遭遇
土曜日、翔は同居人となったハーネストと共に隣町のショッピングモールに来ていた。ハーネストの日用品や衣類、あわよくば働き口を探すためだ。
「へぇ、日本のショッピングモールはこんな感じなのか」
「外国の方は違うのか?」
「まあな。アメリカとかだと、確か大型のMTD専門店があったはずだ。あとイタリアだと様々な情報が表示される空中モニターがあるな」
「へぇ……」
他愛もない会話をしながら、いろいろな売り場を見ていく。
いつの時代になってもスーパーやコンビニ、大型デパートというものは存在する。それは2313年の今も同じだ。もっとも、技術の発展で昔との差異はある。
例えばスーパーの場合、入店するたびに、その日の一押し商品や鮮度いい品の情報をチェックすることができる。また、コンビニの場合だと強盗対策として危険物探知機が設置されている。
「お、この服なかなかいいデザインだな」
「いまじゃ衣類も最新素材を使っているからな。買おうか?」
「おう、頼む」
そうこうしているうちに買い物は進み。
「ふぅー」
翔は休憩スペースに置かれていたベンチに腰を下ろしていた。ハーネストは一人でトイレに行っている。
今の時代は配達システムも進歩し、住所さえ教えれば無料で様々なものを送ることができる。そのため荷物を持ったまま歩き回ることもなくなったので、安心してくつろげることもできる、今の翔みたいに。
「ん?」
何気なくあたりを見回していた翔は、ある一点に視線を止めた。大勢の客が行きかう人ごみの中に、見覚えのある人影があった。
輝く長い金髪を襟足で一つにまとめ、男物の黒スーツを身に着けているの少女は、
(昨日の女の子、買い物か?)
どうやら向こうは気づいていないらしい。その姿を少しだけ視線で追おうとすると、
「なんだ、気になる女でもいたのか?」
「うお、な、なんだ……ハーネストか」
いつの間にかハーネストが立っていた。足音も聞こえなかったので、それなりに驚いた。
「いつのまに」
「ん、ついさっきだ。それより、そろそろ帰らねえか」
時間を確認してみると、すでに三時過ぎだった。
「あ、あぁ……そうだな」
まだ納得できない部分はあったが、とりあえずは気にしないで、翔はハーンストとゲートに向かった。
捜し求めていた人物は、確かに近くにいた。しかし、こうも人が大勢いると捜そうにも捜せない。
(さっきの気配、あの男は間違いなく、わたしの近くにいた)
少女はもう一度、その事実を胸中で噛み締めた。
少女は、同じ地区にいる仲間に情報の確認をしようと携帯を取り出そうとした。
だがそれよりも早く、携帯が震えた。誰かが電話を掛けてきたきたのだ。
「はい……なんだ、お前か」
電話の相手は情報を聞こうとしていた仲間からだった。そして、その仲間から重要な情報を得る。
「……<騎士殺し>が、少年と一緒に歩いている? それは本当か」
仲間の返答は短かった。そして、その返事を最後に通話が切れる。
少女は立ち止まり、考えた。そして僅かな逡巡のあと、ターゲットを追いかけるため、踵を返して出口へ向かった。
隣町の駅でリニアトレインに乗り、翔はハーネストと共に最寄駅で降りた。そこから徒歩で帰宅しようとする。しかし、
「すまん、ちょっと寄り道いいか」
突然ハーネストがそんなことを聞いてきた。
「別にいいけど、ここらの地理はわかるのか?」
「ああ、ある程度は把握している」
そう言いながら、彼は歩調を速めて歩き出す。仕方がないので翔も後を追いかける。
そしてハーネストが向かった先は、人気のない工場跡だった。確かここは、五十年くらい前に爆発事故があって閉鎖された場所のはずだ。
「こんなところに来て……なんの用だ?」
前を歩く彼に聞いてみると、静かな口調で答えが返ってきた。
「いや、ここなら周りに迷惑が掛からないと思ったからだ。お前は物陰にでも隠れておけ」
「は?」
ここにきて、翔はハーネストに違和感を感じた。口調も、雰囲気も、今までとは別だった。そして目の前の彼は、冷徹ともいえる声音で、
「出てきてもいいぜ。最初からアンタの存在は知っていた」
そして聞こえたのは、足音。とっさに音の発生源に視線を向けて見えた人物は、
「そういうことなら……わたしはあえて自らの姿を晒そう」
男性用の黒いスーツを着た、金髪の少女だった。