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距離感0な子と恋愛に発展するのが難易度MAX  作者: 鶴時舞
2章

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27/50

27話 家族

「うん、…うん。そうだね、え?…う~ん、その方が良いかも。ありがとう、お母さん」


羽依さんが美咲さんに帰宅コールをしている。


「そーま、明日何か予定ある?」


「家でゴロゴロしてるかな~。」


実家に行って片付けとか……正直、今は気が進まない。


「お母さんがね、着替えもってこいって。」


「そっか~。……え?」


「そーまを一人にしておくの心配みたい。泊まりな、だって。お母さんそーまの保護者みたいだね」


実際今はうちの親よりも親っぽいのは確かだ。しかし、同級生の家に泊まるってのは流石にどうなんだろう。


甘えすぎるのは駄目だ。今だって二人の親切に甘えきってるってのに…


「流石に悪いから遠慮するね。」


「そーまが気が乗らないなら仕方ないよ。お母さんにはそう言っておくからさ。」


わりとあっさり引き下がった。ちょっとだけ、ほっとしたかな……。


辺りもすっかり暗くなってきたので、お店まで送る。都内でも街灯の少ない場所はかなり暗い。か弱い女子高生が一人で歩くにはリスクが大きいだろう。


***


キッチン雪代の前で美咲さんが待っていた。


俺が挨拶をしようとすると、美咲さんは片手を上げて一言。


「羽依! とっ捕まえな!」


「らじゃ!」


……え?


次の瞬間、俺の腕がグッと後ろへ引かれる。


「へ?」


戸惑う間もなく、反対側からも腕を取られ、完全に拘束された。


「なっ……え!? なんで!? 俺、悪いことしてないよね!?」


「黙れ! おとなしくしろ!」


羽依さんが俺の腕をねじり上げる。


「え? ちょ、何? どういうこと?」


「署まで連行する。さあこい!」


羽依さんがノリノリで俺を引っ張っていく。なに?どういうこと?


そのまま俺はキッチン雪代へと“連行”された。


何されるんだ、俺……


店に入るなり、美咲さんは羽依さんに確認する。


「蒼真の着替えは?」


「もってきたよ~」


「え!?いつのまにっ!」


「お母さんがね、『そーまはきっと遠慮するから、無理やり引っ捕らえるから準備しときな』って」


「言ったとおりだったろ?ホント考えてることも何だかお父ちゃんに似てるんだよねえ。遠慮しがちっていうかさ」


親子でハイタッチしている……。二人ともとっても満足そうな表情で俺を見る。


「いやそりゃ遠慮しますよ……。同級生の男が一緒だったら嫌じゃないですか?」


「嫌なのかい?羽依」


「嫌じゃないよ?」


なぜ?と言わんばかりの羽依さん。


「蒼真はね、私の中じゃ家族みたいなもんなんだよ、ほらこっちに来な」


そういって優しく微笑み、俺を強く抱きしめる美咲さん。

挿絵(By みてみん)


暖かくて柔らかい感触に包まれる。


ちょっとだけお酒の匂いがする。


その温もりに包まれると自然と素直になれる気がしてくる。


「可哀想にね。両親に振り回される子どもは本当に気の毒だ。私もそうだったからね」


その言葉が、深く突き刺さる。


俺は両親のことなんて考えたくないと思っていた。


でも、美咲さんに言われて、改めて気付いた。


本当はずっと寂しかったんだ。


一人でいることに慣れたつもりだった。


でも、それは慣れたんじゃなくて、ただ我慢していただけ。


優しさを向けられると、途端に崩れてしまいそうになる。


……いや、もう崩れかけている。


喉の奥が詰まる。呼吸がしにくい。視界がぼやけてくる。


「う……っ」


ダメだ、耐えられない。涙が滲む。


「……うわああ……っ」


俺は、美咲さんの胸の中で、堪えきれずに泣いた。


「昨日の今日で、すっきりなんてわけには行かないだろ?今は一人で居るより、誰かと居るほうが良いんだよ。泊まってきな」


***


キッチン雪代の2,3階が居住区になっている。


2Fはリビング&ダイニング、風呂と洗面所、美咲さんの部屋もある。

3Fは羽依さんの部屋とお父さんの部屋、未使用のゲストルームもあるみたい。


「お父ちゃんの部屋は蒼真が自由に使っていいからね。今日は布団で寝な。あとでベッド買おうね」


まるで、この先も泊まりに来ることが前提の言い方だ。


「いや、そんな美咲さん、悪いですよ……。」


「うん?布団じゃ嫌だって?じゃあ、あたしと寝るかい?」


美咲さんが、にこっと笑ってウィンクする。


……有り無しで言えば、無しではない。


でも。


「お母さんは寝相悪いから駄目だよ!っていうか絶対駄目でしょ!」


そりゃそうですよね。


羽依さん、めっちゃ噛みつきそうな顔してるし。


いや、そもそも俺が、この先も泊まること前提にすること自体がおかしいわけで……


「美咲さん。俺はそんなに泊まる機会は無いかと……」


「きにすんな!」


その一言で、この話は終わってしまった。




「羽依は蒼真の部屋に入っちゃ駄目だからね。流石に親として許せないよ。けど、恋人同士になるなら、その時は構わないよ」


美咲さんは、ちょっと悪そうな顔でニヤッとした。


……美咲さん、それって緩すぎない?とも思ってしまう。


でも、今の俺たちの微妙な関係には、下手なルールを作るよりよっぽど効果的なわけで……。


羽依さんは、美咲さんの言葉を聞いた瞬間、ぴくっと反応した。


一瞬、何か言いたそうに口を開きかけて、それでもぐっと飲み込む。


そして、少しだけ眉を寄せて、そっぽを向きながら


「……入らないよ」


と、ぽつりと呟いた。


***


「蒼真、風呂沸いたから先に入っちゃいな」


美咲さんがそう言って風呂に入るよう促してくる。


脱衣所は広めな感じで大きな洗面台がある。二人並んで使うことも出来そうだ。


とりあえず服を脱ぐが、同級生の家で全裸になる不安感はかなりのものだ。


「着替えは…用意してあるね。」


お風呂は流石にアパートよりも全然広い。実家の風呂よりも立派な作りだ。半円形のような形状でジェットバス付きで、大人二人ぐらいがゆったり入れる、ちょっと贅沢な感じだ。きっとお風呂にこだわりがあるんだろうな。


「同級生のお風呂場って…何か緊張しちゃうな…」


ラノベでお約束の展開といえば、風呂絡みのラッキースケベ的なものが発生したりするけど、そんなイベントは発生するはずもなく、普通に頭と体を洗ってさっぱりする。シャンプーとボディーソープは俺が使っているものより、遥かに高級そうだった。


表で「駄目だよお母さん!」「良いじゃないか!背中ぐらい洗ってやらないと!」


とか声が聞こえてくるけど、知らんぷりしておこう……。


体を拭き、着替えてから頭を乾かした。


「お風呂いただきました~一番風呂ですみません。って……なんか二人汗だくになってない?」


なんか、やたらと乱れた二人が転がってる。相当揉めたんだろうな……。


うん、知らない。


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