肉まんVSメンチカツ 決着は肉汁の彼方に
二人の男が、街中だというのにもかかわらず大声で言い争っていた。
「バカ野郎!」
「この大馬鹿が!」
二人ともあたりに響くような大声だ。そのせいで、あたりの人々からの視線が集まってしまっている。
だが、そんなものは二人を落ち着かせる要因にはならない。
それどころか、より多く人が集まる=自分の正しさを証明してくれる人が増えてくれると二人は信じる。それが声をより聞こえるように大きくさせ、結果としてさらにうるさくなっていた。
「だから何度も言ってるだろうが!!」
「そりゃこっちのせりふだって!!」
「肉まんの方がうまいだよバカ!!」
「馬鹿野郎! うまいのはメンチカツだ!!」
こんな内容でなければ、まだマシだと思う人は多かったかもしれない。
「なんでわからない!! あのあふれる肉汁を一番おいしく楽しめるは肉まんに決まってんだろうがバカ兄貴!!」
しかも、二人は兄弟らしい。
家でやれー。と、野次が飛ぶが、二人の耳には聞こえていない。
「ふざけるなよこの愚弟。肉汁を味わうということに置いて、メンチカツをしのぐ料理は存在しない!!」
ギャラリーも面白半分でみてきているが、彼らはきっと、真剣に行く末を案じていると思っているのだろう。
「あの柔らかく甘い皮が、皮こそが、肉汁を引き立てるんだ!! 違うか!!」
「おろかな、あのさっくりとした衣こそ、肉を進化させる切り札なんだよ!!」
「何度言えばわかるんだよバカ兄貴!!」
「それはこっちのセリフだこの愚弟が!!」
二人は額をぶつけ合ってにらみ合う。
なぜそんなことでここまでいがみ合えるのだろうか?
肉料理ではあるが、ジャンルが全然違う
「小龍包のほうが美味くねぇか?」
「オレはハンバーグかなぁ」
外野は外野で「何が美味いか会議」を始めてしまう。
だが、二人にとってそんな会話は聞こえない。
どっちが至高で最高か。この二人にとってはそれだけが全てで、それ以外は取るに足らないものだからだ。
だから、決着がつかないことに焦れた二人は最後の手段に移る。
「「アンタはどっちだと思う!?」」
自分達に振られてしまって、ギャラリーの面々は正直に言うと困り果てていた。
なにやらバカなことを本気で言い争っているので、楽しめそうだ。そんな理由で眺めているだけだったので、特に派閥のようなものも出来てはいない
「どっちだ。甘いベールに包まれた、肉の宝石である肉まんだよな」
「サックリとした衣に包まれし、肉汁の爆弾であるメンチカツだよな」
そこにこの二択問題である。正直逃げたい。
が、これだけ集まるとお互いの視線が重りになって、逃げるという選択肢も取りづらいものだ。
いったいどうやって、この空間からしっぽを巻いて逃げだせばいいのか。周りの人々の心は、いつの間にかそれに収束されていた。
だが、そこに天啓ともとれる答えが返る。
「・・・いっそさ、肉まんを衣で揚げたら最強になんねぇ?」
とてもうんざりした口調。明らかに、本人でも信じてないような口ぶりだった。
しかし、二人の男はそれに口を閉ざすと、ぶるぶると何かに耐えるように震えだした。
そして―
「「それだ!!」」
喜色満面で納得した
「そうだよ! お互いがおいしいというのはわかってたんだ!!」
「あとはそれを掛け合わせれば簡単だ!! 行くぞ愚弟!」
「おうよ! 出来上がったら真っ先に皆に食わせようぜ!!」
「それでは今すぐ作ってくる。皆、少し待っていてくれ!!」
善は急げと、きょうだいは踵を返して走り去る。
思わぬ飛び火をした兄弟げんかの終了に、ギャラリーはため息をついた。
その後、肉まんカツとでもいうべきそれが完成したのか、そして売れる程美味くなったのか。
そればっかりは、神のみぞ知る。