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距離感0な子と恋愛に発展するのが難易度MAX  作者: 鶴時舞
2章

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47/50

47話 雑魚

 ……。


 白くなめらかな肌が、淡く光を帯びて揺れる。

 艶やかな栗色の髪が肩にふわりと落ち、汗に濡れた頬が朱に染まる。

 彼女は俺の上で跳ねるように動き、豊満な胸が弾むたびに視界が揺れる。

 熱を帯びた瞳、かすれた声、甘い吐息が耳をくすぐる。


「そーま……」


 ……だめだ。心臓がやばい。

 意識が溶ける。肌の熱も、甘い香りも、全部が生々しい。


 ……。


「はっ!」


 俺は息を呑んで目を覚ました。

 布団の中、鼓動だけが無駄に激しくて、背中がじんわりと汗ばんでいる。


 ーー夢、か……。


「そーま……。」


 ん?なんか胸元を弄る感触がやけにリアルだ。

 隣を見ると、ーーあら、羽依さんだ。


「……なにしてるの……?」


「リベンジ愛撫」


 そっか、彼女は寝起き奇襲を仕掛けたわけか。なるほど。


 ……。


 ……え?


「羽依~!」


 お仕置きのために、昨日発覚した羽依の弱点ーー耳をこちょこちょする。


「ひゃん! 耳はやめて! 反則だよう~……」


「いつから布団に入ってたの?」


「ん~、30分くらい前?」


 全く悪びれずにさらっと爆弾発言をする羽依。そんなに長い間、気づかなかったのか俺……。


「……俺に襲われたらどうするの?」


「んふ、狙い通り?」


 そんなにお望みだったら襲っちゃおうか?

 なんて気にもなるけども……。

 ちなみに今の時間はーー6時か。普段ならとっくに起きてるけど、今日は休日だし……もう少し寝てもいいんじゃないかという気にもなる。


 ……いや、もう目が覚めてしまったし、無理だな。


「昨日泣きながら、逃げて帰ったのに?」


 ちょっと意地悪に言ってみる。案の定、顔を真っ赤にする羽依。


「……女の子には色々あるの!……新しいベッド汚したくなかったし……」


 それってつまり……そういうこと……?

 未経験男子高校生に、その言葉は刺激が強すぎる。

 顔がめっちゃ熱くなるのを感じる。


「そーま。私の部屋に来て。話があるの」


 羽依が甘えるように、誘うように、俺の袖を引っ張る。

 ……あー、絶対罠だ。

 乗るべきか、乗らざるべきかーー。

 ……ここで断ったとしても、次の手を出してくるだけだろう。

 とりあえず好きにさせるほうが良いのかな。

 何してくるか、ちょっと楽しみでもあるし。


 俺が立ち上がると、羽依は嬉しそうに俺の手を取って、自分の部屋へと向かう。


 部屋へ入るなり、羽依は椅子に座って足を組み、くるっと俺の方へ向き直った。

 そしてーーにやりと笑う。


「弱点見つからないと出られない部屋へようこそ」



挿絵(By みてみん)



 なんか両手を広げて何処かの寿司屋の社長みたいなポーズしてる。

 ……乗らないとダメ……?

 とりあえずドアを開けようとする俺。


「はっ……! 出られない!?」


 俺の反応に気をよくした羽依は、とても満足そうに微笑んだ。


「そうだよ、そーまはもう出られないんだよ。可哀想なそーま」


 そう言って俺に近づき抱きついてくる。


「……そろそろ美咲さん起きるんじゃない?」


「お母さんまだ起きないよ。休みの日は8時って決まってるの」


 ーー2時間近く羽依タイムがあるのか……。


 ***


「おはよう二人とも、なんか騒がしかったねえ」


 8時を過ぎたところで美咲さんが起きてきた。

 俺達はすでにリビングに集まっていた。


「聞いてくださいよ美咲さん。羽依が酷いんです!」


「え!お母さんにチクるの!?全身雑魚なのに!?」


 酷い……あんなに弄んでおいてその言い草……。


 結局、丸2時間も羽依にくすぐられ続けた。

 どこを触られても過剰に反応してしまう俺の体を好き放題弄び、彼女はすっかりご満悦だった。


「まあ仲いいのはかまわないけどね、避妊だけはするんだよ」


 美咲さんは豪快に笑いながら、とんでもないことを口にした。


「はーい」


 しれっと羽依が返事をする。


「してません!!」


 俺は全力で否定しておく。

 美咲さん、それでいいのか?

 いや、たぶん美咲さんなら「好きにしな」くらいで終わるんだろうけど……。


 ***


 朝食は俺が作ることにした。

 お世話になってる雪代家で、せめてものお返しというわけだ。

 今朝のメニューは、二日酔い気味の美咲さんに合わせた 鶏だし生姜雑炊 。


「蒼真は気が利くねえ、いい味してるじゃないか」


 美咲さんは満足そうに頷く。

「うん! 美味しいねそーま! 体は雑魚いのに美味しい雑炊作れてえらいね! 」


 羽依が調子に乗ってる。

 仕返ししたい気持ちはあるが、報復の連鎖はよくない。

 ここは一つ大人になろう。


「あはは、そういう羽依はおもらししちゃうけどね」


 一瞬で顔が真っ赤になった羽依。

 その後は黙って大人しくご飯を済ませるのだった。


 食後に三人でお茶を飲む。

 雪代家のお茶は、急須と茶葉で丁寧に淹れられた、香りの良い緑茶だ。


 土曜日の朝。今日はどうしようかーーそんなことを考えていると、羽依が口を開いた。


「そーま、今日の予定は?」


「うん、何も考えてなかったからな~。アパート戻ってゲームでもしようかな。羽依は美咲さんと買い物?」


「そのつもりだったけど、そーま予定が無いなら一緒にいたいな……だめ?」


 甘えた口調で上目遣いにそんなこと言ってくる羽依。

 美咲さんがそれを聞いて、ちょっとニヤけた表情になる。


「あたしは買い出し一人でもかまわないさ。羽依、いっといで。蒼真、かまわないよね?」


「予定ないし、大丈夫ですよ」


 俺が答えると、美咲さんの表情がさらにニヤついた。


「ついでだから羽依! 泊まってきな!」


 俺は盛大にお茶を吹いた。


「な、なにいってるんですか美咲さん!」


「あたしもたまには、一人を満喫したいんだよ。気を利かせな」


 いやいや、絶対嘘だ……。

 動揺しつつ、お茶で汚れたテーブルを拭きながら、これからの展開を考える。

 なんか流れ的にやばいよな……。

 今朝は変な夢見たし、羽依の攻めに耐えられるのか?

 ……この魅惑的な攻めがこれから毎週続くのか……?


「じゃあ蒼真! 着替え持っていくね! 晩ごはんも楽しみ~」


 羽依はルンルン気分で部屋へと向かう。


 ……気持ちを切り替えよう。

 このとても魅力的な可愛い子と、一晩過ごすことを 素直に 楽しもう。


 アパートに一人暮らし。

 可愛い子とイチャイチャ計画。


 ーー夢に見た展開じゃないか。

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