部活動勧誘会・2
「さあお前たち。今年もバカ騒ぎの日がやってきたぞ」
委員会メンバーが全員そろうと、麻理が両手を机にのせて告げた。過去に同じことを経験している二、三年生は、疲労感を滲ませる表情をしていたが、翔を含む数人の一年生は真剣に委員長の話を聞いている。
「一部の者は知っているだろうが、この勧誘会は校則である程度規制されている魔法の使用が、全面的に可能な状態になっている。無論、校則を守る生徒もいるだろうが、大半の生徒は無視するだろう。実際、去年は風紀からも魔法を不正に使用して退学処分をくらったヤツもいる」
一年集団の中がざわついた。
「今年はそうならないようにするよう、全員が慎重に行動するように。最後に一年の中で、何か質問のある者はいるか」
麻理がこちらを向いて問う。
一人の生徒が手を挙げた。
「なんだ?」
特に特徴のない男子生徒が質問を投げかける。
「違反生徒を取り締まる際、こちらはどの程度の魔法を使っていいんですか?」
「基本的には身体補助の魔法だ。それ以外だと、Dランクの魔法もオーケーだ」
魔法にはその強さごとにランクが定められており、麻理が言ったDランク魔法には【火走≪ファイアラ≫】、【木枯≪ウッドパウダー≫】、【水泡弾≪バブルショット≫】などがある。翔自身も魔法は使えるが、彼が使うのはC~Dの初級魔法だ。
「ほかに質問のある者はいないようだな。では、これより各自校内の巡回を始めろ。くれぐれも調子に乗りすぎるなよ!」
麻理の号令を合図に、上級生たちが一斉に立ち上がった。背筋を伸ばし、握りこぶしを自分の胸に押し当てる。後で聞いてみると、これは委員会創設当時からの敬礼の仕方らしい。
次々と生徒たちが出ていくなか、最後に退室していった男子生徒三人が翔にそれぞれ一言ずつ述べていった。今部屋の中に残っているのは、翔を含む一年生数人と麻理だけだ。
「さて、じゃあ君たちも巡回に行きたまえ。巡回範囲は、集会前に配信しておいたデータの中に記載されている。各自確認しておくように」
全員が一斉に端末を確認する。翔の巡回範囲は体育館周辺だった。
「確認は済んだな? もし違反者や不審な動きを見せている者がいた場合、そこから先の判断は自分たちでするように……解散!」
「…さて」
中庭を通って巡回場所に来た翔は、ぐるりとあたりを見回した。
現在、この範囲で勧誘を行っている部活は、バスケ部と剣道部、剣術部など計五つの部だ。剣道部と剣術部の違いは、魔法の有無である。
「一応注意しておく部は……剣術部かな」
事前に調べておいた情報を思い出しながら呟いた。
剣術は、剣道から派生した虚偽で、従来の剣道に魔法を付加させる打ち合う競技だ。
そして、魔法先進学校でもあるこの魔科学校にも、剣術部が初めて造られれ、着々と日本国内に広まりつつある。
しかし、問題はここからだ。剣術部の部員たちは、創設より数世代後に荒れていき、一年前にはとうとう問題を起こしてしまった。
幸い事件は公には知られずに済んだので事なきを得たが、責任を取る形で当時の部長と顧問がそれぞれ部を去り、それに触発されるように部員たちも退部していった。
今現在の部員は全員が新しい生徒たちで構成されているのだが、その生徒たちはほとんど不良と変わらない者たちだった。
つまり今の剣術部は、不良生徒の巣窟と言っても過言ではない。
「生徒たちに問題があるなら、いっそのこと剣術部を無くした方がいいハズなんだけどな」
翔は独り言のように呟いた。
部員に問題があるのに廃部にされない理由……翔はこの機会を利用して調べることにした。
「とりあえずは、風紀としての活動をメインにして調査してみるか」
時計を確認してみると、この時間は丁度、剣術部が体育館を使用している時間だ。
そして体育館に行こうとしたその時。
「……! いまの音は」
聞こえてきたのは、何かが割れる音。そして間を開けずに、複数の悲鳴が、体育館から聞こえてきた。
「おいおい……いくらなんでも早すぎるだろ!」
翔は麻理に報告することはせず、現場である体育館に走って行った。