仮面
痛む頭を押さえるふりをして、俯いて表情を隠す。
落ち着いて。
取り乱したら、向こうの思う壺。
冷静に、考えるの。
何が私にとって最善か。
私がどうしたいのか。
何度か深呼吸をした。
不安な表情を浮かべて、周囲を見渡す。
「あの……ここは?私は、帰り道を歩いていたはずなのに……」
「戸惑うのも仕方ありません。突然お呼びして申し訳ありませんが、私たちには神子であるあなた様が必要なのです。」
「神子……?私はそんな人ではないし、特別な力なんか持っていません。」
「ご安心を。こちらの世界に渡られた時、力が付与されているはずですから。こちらの世界に来たこと。それが何より神子様の証なのです。」
「そう……なんですか。あの……どうして、私を呼んだのですか?」
「そうですな。詳しくご説明するために、部屋を移しましょう。ここは冷えておりますので。」
「……わかりました。」
仕方ない。
いつまでここにいても、なんの状況も変わらない。
私は緊張しているように見せるため、手を胸の前で握り込んだ。
本当は、早鐘を打つ心臓を抑えるため。
相手に悟られない程度に周りを見渡して、場所の把握に努める。
今はどこかわからなくても、いずれ必要になるかもしれないから。
冷静に。
冷静に。
大丈夫。
連れてこられたのは、20分ほど歩いたところ。
何度も階段を登ったから、高い位置にあるはず。
飛び降りるのは無理かな。
煌びやかだけど、落ち着いた部屋。
何かの香りが、心を穏やかにさせる。
精神系に作用するものだったら……
あまり嗅がない方がいいかも。
呼吸を少し浅くした。
促されるままソファに座ると、目の前に先ほど声をかけて来た男性が座る。
他の人は部屋の外と中に別れていた。
逃がさないように……かな?
普通の女子中学生に、そんなことできるはずないのに。
外は、たぶん夕方。
私の知っている夕暮れと同じだったら、だけど。
お茶とお菓子を用意してくれたけど、今の状態では手を出さない。
せめて、話を聞いてからでないと。
警戒は、しすぎて損はないはず。
この世界は知らない世界。
私の知っている常識が通じないかもしれない。
何が良くて、何が駄目なのか、きちんと見極めないと。
嘘をつかれているかもしれないことを念頭において、全てを信じ込まない。
身を守る術を持っていないから、せめて自分自身をしっかり持っていないと。
知らない声に名前を奪われたように、世界を奪われたように、これ以上私自身を奪われないようにしないと。
私はこの世界を、この世界に呼んだ人たちを、絶対に許さない。
私の世界を、名前を奪ったのだから、あなたたちの世界を奪っても問題ないでしょう?
よく言うじゃない。
因果応報って。
私はこの世界を憎む。
この世界を呪う。
今から私は、この世界のラーネットだ。
世界のどこかで、カチリと音がした。




