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距離感0な子と恋愛に発展するのが難易度MAX  作者: 鶴時舞
2章

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43/50

43話 呼び捨て

 休み明けの月曜日。だるいけど、いつもの日課をこなし家を出る。


「おはよう、そーま!」


 羽依さんは今日もにっこにこの笑顔で、元気よく挨拶をしてきた。


「おはよう、羽依さん。真桜さんとのお泊まり会、随分と盛り上がったみたいだね」


「うん! すっごく楽しかった~! 今度はそーまと3人でお泊まりしようね!」


 ……この子は朝から何を言い出すんだか。

 めっちゃドキッとした。


「そうだね……羽依さんが大人しく寝てくれるなら……いいかな」


 冗談めかして返すと、羽依さんは一瞬きょとんとした後、ふっと頬を赤らめた。


「え? あれ? 真桜、何か言ってた……?」


 伏し目がちに、少し挙動不審になる羽依さん。

 その仕草がまた、妙に可愛い。


「ううん、楽しかったって言ってたよ。美咲さんとおじいさんの話もね。聞いてびっくりしたよ」


「そうそう! 私もすっごいびっくりしたよ。お母さんさ、お店の再建のときにすごくお世話になったんだって! 真桜は我が家ではVIP待遇だね~」


 親友との意外な繋がりに興奮している羽依さん。

 真桜のおじいさんと美咲さん、師弟関係以上に深い縁があったんだな……。


 ***


 学校に着くと、真桜がすでに来ていた。


「おはよう、蒼真」


「おはよう、真桜さん……じゃなくて、真桜」


「……え? あ、おはよう、真桜」


 俺が呼び捨てにすると、一瞬固まる羽依さん。

 少し引っかかるものがあるのか、微妙な表情をしていた。


 いつものように、3人で朝の勉強を始める。


「蒼真、この一文、主語と述語が噛み合ってないわ。ちゃんと対応を考えて読まないと、解釈を間違えるわよ」


「え、そうなの? えーっと……『彼が語った言葉は、私の心を揺さぶるものだった』だから……?」


「“彼”が語ったのは『言葉』であって、『私の心を揺さぶる』のは『言葉』よ。つまり、文章の構造を意識しなさいってこと」


「なるほど、ありがとう、真桜」


 そのやり取りをじっと見つめる羽依さん。


「なんか二人、仲良くなったね。距離感が近い感じ」


「そうかな?」


「そんなことないわよ。距離感とか、羽依に言われたくないわね……」


 俺と真桜は、ほんの少しだけ気まずくなった。

 なんとも微妙な空気のまま、朝の勉強が終わる。


 ***


 放課後。なんか今日一日ずっと羽依さんにじーっと見られてた気がした。


「そーま! 帰ろう!」


「帰ろうか、今日もバイト頑張ろうね」


「うん!」


 羽依はニコニコしながら、いつものように俺と手を繋ごうと――


 ……しない?


「……そーま。昨日そーまのアパートに真桜行ったんだよね……」


「うん、服をあずかっていたからね」


「……何かあったの?」


「えっと……真桜がね、呼び捨てで呼んでほしいって……」


「ふーん」


 羽依が、ぽつりと短く呟く。

 次の瞬間、すっと足を速めた。


「あ、ちょっと待って……」


「羽依」


 ぴたっと足を止めて振り返る。

 彼女は少し張り詰めたような表情をしていた。

挿絵(By みてみん)



「え? あ……羽依?」


「そーま」


「羽依」


 満面の笑みで俺の腕を取ると、いつも通り歩き出す。

 幸い、昨日のことはそれ以上聞いてこなかった。

 俺もお泊まりのことは、あまり突っ込まないようにしよう……。


「そーま、アパート寄っても良い?」


「うん、良いよ。時間まで一緒に勉強でもする?」


「うん!」


 そう言って俺の腕にぎゅっとしがみつく羽依。

 今日の彼女はいつもよりもさらに距離感が近いな。

 俺も中間試験も近いので少しでも勉強しておきたい。

 一応1週間前から学校の通達でバイト禁止となる。

 美咲さんもそれは知っていて、羽依と俺もバイトをさせない予定だ。

 あの忙しさで美咲さん一人だと大丈夫なのかな、とは思うけど、あのお店の客層みる限りはきっと大丈夫なんだろうな。みんな美咲さん大好きすぎるだろう。


 アパートに着くなり羽依が俺に抱きつく。なんか部屋に入ると微妙に気分が高揚するような、そんな気がする。


 なかなか離れたがらない羽依をゆっくりなだめるように体を離す。


「コーヒー入れるね。プリンもあるよ!」


「やった! めっちゃ美味しいもんね。うちの店で“そーまプリン”として売りに出したらどうかな?人気出るよ!」


「そこそこ手間かかるからね、本業にするなら良いかも」


 パティシエか……。

 将来の選択肢の一つとしては、面白いのかもしれない。

 やりたいことが少しずつ増えていくのは、きっと良いことなんだろうな。


 ただ――悩ましい。


 ***


 結構集中して勉強した。

 羽依は真剣そのもの。

 この集中力こそ、俺が見習うべき点なんだろうな。


「そろそろバイトだね。行こうか」


「そーま……」


「ん?」


「キスして」


 ――やっぱり、疲れた羽依は甘えたがりだ。

 俺は羽依の体を抱き寄せ、優しく口付けを交わした。


 ……俺の距離感も、きっとバグってきてる。


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