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距離感0な子と恋愛に発展するのが難易度MAX  作者: 鶴時舞
2章

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38/50

38話 勉強会のジレンマ

「「「「ごちそうさま~」」」」


 鍋は見事に完売。

 炊飯器の5合炊きも、まさかの完食。女子が二人いるし、さすがに余るだろうと余裕をかましていたが、俺の見通しは甘すぎた。

 気がつけば、炊飯器の中は空っぽ。備蓄用にストックしていた冷凍ご飯を総動員することになった。


「いや~食ったな!蒼真、ごちそうさま!」


 一番の大食漢は、やはりサッカー部の隼。どれだけ食べてもまだ余裕がありそうなあたり、運動部の胃袋は規格外だ。

 次点は真桜さん。スレンダーな見た目からは想像できない食べっぷりで、どこに入ってるのか本気で不思議になる。

 羽依さんも負けず劣らずよく食べた。みんなが満足そうな顔をしてくれると、作った甲斐があったなとしみじみ思う。


 食後は真桜さん提供のハーゲンダッツ。

 熱々の鍋でヒリヒリした口の中を、濃厚な甘さと冷たさが駆け抜ける。


「ハーゲンダッツうれしいね! 真桜! ありがとう!」


 今日の食材費は俺と羽依さんで折半。隼と真桜さんは差し入れを持ってきてくれたから、それでチャラってことになった。


「ほんとに良いのかしらね。場所まで提供してくれているのに」


 真桜さんは、俺のTシャツとハーフパンツ姿になっている。

 さっき着ていた服は、すでに洗濯機の中。朝までに乾かさないといけない使命がある。


「気にしないで、真桜さん。また勉強会やろうよ。次は粉ものとかが良いかな~」


「そーまは、みんなに食べてもらいたい気持ちのほうが強そうだね~」


 羽依さんがふわっと体を寄せてくる。

 この距離感ゼロっぷりにはすっかり慣れた……とは言い難い。

 案の定、隼がじっと俺たちを見つめ、少し考え込むように口を開いた。


「やっぱり雪代さんと蒼真って、付き合ってるんじゃないの?」


 ピシッと空気が一瞬だけ固まる。

 羽依さんは「うーん」と言いながら頬をぽりぽり掻き、俺はなんとなく目線を泳がせてしまう。


「あ、あれ? すまん! 空気の読めない発言だったか! 気にしないでくれ!」


 バツの悪そうに慌てる隼。その場をフォローしたのは真桜さんだった。


「そうね。むしろ、付き合ってるってことにしてしまえばいいんじゃないかしら? その方が変な虫も近づきにくくなるでしょうし」


「いや、それもう完全に偽装工作だよね……? そんなことしなくても……まあ、色々あるんだろうな!」


 それ以上、深入りせずに話を終わらせるあたり、隼は優しいやつだなと思う。

 こういう気遣いが自然にできるのは、彼の良いところだ。前の席が隼で、本当に良かった。


「それよりも、よくみんな勉強だけで済ませたわね。もうちょっと面白いことでもやるのかと思ったわ」


 真桜さんの言葉に、場がザワつく。

 みんな、まさかこの人がそんなことを言うなんて思っていなかった。

 勉強以外は一切許さないような雰囲気だったのに……。


「いや~……俺も勉強だけで終わるとは、まったく思ってなかったわけで……」


「うんうん、なんかみんな、勉強止めて遊ぼうって言い出しづらかったんだね」


 羽依さんも、どうやら同じ気持ちだったらしく、ちょっと残念そうに頬を膨らませる。


「いや、俺なんてバッグにボードゲーム持ってきたんだぞ?」


 隼がバッグから取り出したのは、モノポリー的なボードゲーム。

 それを見た瞬間、みんな一斉に吹き出した。


「なんだよ、準備万端じゃん!」


「ほんとにやる気満々だったんだね!」


「言ってくれれば、勉強そっちのけでやったのに~」


 クスクス笑いながら、みんなで隼をからかう。

 こういう時間も悪くないな、なんて思ってしまう。


「んじゃ、中間試験が終わったら、また集まって何かやろうか」


 俺がそう提案すると、みんなが頷いてくれる。


「次はタコパやろうよ! 勉強抜きでね!」

挿絵(By みてみん)


 羽依さんがワクワクした様子でみんなを見渡す。

 反対する人なんているわけがない。むしろ、全員が「それだ!」と言わんばかりの顔をしている。


 特に真桜さんは、タコパの一言で目を輝かせた。

 いつもの冷徹な「氷のなんとかさん」はどこへやら。これが食の力なのか……。


 羽依さんと真桜さんが帰る時間になった。

 家まで送ろうかと申し出たが、真桜さんは「大丈夫だから」とあっさり断った。

 きっと二人で話したいこともあるんだろうな。


「じゃあね! 高峰くん! そーま!」

「高峰くん、色々勉強ではお世話になったわね。ごちそうさま、蒼真。明日また来るわね」


「結城さん、雪代さん、またね!」


 二人が並んで帰っていく姿を見送る。

 隼はというと、姉が車で迎えに来てくれるのを待っている。


「お姉さんって、どんな人なの?」


 軽く聞いたつもりだったが、隼の顔が一瞬だけ険しくなる。


「……パーフェクトヒューマンだよ……」


「隼にそう言わせるって、なんだかすごそうだな……」


 隼によると、姉は現役の東大生で、今は2年生らしい。

 小さい頃からめちゃくちゃ可愛がられていたらしく、今回の集まりにも「行く!」とノリノリだったとか。


「流石にそれは勘弁してくれって言ってな。ブラコンにもほどがあるだろうと」


「可愛がってくれるならいいじゃないか。俺、一人っ子だからうらやましいよ」


 綺麗なお姉さんに甘やかされるなんて、そんなの羨ましすぎるに決まってる。


「……お前、俺の姉貴見ても同じこと言えるかな……」


 隼が小さくため息をつく。

 その言葉に、俺はちょっとだけ興味が湧いた。

 どれほどの「パーフェクトヒューマン」なのか。

 少なくとも、ただの「優しいお姉さん」ってわけではなさそうだ。

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