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「記憶が、ない?」

「ああそうだ。正確には2312年の9月20日以前の記憶が、な」

 にわかに信じられなかった。記憶喪失など、架空の物語でしか起こらないものだと思っていた。

 ルミアも同じことを思っているのだろうか。翔は騎士少女に視線を向けた。

「そんな理由で……済むことではない!」

 ルミアは先刻よりも険しい顔で、ハーネストを睨んだ。

「貴様にどういう理由があろうとも、多くの同胞が貴様に殺されたことには変わるまいっ!」

「……そのことで、一つだけ確認したいことがある。仮に俺が本当にお前の仲間を殺したと仮定しよう、だが……お前の仲間を殺したのは、そのときその場にいたのは……本当に、俺なのか?」


「……本当に、俺なのか?」

「なんだと……?」

 剣の柄を握りながら、ルミアは目を細めた。

 今マクシミリアンは何と言った? 奴は仲間を殺してない? あの場にいたのは、奴ではない?

 瞬間、あの日の光景が浮かんできた。雨が降っていた、自分は薄れていく意識の中で見ていた、仲間たちの死体、その中で立っていたのは―

「あああ、あ、あああぁぁぁぁ!」

 ルミアは絶叫した。記憶が曖昧になる。平衡感覚が保てなくなる。

「ああぁ、違う、違う違う違うっ! 殺したのは貴様だ、貴様なんだ! だからココで……殺す!」


 その場で悶えた後、再びルミアはハーネストに斬りかかっていった。しかし、その剣捌きが先ほどよりも精細さに欠けているのは、翔にも理解できた。

「どうしたんだ……」

 理由はなんとなく分かってた。

 彼女の中で、何かが崩れつつある。それはたぶん、今の彼女にとっての行動理念だ。

「と、とにかく、何が起こるか分からないからな…注意しておかないと」

 そう言って再び戦場を見たとき、違和感を感じた。

 ハーネストは間合いを取りながら応戦している、ルミアはがむしゃらに剣を振るっている。それは変わっていない。いや―

(なんだ、あれ……?)

 ルミアの装備、輝く白銀の鎧の隙間から、闇色の<何か>が漏れている。

 今声を掛けるのは危険だが、教えるしかない。

「ハーネストッ!」

「なんだ!?」

 拳銃型MTDから弾を撃ちつつ、ハーネストは耳を傾けてきた。

「あいつの後ろ、鎧の隙間から変なもやみたいなのがでてる!」

「靄、だと!? そんなのみえねーぞ!」

「俺には見える、だから……そこを撃ってみてくれ!」

「……そんなに言って、何も無かったらしょうちしねー、ぞ!」

 こちらの提案に乗ってくれたハーネストは、自分の足元に向けて銃を撃った。その衝撃でハーネストの身体が宙に浮く。

 そして彼は、今まで使わなかったホルスターから、何かを取り出した。

 それは二つ目の拳銃型MTDだった。ハーネストは取り出したそれを、今まで使っていたMTDと連結させた。

「で、どこだ!?」

「彼女の背中、鎧の部分だ!」

「了解!」

 力強く返答したハーネストは、今までよりも長くなったMTDを下にいるルミアに向けた。

「くらえ、【ゲイヴォルガ】!」

 翔から見えたのは、MTDの銃口から放たれた槍のような弾と、それに撃ち抜かれて霧散していく靄だった。


「大丈夫か?」

「あぁ、少し……休ませてくれ」

 撃たれた衝撃で地面に倒れた少女からある程度距離を置いて、翔はハーネストと話していた。

 あの闘いから、十数分経過していた。その激しさを物語るように、地面は捲れ、ところどころ弾痕がある。幸い場所が人目を気にすることのない廃工場だったため、住民に通報されることはないだろう。

「それにしても、どうやらアレは呪術じゅじゅつに類するものだったみたいだな」

「あの、靄みたいなのか?」

「そうだ。さっき俺が撃ったのは、対呪術用魔法【ゲイヴォルガ】ていう奴でな、撃った対象に掛けられている呪いとかを消滅させることができるんだ。一応、人体に影響はでない」

「なるほど」

 その時だった。

「う、うぅ……」

 ルミアが目を覚ました。翔はハーネストの前にでて二人の間に壁を作る。起き上ったら、また襲ってくることを考慮してのことだった。

「わ、わたしは…どうして、こんな、間違いを…」

 どうやら呪術が消えたことによって、自分の間違いに気づいたらしい。ダメージを負っている身体を動かし、彼女は立ち上がった。

「すまなかった……どうやらお前は騎士殺だと錯覚させられていたようだ」

「気にするな、呪いを掛けたやつが仕組んだことだ…」

 ハーネストは素っ気なく答えた。そんな彼を翔は少し見てから、

「それで、えーと……」

「ルミアでいい」

「……ルミアは、これからどうする。また騎士殺しって奴を捜すのか?」

 ルミアは首を横に振った。

「いや、しばらくは、この街に留まるつもりだ」

「そうなのか、じゃあ……道で偶然再会したら、そんときはよろしくな」

 冗談めかして翔はルミアに言った。彼女は目を丸くして、

「ああ、そのときは……少しは話そう。ではな」

 ふらつきながらも、ルミアは廃工場を後にしていった。

 これが、今日彼女を見た、最後だった。

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