部活動歓迎会・3
諸事情で長らく遅れてしまい、申し訳ありませんでした<m(__)m>
「ふざけてんじゃねーぞ!」
体育館に入ると、いきなり罵声が飛んできた。しかしそれは翔に向けて飛ばされたものではない。
体育館の中央には、剣術部員と思われる一団と、彼らと向かい合っている一人の男がいた。男はそれほど特徴のない容姿だ。それでも、男からは威圧的なオーラが感じ取れる。
「ふざけてなどいない。俺はただ、思ったことを口にしたまでだ」
「それがふざけてるんだよっ! 『お前たちの剣術は遊びに過ぎない』だぁ!? テメーにそんなこと言う権利があるのかよ!!」
「あんまり威張ってると、タダじゃすまねーぞっ!」
男の発言に、不良部員たちが食ってかかる。それでも男は動じない。
「仕方ない……口で言って分からない奴には、直接身体に教えるしかないか」
周囲の空気がピリピリし始める。これはマズイな、と思いながら、翔はポケットに入れておいた風紀委員の腕章を腕に付けた。さらに両手には、手製の特化型MTDを装着させる。近くにいた生徒が、こちらの腕に巻かれた腕章を見るなりギョッとしていたが、無視した。
「以前剣術を磨いていた俺からの、一度だけの教えだ……存分に味わうがいい」
限界だ。このままだとケガ人が出る恐れがある。
翔はMTDを通して、二種類の魔法を起動させた。速度変換魔法Dランクの【瞬歩≪ステップ≫】及び硬質系魔法Dランクの【低純硬化≪ステイメン≫】を、同時に自分の身体を対象に使う。
そして迷うこともなく、一歩踏み出す。一瞬で数歩分の距離を進み、そのまま男たちの間に割り込む。
「そこまでです。一緒にご同行願えますか」
「っ……!」
「なに、どうしたの?」「一年か?」「みてあの腕章!」「風紀委員じゃねーか」
突然現れた部外者に、周囲の生徒がざわつく。
「風紀委員としてこの事態を見過ごすわけにはいきません。とりあえず、事情を聞きたいので一緒に来てもらいます」
「……その腕章、嘘ではないようだな」
男のほうは抵抗するそぶりはなかった。しかし、
「なんだぁ!? テメェいきなり出てきて!」
もう一人のほう―剣術部の部長らしき生徒は、納得がいかないようだった。
「風紀だかなんだか知らねーが、これは俺らの問題だ!」
「そうだ! 部外者は黙っとけ!」
ほかの部員たちも触発されたように不満をぶつけてくる。翔はわかりやすいように嘆息した。
「ふぅ、初めての仕事が……まさかこんなことになるなんてな。やっぱり風紀に入らなかったほうがよかたかも」
「なに独り言ってやがる!」
一人の部員が、手にしていた竹刀を振りかぶってこちらへ突進してきた。
「すみません。すぐに終わるのでそこいてください」
翔は短く早口で男に言い、こちらへ向かてきている生徒のほうを向いた。
そしてそれは、唐突に起こった。
翔は握るように竹刀を受け止めると、そのまま引っ張り、相手の体勢を崩した。さらに足を引っ掛けて転倒させる。
一瞬、周りの時間が停滞したような状態になった。
いち早く意識を現実に戻した数人の剣術部員が、揃って翔に襲い掛かってきた。それらすべても、翔は必要最小限の動きで捌き切った。
もしも擬音が実際に聞こえるようなことがあったら、この光景を見ていた全員には「ぶちっ」という音が聞こえたことだろう。
残った剣術部員が一斉に翔に飛び掛かった。周りにいた一般生徒が、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
そんな中でも、翔は多数の人数を相手に、冷静な立ち回りを披露した。
部員たちと対立していた男も、少し距離を開けて事態の行く末を見ていた。
応援の風紀委員が来たときには、ほとんどの剣術部員が地に伏していた。