49話 報告
日曜の昼、二人でキッチン雪代へ向かう。
美咲さんに、俺たちが恋人になったことを報告するためだ。
リビングに美咲さんがいた。テレビを見ながらおせんべいを食べてる美咲さんに、頭を深々下げて報告をする。
「美咲さん。俺と羽依の交際をみとめてくだららい!」
噛んじゃった。
羽依も美咲さんも「あちゃー」という顔をしている。
最悪だ。ここで噛むのは、一番ダメなやつだろ……。
案の定、二人は堪えきれずに大爆笑する。
「ちょっ! 酷い! 俺の一世一代の報告を!」
「そんな報告聞かされたこっちのが迷惑だよ! 好きにしな、蒼真。……まあ、もし付き合わなかったら、あたしがとっちめに行くところだったけどね」
そう言って美咲さんが豪快に笑う。
え、なにげに俺、命拾いしてた?
緊張したけど、美咲さんがめっちゃ喜んでくれてるのが伝わってくる。
美咲さんが少し赤い顔をして、俺を抱き寄せる。
「羽依のお父ちゃん好き好き病は、蒼真でしか治らなかっただろうからね。ありがとう蒼真」
羽依よりもさらにボリュームのある柔らかい抱擁。温かくて、すごく心地いい。
そして、耳元でこっそり囁いてくる。
「蒼真は可愛いね。あたしも蒼真のこと、好きだよ。はやくうちの子になっちゃいな」
そう言って俺の頬にキスをする美咲さん。めちゃくちゃ美人な美咲さんにそんなことされると正直たまらないけど、横で見ていた羽依が黙っているはずもなく……。
「お母さん! 聞こえてるんだからね! うちの子になってもお母さんにはあげないからね!」
羽依は本気で取られると思っているのか、牙をむき出しにして唸っている。
こわい……。
***
その日の夜は、ささやかなパーティーが開催された。
美咲さんはとっておきのワインを開けた。
俺は美咲さん提供の高級和牛を、緊張しながらステーキに調理した。
サイドメニューに、きのこのソテー、カプレーゼ、ガーリックライス、デザートは羽依命名の”そーまプリン”だ。……ちょい名前ダサい気もするけど気にしない。
「お肉おいひぃよう……昨日の昼からほぼ何も食べずにいたから……ハイカロリーが沁みる~!」
「なんだい、食べずに頑張ってたのか。若いって良いね!」
美咲さんがこれ以上無いぐらいにニヤニヤしてる。
「ちょおおお! 美咲さん! 勘弁してください……」
***
月曜日、今日はみんなに報告することに。まずは休み時間、隼に報告する。
隼はちょっと呆れたような顔をしつつ、さわやかな笑顔を浮かべる。
「まあ、今更感が強いよな……。いや、でもおめでとうだ! 二人ともお似合いだと思うよ。」
隼がそう言って俺と羽依を祝福してくれる。
「羽依ちゃん、困ったことあったらいつでも相談してね。」
「ありがとう隼くん。私きっとこの先も男友達って出来ないと思うからさ。何かあったらよろしくね」
そう言って隼の手を取り微笑む羽依。そういうところで勘違いされちゃうんだろうな。とはちょっと感じる。
もっとも隼は何も感じないだろうな。あの強烈なお姉さんがいる限り。
授業が終わり、放課後を告げるチャイムが鳴る。
俺と羽依は真桜を校舎の中庭に呼び、付き合ったことの報告をすることにした。
「真桜、私ね、そーまと恋人に……なったの……」
真桜は俺と羽依を見て、とてもうれしそうな表情をしているように見える。
「そう、二人とも、とてもいい結論を出したと思うわ。手をこまねいて誰かに取られてしまうぐらいなら、付き合っていく過程で、答えを出すほうが効率的よ」
真桜らしい言い回しにちょっとおかしくなってしまったが、俺は真桜からの想いを聞いてしまっている。
彼女の胸の内は計り知れない。
真桜は俺の方を見て、気にするなと言わんばかりの表情をした。
「真桜……。私……、私ほんと嫌な女だと思う。ごめん……ごめんね……」
羽依がすすり泣く。
真桜の告白を聞いたからこそ動き出した自分を、ずるいと思ってしまっているようだ。
「羽依。気にしないでとは言わないわ。私もまだ諦めたわけじゃないから」
そう言って真桜はちょっとズルそうな顔をしてウィンクしてきた。
「へ?」
羽依が呆気にとられた顔をしている。ちょっと面白い顔だ。
真桜が羽依に間合いを詰め、ぎゅっと抱きしめる。友情というよりも恋人のような包容だ。
「羽依のこと、大好きよ。色んな意味でね」
羽依がさらに呆けた顔になってる。なんだろう。見たことない顔だ。
「……そーま。ごめんね。私、真桜とは浮気しちゃうかも……」
「付き合って二日目で浮気宣言!?」
いや、百合なら浮気じゃない。浮気じゃないよね?




