部活動勧誘会・1
日付は火曜。この日魔科学校は、今までよりも活気に溢れていた。校庭では朝早くから、一部の生徒が忙しく手を動かしていた。
それは、四月の二大イベント―新入生歓迎祭と部活動勧誘会の準備をするためだった。
「すごい光景だな」
開口一番。朝早くから登校してきた翔は言った。
今の時間は午前七時半。普段八時過ぎに学校に来る翔が三十分以上も早く来ている理由は、いつもより早く起きたゆえの偶然と、午後には風紀委員として行動することになっているので、そのための校内構造把握のための必然からだ。
グラウンドの脇で作業をしている集団を横目で見つつ、翔は昇降口から校舎へ入って行った。一から三年生の教室を順番に回り、体育館、カフェテリア、職員棟、特別棟と見て回る。
「ふむ、こんなところでいいだろ」
一通り校内を散策しメモ帳に記録しながら、翔は満足そうに頷いた。それから、教室に戻るかと考えてくるりと踵を返したとき、
「ん?」
近くの窓から見える中庭を、一人の生徒が去っていくところを見た。顔は確認できなかったが、服装から察するに男子であることは分かった。
しかし、彼がもっとも注目したのは、男子生徒の左手首。そこに巻かれていた赤と緑のリストバンドだった。
(…あのリストバンド……見間違いじゃなければ)
そこまで考えたところで、翔は思考を中断した。
顔をハッキリと確認したわけじゃないが、背丈や特徴は覚えた。男子生徒の件は、午後にでも冬華か麻理に相談してみようと、翔は決めた。
それからまたある程度校内を回った後、翔はHRの時間が近くなったので教室に戻った。
「よう。おはよう翔」
「ああ、おはよう」
最初に朝の挨拶をしてきたのはテツだった。昨日と同じような体勢で手を挙げている。
「おはよう翔くん」
「おはようございます」
続いて声を掛けてきたのは、響子と日向だった。二人は翔に気づくまで、一つ後ろの席で談笑をしていた。
「みんなそんなに楽しみにしている訳じゃないんだな」
「楽しみっつても、特にはしゃぐ程でもねーしな」
首を振りながら答えたのは、テツ。
「私が思うに、一番興奮してそうだったのはテツだと思ったんだけどなー」
「…オレって、そんなにバカみたいに見えるのか?」
苦い顔をするテツに向けて、翔。
「安心しろ。人によってはカッコよく見えるから」
「フォローになってないぜ、翔」
「き、気を落とさないでください」
暗くなった雰囲気をどうにか払拭しようと、日向はオロオロしていた。
時間が近くなるにつれ、第一体育館に生徒や職員が集まってきた。
体育館は敷地内に二つあり、この第一体育館は講堂の機能も備えている。第二体育館は主に、運動部などが使用することになっている。
特に座る場所は指定されていないので、翔たちは四人で座れる場所を探し、腰を下ろした。
座って待つこと十分。館内にアナウンスが響いた。
『これより、魔科学高校新入生歓迎会ならび、部活動勧誘会を行います』
周囲の拍手を聞きながら、翔は表情を改めた。別に誰に見せるでもないが、ただなんとなくだ。
まず初めに行われたのが学校長挨拶。温厚な顔立ちの男性が壇上に上がり、新しく入った生徒たちに激励を送った。
次に行われたのが、生徒会長挨拶。翔にとってはもう知り合いのレベルに達している冬華が出てきて、歓迎の言葉を述べた。途中こちらを見たような気もしたが、翔は特に気にしなかった。
最後に生活指導の教師などが諸連絡をして、午前の行事は終了した。
昼休みの時間になった。
翔は響子たちとの昼食が終わると、すぐに風紀委員室-各委員会に一部屋ずつ部屋が割り当てられている-に行った。午後のイベントについての、ミーティングがあるためだ。
「や。意外に早かったな」
部屋に入るとすでに麻理がいた。彼女の他にも、三人の男子生徒がいる。その三人とも、昨日会っているので覚えている。津嶋鉱太郎、成瀬遼、三木楴亜…麻理曰く、通称三バカの面々だ。
「みなさん、お早いですね」
一応は先輩なので、態度を改めて挨拶をする。
「畏まらなくていいぜ」と鉱太郎、「ここは実力重視の集団だからな」「みんながみんな、等しいのだよ」と、遼と三木が言った。
「そういうことだ。だからここでは、先輩でも対等に話してもいいぞ」
「……遠慮しておきます」
麻理の申し出に、翔は丁重に断った。
「まあいいさ。それより、もうすぐミーティングの時間だ。席に着いとけ」
麻理の号令に合わせて、翔は事前に伝えられていた席に座った。
勧誘会が始まるまで、あと二十分。