蒼と茂る森林と、そのど真ん中に不自然に建っている巨大な館だけ。

 その他には人工物は見当たらず、報告通りであることを確認するだけに終わる。

 さて、次にどうしようか。

 そう思って遠くに目をやると、丁度森林の切れた辺り、森の東端から伸びている道のようなものが見えた。

 クライスレリアーナの報告にあった道かどうか。

 少しずつ近づいていって見ると、それなりに大きく、馬車が通れそうな幅があるように思える。

 であればあの道を通る生き物の街まで続いていると考えるのは間違っていないだろう。

 それが人間かどうかはともかくとして。


「あれを辿っていけば街に辿り着くかな……」


 僕はそう呟くと、飛竜ワイバーンの手綱を引いて道の方へと飛んでもらうことにした。

 ある程度まで高度を下げて、道を観察すると、それほど質のいいものではなく、ただ邪魔になるものをどけて踏みしめただけ、というレベルのもののようだった。

 これがこの世界での一般的な道路工事技術だとするなら、IMMの舞台となった世界よりも技術水準は低いということになるだろう。

 IMMでは、確かに未開の土地も大量に存在していたが、ある程度の規模の街があれば、そこには舗装された道が確保されているのが普通だったからだ。

 とはいえ、この周辺の道の質が良くないのはここがあまりにも田舎であると言うだけなのかもしれない。

 それほど広くは無かったとは言え、一帯は基本的に森林ばかりだ。

 東――道の伸びている方向には緩やかな丘陵地帯が見え、また別の方向――森を超えた遥か西側には縦に森をぶった切るように長大な山脈が聳えるのが見えている。

 どちらの方向にも発展した街がないとも限らない。

 もう少し、調査が必要だった。

 手綱を引っ張り、飛竜ワイバーンに道なりに飛んでもらう。 


 と、しばらく飛んでいると、急に肌がぴりぴりするような感覚がした。


「……なんだろうね?」


 ワイバーンにそう話しかけると、彼もそのぴりぴりを感じているようで、うぉんと鳴く。

 どうやら何かに近づいてきているらしい。

 それとも僕らが近づいて行っているのか。


 と、突然鼻を突くような臭いが前方から漂ってきた。

 生き物の腐ったような臭い、とでも言えばいいのだろうか。

 それは強烈で、鼻を摘まんでもまだ鼻腔に残るほどだ。

 僕は飛竜ワイバーンの速度を上げ、その臭気のもとへと急ぐことにした。


 辿り着いた先で、広がっていたのはまさに阿鼻叫喚と言える光景だった。

 何人もの騎士風の男たちが四肢を失い、またその臓物を地にぶちまけて倒れ伏している。

 彼らのうち何人かはおそらくはもう、生きてはいないだろう。

 それに、未だ生存している騎士たちも目の前の敵との戦いに自身の生命の全てを賭けているかのような獅子奮迅の戦いを見せており、彼らはしきりに背後に存在する豪奢な馬車を気にしながら力を振るっている。

 一つ剣を振るう度、また魔法を放つ度に彼らは血の気を失っていき、自身の力の及ばなさに絶望の表情を浮かべてそれでもあきらめずに戦い続ける様は、まさに騎士と言うにふさわしい。

 その中でも高齢の男性が一人、最前線で指揮をしつつ、他の騎士たちとは異なって魔物の一匹と互角の戦いを見せている。

 他の騎士たちは、全員がかりでもう一匹と戦っているのだから、その技量のすさまじさが分かろうと言うものだ。

 その剣は冴えわたり、また魔法の腕も天下一品のよう思えた。

 しかしそんな彼も、徐々に分が悪くなってくる。

 振るう剣からは力が抜けていき、そして最後には魔物が放った魔法についには限界を迎える。

 どれだけリアルに近いとは言っても所詮ゲームの世界でしかなかった、流血表現が極めて厳しく規制されていたIMMでは絶対にありえない、スプラッタな光景に呆けてしまっていた僕は、高齢の騎士の最後の言葉に我に帰る。


「姫を……姫をやらせてなるものかっ……!!!」


 その言葉で僕は理解する。

 彼ら騎士は、おそらくあの馬車の中に乗っている"姫"とやらを守るために命を散らしているのだ。

 言われてみれば馬車は確かに王侯貴族が乗るにふさわしい豪奢さで、車輪も箱の部分にも精緻な意匠がちりばめられている。

 未だ馬車に傷一つついていないことからして、騎士たちはその任務を果たしていると言えるだろう。

 しかしこのままではそれも無駄に終わる。

 放っておけば早晩、あの馬車は魔物の手により粉々に破壊されるだろうと思われた。


 しかし、高齢騎士は今際の際の言葉と共に、胸元に手をやって何か取り出す。

 見ると、どうやら十字架の形をしたペンダントのようで、彼はそれを額に当てて何かを唱えだす。


「……わが身その血の一滴まで神に捧げる――宵の火ヴェスペーロ・ファイロ!!」


 それは全く聞いたことのない詠唱だった。

 少なくともIMMにそんな魔法は無い。

 最後まで唱えると同時に高齢騎士は口元に笑みを浮かべて敵を見た。

 高齢騎士の体から生気が抜けて行くのが感じられる。

 それは十字架に吸いこまれ、強く収束していった。

 そして高齢騎士は自らの生気の殆どが注ぎ込まれた十字架を思い切り彼の敵に投げつけると、そのまま倒れ伏した。

 十字架はゆっくりと放物線を描き、魔物の元へと飛んでいく。

 十字架が魔物に触れると、魔物の周りを透ける緑色の障壁が取り囲んだ。

 魔物は障壁から逃げ出そうと激しく暴れるが、魔力によって作りだされた壁は全くびくともしない。

 障壁内部の中空、魔物の眼前に浮かんでいる十字架はそのまま、まばゆい光を放ち、巨大な轟音と共に障壁の内側で大爆発を起こした。

 メラメラとした炎が障壁の内部を満たす。

 そしてその炎は太陽のような美しい模様を作り出した。

 障壁の内部は相当な高温になっているだろうと思われ、これがあの老齢騎士の最後の力なのだと思うとその輝きの美しさに目を奪われそうでもあった。

 命を捧げて生みだされる、最後の火。

 それがあの光なのだと。

 彼は死の瞬間に太陽を作ったのだと、僕はそう思った。 


 そうして、魔法の効果が終わったのか、光が徐々におさまっていく。

 これでもうあの魔物の脅威は去ったのだと、そう思われた。

 障壁はぼろぼろと崩れ落ち、内部に籠っていた熱が放出される。

 充満していた煙が晴れていった。

 

 しかし、誰もが思ったことと正反対の現実がそこにはあった。

 そこにあったのは、あれほどの豪炎にさらされながらその影響を全く受けず、未だ従前と同様に健在な魔物の姿だった。


――死霊王バロウワイト


 そう称され恐れられているアンデット系魔物モンスター最高峰の存在が、そこにはいた。

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