45話 お風呂回
「二人で入るの?」
「うん」
「全裸で?」
「うん」
「恥ずかしくない?」
「それが良いんじゃない~」
羽依がケラケラと笑う。
……あれ? 俺がおかしいのか、羽依がおかしいのか、分からなくなってきた。
「羽依は、俺に裸を見られて恥ずかしくないの?」
以前、少し触れたことはあったけど、裸そのものは見たことがない。
ていうか、見て何もしない自信なんてあるわけがない。
「そこまでまじまじと聞いてくる? そりゃ恥ずかしいよ~。でもね、そーまのそーまを見たいの」
なるほど~。俺の俺が見たいんだな。
……。
!!!!!!
「ダメ! 絶対ダメ! 一人で入る!」
後ろから「けーちけーち!」と非難の声が飛んでくるけど知らん!
いや、そりゃあ、お年頃の異性同士なんだから気にはなるよ。俺だって興味津々だよ……。
でも、一線を越えないという自分の誓いが危うくなるのはマズい。
***
「いい湯だなあ~♪」
雪代家のお風呂はジェットバス付き。スイッチを入れると、水流と気泡が心地良い。
「これは贅沢だなあ……真桜もきっと満喫したんだろうな」
ふと、真桜の言葉を思い出す。
『手で洗ってもらった。全部』
……全部ってすごいよな……。
ああ、想像しただけでヤバいことになる……。
もし今日、一緒に入ってたら、俺の体も手で洗われてたのかもしれない……。
いやいやいや! 考えるのをやめろ!!
さっさと頭と体を洗って出よう。
雪代家の高級シャンプーを手に取ると、ふわっといい香りが立ち込めた。
いい匂いだけど、俺が使うにはちょっとキツめだな……。
シャカシャカシャカシャカ……
――ガチャッ。
背後で戸が開く音がした。
少し冷たい風が入ってくる。
「……」
「来ちゃった。あ、待って。ごめん。後ろ見ないでね。今になって恥ずかしくなってきちゃった……」
良かった。羞恥心がないわけじゃないんだ。
でも、その瞬間、俺の心臓は激しく打ち鳴らされ、まるでドラムが叩かれているかのようだった。
ーー息が詰まるような感覚に襲われ、思わず手が震える。
ーーもう、どうしても呼吸が乱れてしまいそうなほど、胸が熱くなっていた……。
羽依はかけ湯をしてから、俺の頭に手を伸ばし、シャカシャカと泡立て始める。
「お客さん、かゆいところはありませんか~♪」
「あ、あのねえ……いや、気持ちいいんだけど……」
今さら出ていけというのも違う気がする。
雪代家という羽依のテリトリーに入ってしまってる以上、避けられなかった事態なのかもしれない。
「ところで羽依さん。タオルは巻いてらっしゃいますか?」
「タオルは甘え」
おお……なんかかっこいいけど、言ってることがやばすぎる。
後ろを見たい誘惑にかられる。見たらなんて言うんだろう?やっぱり怒られるのかな……いや、怒られる筋合いも無いような、ああ!もう!
頭を流し終えたあと、頭からタオルを巻かれ、目隠し状態にされる。
「あ……あれ?」
「ごめんね。土壇場で意気地なくなっちゃった……」
「いや、大丈夫。大丈夫……だけど……どうして一緒に風呂に入りたかったの?」
「……」
羽依が今どういう表情をしているのか分からない。
「体洗うね。」
羽依の声が少し震えてる。
あ……よかった。ちゃんとタオルで洗ってくれてる。
俺も手で洗われてしまうのかと、ドキドキしたが、ひとまず安心だ……。
「気持ちいい?」
「うん……」
背中を洗い終え、首、手、足と洗っていく。
「ご、ごめんね。そーまは自分で洗って……」
「あ、はい……」
きっと全部見られてしまっている。
羽依の当初の目標は果たせたわけだ。
体を洗い終え、湯で流す。
次に、羽依が髪を洗う。
「そーま、頭洗って~」
甘えたような声になり、そんなこと言ってくる羽依。
手探りでシャンプーを手に取る。髪が長いので2プッシュほどか。
男のようにシャカシャカ洗っちゃ駄目だよな。
ーーコスコス……モミモミ……
「うん、優しくて上手だよ。そーまは頭洗い屋さんになれるね」
「そんな職業あるんだ?儲かるのかな、それは。家族養っていけるかなあ」
「世界ランカーならマンション買えるよ。」
「ランキングあるんだ……奥深いね……」
いつものような軽い会話で、少しずつお互いの緊張が溶けていく気がした。
「トリートメントは毛先から付けるんだよ~。根元には付けないでね」
「了解~」
ーーぺたぺた……モミモミ……
髪を洗い流し、終了。
「体は……背中だけ……良いかな」
「うん……」
タオルにボディーソープを取り、泡立てる。
背中に手をあてた瞬間、羽依の体がびくっとする。
「ひゃん、あ、ごめん。大丈夫だから……」
ーーなんだその声は……反則だろう……。
タオル越しに華奢な体が伝わってくる。
前にはあんなに立派なものがついているのに……。
「……洗ってもらうのって気持ちいいね。……やっぱり……前も……洗ってくれる?」
「いや! 自分で洗ってくれると助かるな!」
羽依がどんな表情でそれを言っているのかわからない以上、俺も踏み込めない。
体を洗い終え、湯で流すと、羽依が湯船に入ったようだ。
ふと、頭のタオルが取り除かれ、視界が広がる。
「そーま。こっち見てもいいよ」
俺はおそるおそる羽依の方に目を向けると、確かに何も付けてなかった。しかし、ジェットバスのおかげで直には見えていない。
羽依に促されるまま、向かい合うように湯船に浸かる。
風呂は結構大きめだから二人でも入れるが、流石に全く触れないわけにもいかない。
「そーまは、私と一緒にお風呂に入れて嬉しい?」
頬を赤らめ甘えたような表情でそんなことを言ってくる羽依。
「もちろん嬉しいけど、恥ずかしさのほうが強いかな……」
「そーまは照れ屋さんだものね。私も恥ずかしいけどね、でも、そーまとはもっと特別なことしたいの」
「え? それって……」
羽依が近寄ってきて俺を抱きしめる。体に当たる羽依の感触が熱く柔らかい。
「先に出るね。ちょっとだけ目を瞑っててね」
そういって羽依は風呂場を後にした。
ーーえ、今の……何?
思考が追いつかない。心臓はまだドクドクと暴れてるし、体の熱がまるで引かない。
気づけば、俺は湯船に顔を沈めていた。
ブクブクブクブク……
ーーこのまま湯気と共に蒸発してしまいたい……。




