新観祭・2
大食堂に行くと、すでに大勢の人だかりができていた。魔科学校の大食堂は基本的に一般人にも開放されている、と入学式直後のガイダンスで聞かされていたので、然したる驚きはない。
「うはー、結構いるんだなぁ」
テツも聞いていたはずなのだが、食堂内を見渡しながら呟いていた。
「さて、とりあえず券売機で食券を買いに行くか」
「賛成」
手を挙げながら響子が翔に同意する。
それから各々が券売機で食券を買い、カウンターで料理を受け取った。そして四人で座れる席を探そうとしたとき。
「ん、大空くんじゃないか。奇遇だな」
料理の乗ったトレーを持ちながら、麻理がこちらへ寄ってきた。
「委員長? ほんとに偶然ですね」
「この方が、翔さんの入った委員会の?」
「あぁ、風紀委員長の市原麻理さん」
「ふむ、ちょうどいい。話したいこともあるし、一緒にどうだ?」
一同を見回しながら、麻理が提案してきた。こちらに断る理由はなかったので、翔は彼女の提案を受け入れた。
そして五人で座れる席を見つけた一同はそこに座り、各々が食事に手を付け始めた。初めて見たときから思っていたが、麻理は結構気さくな性格のようなので、すぐにテツらと打ち解けることができていた。そしてさらに空白ができたときに、翔は新観祭の話題を出した。
「ん、大空くんは新観祭のときにどうすればいいかだと?」
「はい。俺は今日風紀委員になりましたけど、それ以前に一年生でもあります。でも、委員長は委員会や生徒会がフルで動くことになると言ってましたよね」
「ああ言ったぞ」
「つまり、おれは委員会の一員として行動すればいいんですか?」
麻理は形のいい唇に指を押し付けて考え込む。ほかの三人は会話の成り行きを黙って見ているだけだった。
「…確かに、キミは一年生だしな、歓迎される側ではある」
一度頷いてから、麻理は指を二本立てた。
「じゃあこうしよう。歓迎式が行われるのは午前だ、そのときはキミは新入生として式に参加したまえ」
「…午後は?」
「午後は部活動の勧誘会がある。そのときは、風紀委員として校内の巡回をしてもらう。これでいいかな?」
その提案を聞いて、他の三人はそれぞれの感想を呟いた。
「うひー、大変そうだ」
「私別の委員会に入ろうかなー」
「翔さん、苦労しますね」
その三人に対して苦笑いを見せた後、翔は麻理に向き直った。
「まあ、そういうことなら俺も拒否したりはしません」
「大空くん、キミって案外上から目線なんだな」
「そういうわけじゃないですよ」
最後にニッと男勝りな(女性に対して失礼な気もするが)笑みを見せてから、麻理はトレーを持って立ち上がった。
「それじゃあな、大空くん。今後の詳細は分かり次第、連絡をする」
そう言い残して、麻理は立ち去った。