運命の出会いⅡ
謎の少女と遭遇してから十数分後、友人の響子と日向と別れてから、翔は自宅前で<それ>を見ていた。
自分の家の表札が掛けられている塀、そこに死んだように背中を預けていたのは、
「……」
男だった。
「さっきの女の子といいこの男といい、今日は新しい出会いが多い日だな……」
冷静に今日の出来事を分析しつつ、翔は男に声をかけてみる。
「あのーもしもし、聞こえますかー?」
何度か声をかけてみると、小さな返答があった。
「……った」
「はい?」
「はら、へった」
数分後、大空家のダイニング。そこでの光景を、翔は戦々恐々(せんせんきょうきょう)しながら眺めていた。
「……うまい、うまいぞ! やっぱ人間三食くわねーとダメになっちまうッ!」
とりあえず何か食べさせないとと考え、翔は男を家の中に入れた。それから冷蔵庫に入っていた食材を使って数品の料理を出したのだが。
「……」
男は勢いよく料理を口の中に運び、次々と皿の中を空にしていく。
翔は改めて男を見た。二十代の白人種の男だった。整った顔に赤い瞳と銀色の髪、服装はシャツにジーンズというラフな格好で、帰り道で出会った少女が言っていた特徴と一致するところはあるが、それは銀髪というところだけだった。
考えている間にも男の食事は進み、最後にコップに入った水を一気に喉に流し込み、
「ふぅー、ごちそうさん」
ようやく食事が終了した。
「すまねーな。おかげで助かったぜ」
「はぁ……それはよかったですけど、なんで俺の家の前で座ってたんですか?」
食器を片づけながら、翔は聞いてみた。その質問に男は頬杖をしながら答えた。
「実はな、俺はこの街に来たのは昨日の夜なんだ。でもって適当にブラブラ歩いてたら、何も食ってないことに気が付いた。で、そこからさらに当てもなく歩いていたら空腹が限界にきて」
「倒れたのが家の前だ、と」
「そういうことだ」
翔は呆れたような溜息をつき、大事なことを聞いてみる。
「それで貴方は……えーと」
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はマクシミリアン・ハーネスト、好きなように呼んでいいぜ。あと話すときも敬語なんて使わなくていい、堅苦しいのは好まん」
「なら俺も翔でいい。じゃあハーネスト、一つ聞いていいか」
翔はもう一度男―ハーネストに聞いてみる。
「なんだ?」
「ここに来る途中、スーツを着た少女が人を探してたんだ、特徴がお前と似てるからもしかして、と思ったんだが」
僅かな間。ハーネストの答えは簡潔だった。
「さあな、人違いだろ」
「そうか」
そうさと言いながら、ハーネストは席を立つ。そこで翔は気づいた。ハーネストのジーンズのポケット、そこから小型の器械が見えた。
「それ、もしかしてMTDか?」
「そうだが?」
「汎用型とデザインが結構違うみたいだけど」
「そりゃあそうだ。これは世界で普及している汎用型じゃねえ。ほんの一部でしか作られてない特化型だ」
「特化型?」
聞いたことがない単語だった。
現在世界で造られているMTDは、薄い携帯のようなタイプが最初だった。そこから新しいMTDが発表されていき、現在では携帯型、腕輪型、指輪型の三種類が出回っている(翔の持っているMTDは腕輪型)。
「ほら飯食わせてくれた礼だ」
ハーネストはポケットに手を突っ込み、中のMTDを取り出した。それはグリップがあり、銃身がある、拳銃の形状をしていた。
「これが特化型」
「そうだ。イギリスに行ってた頃に偶然見つけてな、それからずっと持ってる。しかもこの特化型は汎用型と違って、使用者の魔力を弾に込めて撃つことができる」
一通りの説明を終えたハーネストは、MTDをポケットに仕舞った。
「ま、説明は大体こんなものか。てなわけで、世話になった」
「……は?」
突然話の方向が変わったことに翔が唖然としている間に、ハーネストは玄関へ向かった。
「ちょ、まてよ!」
無言で出ていこうとするハーネストを、慌てて追いかける。
「あん? なんだ」
「お前、どこ行く気だよ」
「どこって、また旅にでようと思ってるんだが?」
「旅って……旅費はあるのか」
「あんまり持ち合わせはないな。だが、だからといってここに居続けるわけにもいかん」
翔は黙り込んだ。数秒の沈黙が続き、翔は溜息を吐いた。
「あのなぁ、なんならウチに居候って形でもいいぞ?」
「なに?」
「ウチに住んでもいいっていってるんだよ。こういうのもなんだが、俺の家って家族みんなお人よしな性格なんだ。父さんも母さんも、事情を説明すれば承諾してくれる……それに」
「それに……?」
「そのMTD……特化型か、興味があるんだ。魔科学技師を目指す者として、もっと調べたいんだ」
ほぉ、とハーネストは驚いたように目を丸くし、それから不敵に笑んだ。
「魔科学技師を志望か、確かにさっきMTDをみているとき、お前は興味深そうな目をしてたな。いいぜ、お前の誘いに乗った」
おてやわらかにと苦笑しつつ、翔は携帯を取り出した。
「あ、父さん? 俺だけど、今日から知り合いが住むことになったんだけど……そう、OK? ありがとう。できれば母さんにも伝えておいて、それじゃ」
「親父さんはなんだって?」
「全然、むしろ大歓迎だってさ」
それから翔は改めて向き直り、銀髪の男に言った。
「それじゃ、今日からよろしく」
イズミいざっくです(←もう、まとめちゃうか)。
前回のあとがきで『一章が終わるまで』的なことを口走ったようなそうでないような気がしますが、ここであとがきを書いている……ということは、はいそうです第一章終わりです(息継ぎなし)。ま、まあこれは計画通りみたいな感じだったので、悔いはアリマセンッ!
てなわけで次回からは第二章のはじまりです。こうご期待!