29話 不変の愛
真桜視点となります。
真桜視点となります
羽依からLINEの着信があった。「話したいことがあるから電話したい」――そう書かれている。
断る理由もないし、この前の話の続きも気になっていた。
迷うことなく、私はすぐに羽依へ電話をかけた。
「真桜~ビデオ通話にしようよ!」
え? ちょっと待って、何の準備もしてないわよっ!
「ちょっとまってね。今準備するから。」
慌てて身だしなみをチェックする。髪は乱れてない? 変な顔してない?
友達とビデオ通話なんて、ほとんどしたことがないのに……。
「おまたせ羽依、どうしたの?なにか深刻な話?」
「ごめんねいきなり。真桜、パジャマ可愛いね。下着はどんなの履いてるの?」
でれっとした顔つきで話す羽依。なるほど、ビデオ通話は相手の様子がよく分かるのね。
「切るわよ」
「ごめんて!……まあ深刻といえば、めっちゃ深刻だよね……。そーまがね。ご両親が離婚するんだって」
あまりに突然の、生々しい話に言葉を失った。
「え……それは確かに深刻ね……。蒼真、落ち込んでるのかしら?」
「……うん、本人は相当落ち込んでた。もう大丈夫とは言ってるんだけどね……」
親の離婚が子どもにとって、どれだけショックなことなのか。私には想像もつかない。
「学校は大丈夫なのかしらね。引っ越しで転校とかは?」
「それは大丈夫みたいだよ~。親権はお父さんらしいんだけどね。アパートはそのままだって。ただね……うちのお母さんがさ」
少し言い淀んでる感じ、言葉を探してるようだ。
「そーまが一人だと心配だから、今日だけでもうちに来いって。それで今ね、お父さんが使っていた部屋にいるの」
すこしだけ恥ずかしそうにもじもじしながら答える羽依。それがちょっと可愛らしい、けど……。
「同級生の男子が同じ家で一緒にいるのね。羽依、避妊具もってる?」
「なにいってんの!そんなの無いよ!?」
事前準備なし……それはダメね。
「羽依、今から買ってきなさい。何かあってからでは遅いわよ」
「いやいやいやいや、そんなことにはならないから!!」
顔を真赤にして必死になって否定してるその姿が、なんとも愛らしい。
ふふ、ちょっとゾクゾクしてきた。
「うちのお母さんが強引にそーまを泊めたんだよ~。まあ私も思いっきり乗っかったわけだけど」
「羽依のお母さんは、とても優しい方ね。私も今度会ってみたい。羽依のお店にご飯食べにいきたいな」
「うんうん!お祖父様と一緒においでよ!」
「そうね、今度寄らせてもらうわ。……で、これからどうするつもり?」
羽依が少しだけ困った顔をしている。
「お母さんの考えではね、『住み込みで働けばいいじゃん』って。めっちゃ軽く言ってた。」
「そこに蒼真の意見は入ってなさそうね……。でも、それだと蒼真の『一人暮らしでイチャイチャしたい』っていう夢……ぷぷっ……が叶わなくなるわね。」
「真桜、顔が赤いよ!」
「ダメなのよ……思い出しただけで笑っちゃうの……。」
「ツボるとしつこいタイプだね真桜は」
やれやれって顔をする羽依。
「きっかけを作ったのは貴方でしょ!」
「この先どうすれば良いかな」
強引に話を戻してきた。なかなかやるわね……。
「そうね……。一番は蒼真の気持ちを優先することだけど。でも確かに、そんな精神状態で一人にしておくのが不安っていうのもわかるし、難しいわね。」
「そーま、アパート以外にもう居場所がないみたいなの。W不倫だったらしくて、離婚後は両親とも新しい家族で暮らすみたい。ご実家も売却するらしいよ」
「……そう、なの。」
予想以上に深刻な話だった。
蒼真の親は、完全に彼を切り捨てるつもりなの? だとしたら、それこそ大問題よ。
とはいえ、他人の私が口を出せることじゃないけれど……。
「生活費や学費は出すって言ってるらしいけどね。」
「そんな口約束、あてになるかしら? そういう状況を作った親なのに。」
私の嫌な予感が当たりませんように……。
***
「そーまとね、今日動物園でデートしてきたの。友達としてだよ?」
「そう。羽依と蒼真が楽しそうだったなら、それが一番よ。」
「昨日決めたの。そーまが実家から戻ってきて部屋にこもっちゃってたからさ、表に出さなきゃって思ったの」
そこから羽依は、昨日の出来事を話し始めた。
かなり思い切った行動に出たらしいけど……。
「……そーまね、ご両親のこともあって、今は恋愛するのが怖いんだって。」
悲しげに語る羽依。
ただ、そこでふと思う。
「羽依は蒼真と恋人になるのが怖いのよね」
「うん……男の人が怖いのとさ、お父さんに似ているそーまと不仲になることが何より怖いの」
蒼真は、両親の離婚による愛情の喪失への恐怖。
羽依は、男性不信と、父の面影を持つ蒼真への愛情の変化への恐怖……。
でも、それって結局、お互いに"不変の愛"を求めているってこと。
どちらも、求めているものは同じ。
ならば、いつかきっと——。
「羽依、蒼真とずっと仲良くしてあげてね」
「何いきなり?お姉ちゃんみたいだね真桜」
恥ずかしそうに照れた様子で羽依が微笑んだ。
「そうね、そう思ってもらって構わないかも。手のかかる弟と妹ね」
結論が出たわけではないけれど、羽依は秘密を打ち明けることで少しスッキリした様子だった。
その後、他愛もない話をしつつ電話を切る。
ベッドに転がり、一人物思いにふける……。
——さて、学校が始まったら、色々と忙しくなりそうね。




