7話 帰宅
カレーを食べ終えたら、随分と暗くなっていた。
羽依が帰り支度を始めている。
「暗くなっちゃったから送っていくね。」
「ありがとう~。一人で帰るの、ちょっと怖いなって思ってたんだ。」
「だよね、家近いの?」
「この先歩いて5分ぐらいかな? ちょっと暗い道もあるの。」
「ふむふむ。じゃあ懐中電灯持っていこう!」
念のため、反射タスキを掛ける。
「準備良いね~! 好感度1ポイントアップ~」
「ポイント貯まると何か良いことあるの?」
「ん~、ハグでもしてあげようか?」
ニコッと笑って、こっちを覗き込む。
そんなちょっとした行為だけで、俺の心臓は跳ね上がる。
本当に、可愛いって凶器だと思う。
「ぽ、ぽいんと倍キャンペーンとかありますかっ!」
「今日は美味しいカレーをご馳走してくれたから達成で~す!」
ぎゅー
「はうっ!」
突然の柔らかい包容に、意識が途絶えかける。
ぱっと離れた後、羽依は少し照れた様子を見せた。
「ごめんね。またやっちゃった。」
「いや、俺も乗っちゃったから。でも、そういうの嫌じゃないの?」
そういうの、誰にでもするのか? とは、ちょっと思ってしまう。
ひょっとして、トンデモナイ小悪魔な可能性だって無いとも言えない。
「人による。」
そっか~、人によるのか~。
ん? じゃあ俺はお眼鏡にかなったのか!?
こんな短い言葉で、すごく嬉しくなってしまう。
「じゃあ、俺のこと好きになっちゃった?」
「それはない。」
ですよね~。
っていうか、否定があまりにも淡白すぎて、どう判断していいかわからない。
もっと精進せよ、ということなのか、これは。
「むう~、羽依さんは難攻不落だね。」
「そうだよ~。攻めやすく、守り難しだよ。」
「それじゃ、すぐ城落とされちゃうじゃないか……」
二人でくすくすと笑い合う。
もし、羽依さんと付き合うことができたら、どんなに素晴らしいことだろう。
よし! これから頑張ろう!
羽依を送って歩いていく。
ちょうど5分ぐらいのところに、羽依の家があった。
そこには、「キッチン雪代」と書かれた看板が出ている。
「羽依さんの家って、レストランなんだね。」
「うん。お母さん一人でやってるの。私も手伝うこと多いよ。看板娘だね~。」
そう言って、えっへん! と胸を張る羽依。
偉い子だな~。
でも、お母さん一人か……。
家族のこととか、どんな感じなんだろう。
もっと仲良くなれたら、色々教えてくれるといいな。
「今日はごちそうさま。送ってくれてありがとうね。」
そう言って近づき、額にキスしてくる羽依。
!?!?!?!?
「またね~。」
「マタネー……」
*****
……そこからどうやって帰ってきたのか、覚えてないくらい、頭が真っ白になっていた。
えーーー!!! これもう恋人の距離じゃないの!?
ここからどう詰めていけばいいの!?
ラノベだって、こんなご都合主義が過ぎる展開はない。
……と思う。
厄介なのは、「好きではない」と否定されているという点。
嫌われてはいないんだろうけど、誰にでもああいう距離感なのかな……。
だとしたら、それは辛すぎる展開が見えてしまう。
NTRとか趣味じゃないから! あれは悪だ! 禁書だ!
一人悶々と、色々な考えが浮かんでは消えていく。
今の俺には、難易度MAXだなあ……。