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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

私はやっぱり一般プレイヤー(仮)

作者: ここはが
掲載日:2025/12/23

 ユニーク的な要素を入れて、でもやっぱりユニークは罪深いなあと悩み、私は機能停止しました。とても中途半端に終わっています。

 アニメ調PvE協力型VRMMO『Myriadミリアド』。

 このゲームのデバイスは、大きく二つに分かれる。

 一つは、何千万円もするフルダイブ機器。ごく一部の富裕層や没入感ガチ勢向け。

 そしてもう一つが、私が使っている簡易型脳波コントローラー。頭によく曲がるカチューシャみたいなのを乗っけて、映像はモニターかVRゴーグルで見るタイプ。お値段は色々合わせて10万くらい、お財布に優し……くはない。

 当然、私の環境は後者。ながらゲームもしやすいし。モニターの前でカチューシャを壊れない程度にグニグニして装着し、ログインする。


 キャラメイクは見た目だけ事前に済ませた。175cm赤目金髪で後ろ髪はいくつかのでかいドリル。

 腕は違和感がないようになるべく長くして近接攻撃のリーチを伸ばすのだ、とバーをMAXまで動かした。そんなに変わってない。かなり前のテストでは性能のためにとんでもない怪物が生まれていたが、作れないように修正されているようだ。

 

 ジョブは一応『魔法剣士』を選択しておく。高機動アタッカーの中でも割と生存力とスリルのバランスが良いらしく、見本ではキラキラしてるからね。因みにジョブは後でいくらでも変えられるらしい。


 あ、私の名前は「うにょーん」です。


 視界が開けると、そこはよくあるファンタジーな噴水広場だった。アニメ調の大量のプレイヤーどもはやはり見た目が良く、建物の質感はリアル。


 ワールドチャットをチラッと覗くと、「イノシシどこー?」「北」「うおおお!」なんて会話が流れていた。

 私もそれに倣うことにする。チュートリアル? もちろんスキップ。


 街の外へ出ると、草原が広がっていた。

 ボスイノシシの方へ向かっているであろう集団と並走し、視界を回して景色を確認する。風で揺れる草の表現、木々と遠くの山の構図、空の青と雲。空の描き込みが凄いのは風景デザインにも期待できるよね。

 早速、道端にいたスライムを初期装備の『木の剣』で叩いてみる。

 

 ──ポコッ。

 

 軽い手応え。脳波コン特有の「念じれば動く」感覚も体感ラグ0で良好。

 さらに5体くらい倒した。

 私は足を止めず、人の波が向かう北へと走った。

 

 現場はすでにカオス。高さ3メートルはある赤茶色のイノシシが頭を振り回し大暴れ。ヘイトぐっちゃぐっちゃ。

 私も迷わず最前線へと突っ込んだ。狙うはもしかしたら弱点かもしれない鼻先だ。牙に囲まれているからか集中的に狙っている人はいない。


 ザシュッとダメージエフェクトと共に、イノシシの視線がこちらを向いた。ヘイトを買ったかな。

 巨大な牙が迫る。

 回避は──しない。

 チラリとイノシシのHPバーを見る。数百人が殴っているはずなのに、ミリも減っていない。

(……硬すぎ。これ、今の火力じゃ削りきれんなあ)

 現状の戦力を把握した私は、迫りくる牙を真正面から受け入れた。吹っ飛びながらHPがゼロになって暗転。


 このゲームはボスがあまりにも強すぎて、大勢でわちゃわちゃしてほしいからデスペナは無いです、て公式が言ってた。いやこのイノシシは袋叩きで楽勝らしいけど。本当?


 一瞬で噴水広場に戻ってきた。

 デスルーラ成功。ステータスダウンなし、不快感なしの優しい世界。フルダイブの人たちにはもしかしたらちょっと怖い体験かも?


 とりあえず所持品を意識すると、着ている初期装備一式と3000Gの金、スライムの魔石とジェルがある。運び屋なんてジョブがあるように、素材アイテムはバッグ容量に限りがある。運営からのばらまきメールを一括開封して、色んなアイテムと10000Gを貰った。


 ……武器の更新はしたいかな。

 マップを確認しても街の名前リゼラとワープポイントしか強調されていない。武器屋とかはどこかと噴水広場を離れる。


 屋台通りに着いた。ファンタジー武器屋と言えば鍛冶屋に併設されてるだろうと、煙に向かったんだけどね。

 このゲーム、空腹度はなくて料理はただのバフアイテムだからまだいらない。しかもアイテムの性能は特定のスキルなどがないと買うまで分からず、簡単に騙されるらしい。試しに目の前のやっすい『硬パン』を買ってみようかな。


 口に咥える装飾品だった。

 口に入れると「食べ終わるまで30分」って表示されるだけで何のバフも無い。


 それから10分くらい散策し、プレイヤーの流れに乗って武器屋に着いた。煙は出てなかったよ。

 店内には多様な武器が売られていたものの、『鉄のナイフ』10万Gが新品の最低価格で、それ以下は中古の1万Gとか。


「まいどあり!」


 購入した中古の『鉄の片手剣』を隅々まで観察するが、触るが、頭を叩いてみるが、粗悪品らしさは全くない。ステータスは物攻が伸びている。この伸びが低かったりするのかな。まあそれはいいんだけど……


 だれもパンに反応しないね。

 顔の半分のサイズはあるのにプレイヤーにも特に注目されない。悲しい。


 再び北の草原へ向かう。今度は早歩きくらいで。

 道中、周辺の雑魚敵を片っ端から新しい剣で斬り伏せながら進もう。


 ──シュッ。


 おお、スライム1発。明らかにステータス以上の効果が武器にある。試しに剣の腹で叩くと3発なので斬撃の効果が大きいか。初期装備の『木の剣』をまた使ってみると、刃を当てたつもりでも全部叩いた判定になって3発。


 スライムや、なんか牛か羊か分からん暴れる草食動物を薙ぎ倒していると「ピンッ」と音が。これまでも2、3回無視したがそろそろ確認しよう。


 ステータスを意識するとレベル4、さらに強化に進むと『キャラポイント:4』『ジョブポイント:3』と表示されている。

 このゲームには、キャラ自体の基礎能力を上げる『キャラスキルツリー』と、職業ごとの熟練度でスキルを取る『ジョブスキルツリー』がある。

 どちらも樹形図を埋めていく方式でとても大きいが、育成補助カスAIとの相談とまあまあ振り直しに寛容なのが救い。AIは全プレイヤーのビルドを元に学習するものの、情報提供を一部断る事もできる。βテストの動画で多少はお勉強してきたよ。


 まずはキャラツリー。HP、MP、物攻、魔攻、物防、魔防、速さの7ルートに大きく分かれている。大体2つのステータス特化にするのが無難らしい。枝の先に行くほどステータスのプラス値が増え、スキルクールタイム-10%とかのパッシブスキルも少し多くなる。また、キャラのレベルを25まで上げると面白そうな選択がある。

 ここは迷わず魔攻に全部振る。速さはボスイノシシには必要ないので後で。キャラスキルツリーはいくらでも振り直しができるからね。


 次にジョブの方。ステータスの乗算バフとスキルが解放できる。『魔法剣士』の場合は物攻ルートと魔攻ルートで主に分かれて、物理斬撃に魔法補助か魔法剣特化かな?

 こっちも魔攻ルートを強化。しばらくは速度魔法剣型を目指そうと思っている。


 最初のスキル分岐はどうしよう、まだ開けられないけど。どちらか一つしか選べない。


 A:『魔力伝導』

 B:『魔力斬撃波(無属性)』


 近接オンリーか遠近両刀か。まあ一旦いいや。


 しばらく歩いて現場到着。

 ボスイノシシは相変わらず元気に暴れ回っているが、さっきとは少し空気が違った。


「防御上げたやつ全員突っ込めえええ!」

「「「うおおおおお!」」」

「え、ちょ、まっ……」

「衛生兵!」

「何やっとんじゃー!」


 おっマジうるせえ、人多すぎ!


 このゲーム、プレイヤー同士には当たり判定が無いからここに一万人居てもおかしくない。

 プレイヤーたちから魔法が飛んだりバフで光ったりしてエフェクトが凄い。ボスのHPもいつの間にか10%減っている。数は力や。


 私も前線に走りイノシシの脇腹を斬り上げる。


 あれ、さっきスライム斬った時より火力が低い。まあボスの防御が高いのは分かるけど……あ、魔法攻撃じゃないから魔攻が効かないのか。


 SPを振り直すのは面倒なので攻撃を続けていると、「ピンッ」とまた鳴った。レベルが5になり、魔法剣士の熟練度も上がっている。

 なるほど、このゲームは倒すだけじゃなく、戦闘自体でもレベリングできる仕様らしい。ゾンビアタックでも稼げるのかな?


 しばらくの間、周りのふざけた叫びと偶に「ピンッ」と鳴るのをBGMに、淡々と斬って避けてを繰り返す。鼻は弱点ではなくヘイトを買いやすい部位っぽい。


 レベル7に上がった所で、経験値バーと熟練度バーの動きが鈍くなった。同じボス相手に戦うだけで稼げる経験値には上限があると言って良いのかな。私が新しい事をしてないから成長しないだけかも。


 一度後衛より下がってスキルツリーを確認する。


「遠距離職は作業ゲーかもなあ」

「まあ序盤はね。矢も無いしスキルぽちぽちだよね」

「魔法使いもMPないとスキルのクールタイム待ちしかする事ないんでぇ……」

「近接でレベルと金取って転向しろって事か? 転職は無制限やし。あーでも熟練度は持ち越せないか」


 範囲バッファーはもはや寝てるやつもいる。真面目な単体バフと回復の人はプレイヤーを凝視している。


 キャラツリーは今、魔攻+3を6つと与ダメージ+10%を取った。

 ジョブの方はさっきのスキル分岐に到達、『魔力伝導』を取ってみる。近接の方がスリルがあって楽しそうだし、避けるのには結構自信があるから。

 さらにこのスキルをレベル2に強化すると威力と伝導率を上げられるが、スキルレベルのリセットにはアイテムを消費させられるので保留。どの敵からも確率でドロップするらしいけど。そもそも伝導率って何?


 さあ、初めてのスキルです。

 意識すると剣が白く淡く光り、この状態で斬るとシュゥン! と。

 おお、ダメージが2倍近く増えた。魔攻に振ったのが効いてるね。しかも切り返しも心なしか速くなっている気がする。これ一回発動すると永続なの強くね?

 

 私もある程度強くなったから前線で目立ちに行こうと思う。鼻に張り付いてヘイト独占してやる。


「危ないよ。注意は僕のものだよ」

「うるせぇ、俺のや!」

「フンッ見るがいい。この華麗なナイフ捌きを」


 速度特化の人があえてスレスレで牙を避け、顔からイノシシの体をナイフで撫で切るように一周した。上手いねー。

 最初は私がそれなりに狙われていたのに他の人も真似し始め、遠距離勢も的当てゲームのように鼻ばっかり狙い始めた。合理的な動きなのか上手さを見せびらかしているのか、とにかく上手い人たちはヘイトを奪い合っている。まあ、戦略的にはヘイト分散させまくってキョロキョロさせるのは良いかもしれないが。

 独り占めしたかったよー。フレンド申請飛ばしたのだれー。


「危なっ!?」

「あああああ!」

「やっと終わったあああ!」

「最後の突進でおい、1000人ぐらい轢かれてないかw」


 そのまま討伐完了。サ開から1時間半くらいかな。1万人以上? に対してこれだけ耐えられて大勢を道連れにもしてよーやっとる。これでボスとしては最底辺って。

 レベルは9に上がり、金とアイテムも獲得。与ダメージ、被ダメージ、回復、バフなどの貢献度ランキングが表示されたが、私は与ダメージ932位、ヘイト219位でまあまあ活躍できてるんじゃないかな。どのランキングも上位の差がかなり小さいからね。


「次、熊とリザードマンどっち行きますかあああ!」

「岩熊はβであと少しだったし」

「リザードマンはヤバい」

「熊狩りじゃあああ!」

「「「うおおおおお!」」」


 私も着いていこうかな。


 イノシシ討伐の熱狂も冷めやらぬまま、プレイヤーの大移動が始まった。

 次の目的地は『岩鎧の大熊』が生息する、森の入り口らしい。私もその波に乗る。


 緑が深まった途中の村に寄り、ワープポイント(骸の森前)だけしっかり登録してからボスの元へ向かった。


「これどうすんの?」

「ゾンビアタックでレベ上げだあああ!」

「「「うおおおおお!」」」

「後衛は突っ込むなあああ!」


 ああ大騒ぎ。

 四足歩行で高さ4, 5メートル、全身が岩の鎧で覆われたゴツい熊が森手前で走り回っている。右手を振るうだけで、プレイヤーたちがボールのように弾き飛ばされていく。

 私も試しに斬りかかってみる。

 

 ──ガンッ。

 

 硬い。ダメージ1。防御がめちゃくちゃ上がってるか固定で1しか出ないか、どっちだろう? 『魔力伝導』を乗せてもこれ。

 回避も速さを上げないとギリギリかな。ヘイトが散っているからなんとかなっている。突進の勢いが乗ったまま横に一回転するような、腕振り脚振りの連撃はかなり危なかった。

 

 強化して出直して来よう。

 飛び掛かりを真正面から受けてHP0。デスルーラ完了。


 村に戻った私は、ボスの攻略は一旦任せて周辺の森でレベリングと森林浴でもすることにした。

 狂ったリス(弱い)を斬りながら、ワールドチャットを見る。ワールドチャットはゲーム外メッセージアプリの公式垢にも繋がってるって。

 

《熊の装甲、打撃でひび入るぞ》

《ハンマーとか募集。マジで来て。剣と槍はいらん》

《岩飛ばし痛えw 物理シールド貼れる奴おらんの?》

《いや、剣と槍はひたすら突っ込んでヘイト一瞬取って※ね》

《単純にレベルが足りん》

《リザードマンの方はどう?》

《水で動きにくいし速くて無理。取り巻きがカエルの歌で雨乞いしてら》


 なるほど、どっちも苦戦中らしい。打撃武器か……剣しか使えない魔法剣士では叩いても弱いしなあ。


 冷静に木の実を上から投げてくるリスもいるのか。当たっても3ダメージ。


《俺氏アサシン、やる事なくね?》

《そもそもボスはドロップ以外に倒す理由ある?》

《他エリアのザコ敵の超強化が剥がれるらしい。因みに最初の街周辺はそもそも掛かってないとか》

《隠密職の皆さんは、先のエリアに進んで素材集めをしてみてはどうでしょうか。戦力が怪しくなってきたので1人でも多く参加してくれると助かります。現在私は此処に居ます。》

《www》

《レベル高》

《自分のマップ真っ黒でどこか分からんが相当離れてるのは分かる》

《あのでかい山か》

《はい。》

《しゃあ行くぜえええ!》


 やば『もちもちほっぺ LV21』早すぎ。私まだレベル9だけど。

 狂乱リスと冷静リスは連携しても弱い。


 ──ズボッ


 突然右足で踏んだ地面が沈んだ。見た目全く凹んでなかったよね?


 この手のゲームは、些細な仕掛けにこそ大きな宝が眠っているのだぁ!

 

 周囲に敵が居ない事を確認して落ち葉を退け、比較的赤いようなそうでもないような土を掘ってみる。すると、這いずれば入れるかもしれない横穴というか斜め穴を見つけた。MMOでユニーク要素当たった事ないからニヤニヤ止まらん。

 ……頭から入るか。


《レベル上げはどうするのが良いんですか》

《精鋭狩りじゃない? でも何処にいるか分からないんだよね》

《私達は山に向かって走っていると、偶然ネームドモンスター同士で戦っているのが見え、両者にトドメだけ刺しました。》

《吾輩の名はカラミティ・ディザスター! 災厄の祖である!》

《「あ lv5」さんどうしましたか?》

《漁夫の利いいなぁ…》

《図書館パズルで魔導書を取ったんだけど》

《お前かあああああああ!!! あとちょっとだったのにぃー!》

《なにそれ》

《立体魔法陣解読をパズルだと?》


 熊の話題は新情報出ないから静かになったね。図書館パズルとか、βやってた人たち思ってるより情報隠してるかも。


《それはユニークアイテムなの?》

《このゲームに完全なユニークは無く、プレイヤーでも能力と素材さえあれば再現可能だと。まあ当分はクソ強い》

《早い者勝ち》

《試しに草原でスライムを倒そうとしたら可愛くて……》

《かわいいからなんだよ

テイマーにでもなって強化させたんか》

《クマの周りの木だれか切ってくんね?》

《あれは全属性魔法が使えるやつなの。MPいっぱいじゃないと持っててもザコザコさんなの》


 2つの話題同時進行ね。


《なんで木?》

《スライムちゃんがこっちをうるうる見つめてたから、どうしたのかなー魔導書がほしいのかなーと思って》

《やったかw》

《遠隔で装備の塊を発射します。沢山の想いがこもった弾は、熊より大きいですよ》

《初期装備のゴミ玉だろwww》

《いろいろ凄いなw

ちな俺まだ街の依頼一個終わったところな》

《ほんとそう》

《ワープポイントの近くに発射機も組み立て終わり、もう発射するだけです》


 もうそんなの作れるのか。確かにワープポイント付近ならプレイヤーの協力も促せそうで合理的。

 それより今私完全にモグラなんだけど。斜めの穴の延長で真っ直ぐ潜っていってるだけで、土の色以外ヒントが無く虚しくもなってくる。でも私も凄くなりたいから続ける。


《じゃあ熊近くの村方向の木だけ切ればいいんすか?》

《はい》

《剣の奴らは木こりやれな》

《装備放棄して魔導書を渡したら全力で逃げて、他のスライム全部取り込んでいったんだよ。最後なんて虹色に輝きながら鳥の群れ全滅させてたんだから》

《放棄すなー》

《あーあのなんか逆隕石みたいなの綺麗だなあって見てたけど》

《本当に災厄の祖じゃん》

《このゲームボスモンスター生み出せるんか?》

《魔導書にオリジナルって書いてあったの関係ありそう》

《くそおおおおお!!! ミミちゃんなら大事に使ってあげられたのにいいい!!!》

《その名前でミミちゃんマジかw》


 ミミガー・タン、顔の肉──

 ってやっぱり土の赤さが濃くなってない? 結晶なような粒々も混ざっている。


《木に剣が嵌まるんだが》

《バフしてもらえ》

《単体斬撃バフでもキツイが》

《魔力伝導もってる魔剣士なら火属性付与します》

《手振ってぴょんぴょんしてるとこ来てー》

《はーい》

《半分ちょい切れたらイノシシ頭呼んでね。頭でへし折るよ》

《レアドロ!?》


 魔力伝導の伝導率ってそういうことか。


 赤い粒が石になって来たので、隙間の柔らかい砂状の部分を掘り進める。すると一気に崩れ流され、明るい開けた空間に着いた。

 やっぱ探索系のゲームは気になったら変な事しないとね。

 

 全面刺々しい赤く光る鉱石で埋め尽くされており、静かで敵もいない。こういう見栄えのいい景色をちゃんとデザインできるのはよきゲーム。

 広場の中央、一際赤く輝いた所まで歩くと、


「ふむ、案内人が居らずクエストも省略。我が地上に遣いを出した際の穴からか。貴様は我の気を辿れるようだ」


 低い声が響いた。いやーそんな、ただのニヤニヤモグラですよ。


「弱者だが運命的な出会い。我の気を吸った鉱石らも研究者に捏ねくり回されるよりは良かろう」


 さっきチャットで出たオリジナル装備が貰える展開かな。特別なのは嬉しいけど高速近接アタッカーではありたい。あとポンポン話が進む。


「望みを言え」

「いい感じの高速近接アタッカー」

「……適した物は扱い難く、貴様の生態を大きく変えるが構わないか」

「どんなの?」

「貴様のステータスで言う所の種族を『機人』、ジョブを『魔法使い』にし、これらを抽出して我の気で融合させ鎧とする。貴様自身は『人』『無職』に固定される」

「うん」

「鎧の機能維持には魔石の供給を、強化には熟練度と魔鉱石の吸収が不可欠だ。ステータスは速さではなくMPを主に上げると良い」

「わかった」


 魔石はザコ敵を倒せば品質ランダムで確定ドロップ、ボスは欠片確定? だからいいとして、魔鉱石はどう集めるんだろうね。隠密採取組と取引しないといけないかも。


「では早速始めても?」

「いいよ」


 随分とウキウキした声だな。


《種族変更にはレベル25以上が必要です》

 ──ピンッ

《種族を機人に変更しますか》


 勝手にレベル上がった……はい。


《機人になるにはジョブを魔法系統でないものに変更する必要があります》


 あ、また勝手に無職になった。


《機人として身体を再構成します》


 目線だけ動かしうっすらと髪が眩しくなったな……と思っていると元の体に戻った。目の前に金属球が浮いている。


《外部から中断されました》

《ジョブを魔法使いに変更しますか》


 はいって言わなくても進むかな。


《……》


 ……。


「? 不具合は見当たらないが」


 はい。


《魔法使いとして魂を再構成します》

《外部から中断されました》


 今度は虹色のモヤが私から出てきた。

 周囲の赤い鉱石が溶けて球とモヤを包み、天井がちらほらと崩れる。


 少しずつ私に赤い液体が張り付いて流線形のアーマーが装着されていき、所々角張って角(触角?)も生えた。光沢のあるクリムゾンレッドと黒がメインでかっこいい。口と目の部分はスライドして露出させられる。

 中のキャラ自体の見た目は多分変わらず、フルアーマーを装備しただけ。装備欄でも初期装備はただ着ているだけになり、有効なのは『アンタレス(オリジナル)』と。


 天井の崩落が激しくなり、どう逃げようか考える。


「済まないが、貴様ら透け人は死ねば転移できると聞いた」

「そうだね」

「まあなんだ、なかなか、様になっていッ、るんじゃないか? 貴様が、存分に活用し、竜どもの魔ッ石を、喰らってくれ、るのが、我の本、望だ」


 崩れる事考えてなかったよね。それとなんかストーリーがあるのかな。

 

 とうとう頭上にも石が落ち始め、それから一気に潰される。あれ、まだ生きてるんだけど。耐久力かなり高いの?


「クッ、クク、これが、自ッ我を失、ぅ、事かっ! 甘……美……」


 私もじわじわHPが削れて、


 ──シュゥン


 暗転して村に戻ってきた。

 またHPが減り始めている。魔石がどうとか言っていたからスライムの魔石を食べてみると《MP 20 / 100 省エネモード》と表示され、HPの減少は止められた。

 試しにボスイノシシの魔石の欠片も食べてみよう。掌サイズだから齧り付いてみたら溶けた。《MP 3020 / 100》

 とりあえず100以上を維持しろと? 省エネモードの効果分からんけど。


 アーマーを脱ぐ事を意識すると最初はガチャガチャと畳まれ、最後は液体のように手首に小さく巻き付いた。

 種族とジョブを確認してみると確かに『人』と『無職』。人は以前と同じ、無職はツリーすらない空白。


 装備自体の強化を意識してみると、新しいスキルツリーが出来ていた。ざっとスキルを見たところ、ビルドとしては大きく分けて固定砲台か回避アタッカーって感じ。


ブレス

 MPの継続大量消費で強力なビームを発射。口から。


オーバーヒート

 短期間に限界以上のMPを消費すると一定時間機能低下。限界に近づくほど与ダメージ大幅上昇。


 この2つは明らかにシナジーがあるでしょ。ただ私が欲しいのはこの辺りかな。


スラスター

 MP消費量に応じて推進力を得る。レベル上昇で自由度、MP効率、最大出力増加。


竜化

 爪、尾(レベル2)、羽(レベル3)が生え、MP消費で強化。


魔力回収

 敵の魔法攻撃に直撃でMP大量回収、掠りなどで少量回収。


身体強化

 MPの継続消費で運動能力上昇。


 まあ何にしても先ずは魔鉱石を探さないと。MPのために、魔石集めとキャラツリーをMP系で固めるのもね。あ、そういえばレベル25に上げてくれていた。


────

【ステータス】


LV: 25

種族: 人(種族変更済み)

ジョブ: 無職(装備による代替)

 HP: 1200

 MP: (3019)/ 166

 物攻: 100(250)

 魔攻: 100(249)

 物防: 100(500)

 魔防: 100(600)

 速さ: 100(200)


装備: アンタレス(オリジナル)

【全身装備】

 他は一部アクセサリー以外装備不可。

【魔石蓄電 LV 10】

 魔石を消費して無限にMPを貯められる。MP自動回復無効。

【MP駆動】

 MP継続消費で稼働する。

【エネルギー至上主義】

 基礎魔攻 = 最大MP × 1.5

【混濁生物】

 被回復 -90% 、デバフ蓄積速度 -30%


キャラパッシブスキル

 MP効率 +10%

 魔力操作精度 +100%

 ラッキーMPドレイン Ⅰ

────


 アーマーを解除したブレスレットを眺めながら次の行動を考える。アーマー強化は勿論するけど、えーと、熊戦の進捗見たいな。


「隊長! 現地からの報告でも木は大分切り終えたようです!」

「そうか。では最後の仕上げと参るぞ」

「「「ハッ!」」」


 みんな初日なのにノリいいね。ノれずに苦笑いしてる人もいるけど。そういえば今ワープポイントの近くに居るから発射機は……あれか。原始的な投石機に魔法陣とか付いたやつ。弾は本当に武器や装備が丸ごと集まっただけの外見をしている。鉄の武器も結構捨てられてるね。

 ここで発射を待つか、現場で見届けるか。まあ当たった時の効果も確認したいから熊の所に行こう。


 とうちゃーく。

 まずはっきり分かるのは、横に広く弧状の大盾が熊の攻撃をほとんど受け止めている事。他のプレイヤーにヘイトが向いても割り込む、当たり屋をやっている。今チラッと大盾の後ろが見えたが、何人も集まって動いている。しかも光る様々な武器が大盾と重なるように数個突き出される凄い連携。熊の位置も全然動いていない。


「あと20秒! 18、17……」

「耐えろおおお!」

「そろそろか?」

「まだ」

「11、10」

「全員退避ー!!!」


 大盾部隊の一部と何人か以外全員離れている。いやキョロキョロしてる人もかなり居るわ。岩はFFありなの?


「3、2、1」


 ──ドゴォォォォンッ!


 土煙が舞い、熊の悲鳴と一瞬の静寂。

 煙が晴れたそこには、岩鎧が砕け落ち毛皮が露出した熊の姿。最後まで残ったタンクたちはシュワーっと消えた。


「やったか!?」

「こっからこっから」

「タンク全員突っ込めー!」

「「おおおおお!」」

「いや、バラバラの方が良くない?」

「順番に突撃ー!」

「どっちやあああ!」


 重い鎧を脱ぎ捨てたことで、その巨体に見合わない高速の大暴れが始まった。前衛たちが踏ん張る前に次々と吹き飛ばされ、装備の弱い人から光の粒子になって消えていく。

 ……あー、やっぱりそうなるよね。重りを外してスピードタイプ。肉壁でそこまで勢いを殺せてないからゾンビアタックでも維持できないかも。

 まあとりあえず前行くか。


「やべぇ! さっきのファランクスと遠征組戻さんと全滅するぞ」

「全滅したら回復されたりするんですか」

「わからん」

「一般人は数やあああ!」

「「「うおおおおお!」」」


 私も少し遅れて前線に走りながらアーマーを起動する。同じように走っているつもりでもどんどん加速。ステータスでは元の約2倍あるもんね。速いって最高ー!


 ボス熊に背後からパンチ──火力高っ──すぐ後ろへ跳ぶ。振り向きざまの薙ぎ払いも既に距離を取れている。熊の前進しながらの右腕の振りをさらに背後に跳んで避けた直後、右脇腹にダッシュパンチ。近づき過ぎたので上にジャンプし、熊の体でもう一度跳ねたタイミングで熊は両手を軸に半回転。熊の正面に着地する形になり、熊が構えた瞬間横に跳んでみると丁度飛び掛かりを避けられた。


 速さ同じくらいだから攻撃は味方に任せて回避に専念する? でもそれだとヘイトが向かないか。


「おい、単体バフ赤い人に全部入れろ!」

「バフやバフ!」

「とりあえず回復も」

「やりすぎやりすぎ。全部バフ上限行ってる」


 うわーやば! エフェクトでめっちゃキラキラ。でも速さ上がってないから結局キツくない?




 協力ゲーでも超強力な攻撃はFFありにした方が良いんですかね?

 このゲームのバフデバフは継続付与による時間経過で段々効果が高くなるイメージ。付与者か受ける側の片方でも死ぬとリセットで実質デスペナみたいな。

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