24話 蒼真
蒼真視点に戻ります。
こんなに泣いたのいつ以来だろう。布団に包まってみっともなく泣いてたら、よりによって羽依さんに見られてしまった。
恥ずかしいけどもうだめだった。優しく抱きしめられたその瞬間、感情爆発しちゃった。
一緒に布団に包まって優しく抱きしめてくれる羽依さんは、同級生とは思えない包容力で、気づけば少し寝てしまっていた。
「あ、起きたね。おはよう。」
明るく羽依さんが声をかけてくれる。
「おはよう羽依さん。結構寝ちゃったかな。」
「うん~3時間ぐらいかな。でも、今は3時ぐらいだよ。」
日はまだ高い状態だった。昨日あまりよく眠れなかったからな。
「その、もう大丈夫だからさ、離れてもらってもいいかな。その…色々当たって…」
「だめだよ。いいの、当たったって。」
そういって更にぎゅっとする羽依さん。うーん本当に困る…
***
「実家に行って、みんなでご飯食べてる時にね、親の離婚話が出てきたんだ」
「……」
「もう無理だと、ずっと思ってたんだけどね。俺が高校入学までは待っててくれてたんだ。子はかすがいって言うもんね。居なくなったらさっさと別れる算段になっちゃってたんだ。なんか今まで頑張ってやってきたことが二人には迷惑だったのかなって思うと、情けなくなって。」
「そーまは情けなくなんか無いよ。ありがとう、話してくれて。」
そういって羽依さんは俺の頭をぎゅっと胸に抱き寄せた。羽依さんの甘い香りに包まれると、心が癒やされていくような気がする。
「そーまはどうしたいの?」
「わかんない。けど、スッキリした部分もあるかな。実家にもやもや残していったのも事実だし。」
「そっか~。私からみても、今のそーまは一生懸命だもんね。輝いてるよ!」
「そんなことないよ」
「だからね、少しだけゆっくりしても良いんじゃないかな。ご実家のことは残念だったけど、無理しないで欲しいな。」
羽依さんは柔らかい笑顔で優しく囁いてくれる。言葉の一つ一つに優しい思いに満ち溢れてる感じがする。
「うん。ごめんね、体調悪いなんて嘘ついちゃって。」
「心の体調が悪いんだから嘘ついてないよ。ただ、お母さんが心配しちゃってね」
「あう、美咲さんに悪い事しちゃったな…」
「うち、お父さん病気で亡くしたって言ったでしょ。きっかけは風邪だったんだよね。信じられないぐらい悪化しちゃって。それからお母さんは私がちょっと具合悪くても、すぐ病院連れていくようになってね。」
少しうつむき加減で話す羽依さん。お父さんの話をするときは、いつも楽しそうだったり辛そうだったりする。きっと今でも存在が大きいんだろうな。
「そんな辛い思いしたなら当然の話しだよね。やっぱり美咲さんに謝らないと。」
「いいからさ、お母さんにはさっき連絡したの。ちょっと遅くなるからって。」
「何からなにまでごめんね…」
「もう、謝らないの。」
散々泣きまくって顔がぐちゃぐちゃなところ、羽依さんが俺の顔をむねにうずめたもんだから、Tシャツがすっかり濡れちゃってる。
「Tシャツ濡れちゃったね。着替えもってくるよ。」
「大丈夫だけど、冷たいから脱ぐね。」
そう言って羽依さんは起き上がり、おもむろにTシャツを脱いだ。
「ちょっ羽依さん!」
羽依さんは俺の手を取り、自分の胸にあてがう。柔らかい感触に心臓が大きく跳ねる。
「たぶんね。武器はこういう時に使うんだよ。男の子にやすらぎを与えられるはず。」
「…柔らかいね。ブラジャーは固いけど。」
「わがままだね、そーまは。」
そう言って、ブラジャーの下に手を潜らせる。温かい感触がダイレクトに伝わってくる。その感触に…脳がショートしそうになる。
「羽依さんちょっ…んぐ…」
口で口をふさがれてしまう。柔らかい感触が濃密に伝わってくる。やがて、舌と舌が絡み合う。
呼吸することを忘れて、キスをしていた。離れた時に少しだけ呼吸が荒くなる。
「…私のファーストキスだよ。そーまのことね。好きなの。これは間違いない私の気持ち。」
「うん。ありがとう、でもちょっと羽依さんの優しさに付け込んでる気もしちゃうね。」
羽依さんはゆっくり首を横に振り、少し覚悟を決めた感じに話し始める。
「私ね、中学の時に男の人達から今と同じように言い寄られること多くてさ。その度に断ってた話は前に言ったね。」
「うん。聞いたね。男の人のこと怖いって」
「今も怖いの。そーまの事も正直言えば怖いの。いつ怖い男の人になっちゃうかって。」
「俺は、そうはならないよ。」
「それは本当にそうだなって思えるの。でも怖い気持ちがどうしても残ってるの。」
「……」
羽依さんの頬が赤く染まり、ためらいがちに言葉を続ける。
「もし、そーまが今のまま仲の良い友だちとして付き合ってくれるのなら、…よかったら私の初めてもらってほしいな……」
そう言って目を伏せてしまう。恥ずかしさと怖さでいっぱいな感じだ。
ただ…
「それっていうのは、恋愛感情は出しちゃ駄目ってことだよね?」
「……やっかいなお願いだよね。ごめん、忘れて。」
伏し目がちになる羽依さんが、とても愛おしい。素肌に触れる手のひらが熱く汗ばんでくる。
「俺もさ、前に言ったかもしれないけど、一人暮らしでイチャイチャする話」
「うん。笑っちゃってごめんね。」
「いや、それはいいんだ。けど、正直その気持も今は解らなくなっている。」
「……え?」
「今の気持ちは羽依さんに近いものがあるんだ。恋愛するのが怖いって。」
「お父さんとお母さんが離婚するから?」
「……うん。あの二人だってきっと、すごい大恋愛の結果、ああいう結末になったと思うとさ、なんか恋愛そのものが…今はちょっと怖い。」
「……そっか」
「今、羽依さん抱いたらとても幸せになれるとおもう。けど、やっぱり感情は恋愛になるとおもうんだ。今はそれが怖い……」
触れた素肌から手を離す。すると羽依さんは俺のことを強く抱きしめてきた。
「そーま。そーま。私はそーまが好き。でも、今はもうちょっと友達でいてもらっても良いかな…」
「俺も、そうしてもらえるとすごく嬉しい。今はこの距離感がとても心地良い。」
「じゃあ、友達として、キスして。」
俺は羽依さんにもう一度、今度は俺からキスをした。
この関係はなんと言えば良いんだろうか。説明のしにくさに我ながら呆れちゃうね。
***
「そーま!明日動物園に行かない?」
「うん、良いよ。行こう!カピバラの赤ちゃん見られるかな~」
「お、そーま知ってるんだね。さては黙ってたらそーまから誘われたかな?」
「うん、誘ってた。」
「あー黙っておけばよかったあ~!」
二人で笑い合う。大丈夫。もういつもの二人だ。
この先も、ずっと仲良くいられるんじゃないか。そんな気がした。
これにて1章終わりとなります。
ちょっとでも面白かったと思っていただけたらとても嬉しいです。
2章からは糖度更に増し増しにする予定です。
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