4話 名前で呼んで
二人並んで歩きながら、この近所の事、美味しいパン屋や安いスーパーとか、貴重な情報を雪代さんは色々教えてくれる。
「あそこのパン屋のクリームパンがめっちゃ美味しいの。野菜はスーパーが安いけど、そこの八百屋さんのほうが新鮮なの。比べて買うと良いよ!」
可愛くて性格の良い彼女との帰り道はとても楽しかった。
あっという間にアパートについた。雪代羽依はまだ一緒だった。
「ここ俺が住んでるアパートなんだ。」
ここまで付いてきたということは、この近所に家があるのかな?通学とか一緒に通えたら嬉しいな。
「じゃあまたね!」
ぽやぽや~な彼女は首を傾げてる。何やっても可愛いなあ!
玄関の鍵を開けて部屋に入ると、玄関の中に羽依は入ってきた。
「え。あ。いらっしゃい?」
なんでこの子、うちに入ってきてるの!?
俺、知らないうちに招待したんだっけ。だとしたら今更帰れとも言えないよう。
立たせてるのも悪いから、とりあえず上がってもらおう。
「どうぞ、上がって!」
初めてのお客さんが、こんな可愛い子だなんて、俺氏、前世の徳やばいね。ありがとう前世の俺。
部屋は、よくある1kのアパート。風呂トイレ付きで、都内で家賃4万は破格だと思う。キッチンもガス火だから火力もある。
中学の頃は、共働きの両親のために、ご飯を作ってあげてたな。
3年になってからは、めっきりやらなくなってしまったが。
そうだ!久々に料理しよう。
「雪代さんは料理とか自分でしたりする?」
首をブンブン横にふる。
「お母さんがね、羽依は危ないから包丁もっちゃだめって」
「あーね…」
天然ちゃんには、刃物もたせられないってか…ちょっと可哀想ではあるけども。
しゅんってなってる、その姿も絵になるなあ…
「この部屋初のお客さんです!雪代さん、ご飯食べていかない?」
ぱあーっと一瞬で 花が咲いたみたいに明るくなる雪代さん。
「羽依。」
「うん?」
「羽依って呼んで。」
いやあ…名前呼びはちょっとハードル高いけど、この子もしかして俺に一目惚れしちゃった?
いやいや無い無い。自分の評価はブサイクではないと信じたいが、イケメンとは程遠いとは思ってしまっている。いわゆるフツメンだ。
こんな特級美少女に一目惚れされるようなユニークスキルは持ち合わせていない。
とりあえず妥協点で
「羽依さん…で、いいかな?」
「ん~…うん」
やや不服そうながら羽依は頷いた。というか、さっきから羽依さん。距離詰め過ぎじゃない?
物理的にも。