21話 お買い物(前編)
真桜視点となります。
「真桜~!」
待ち合わせ場所に羽依が到着した。丁度10分前だ。
「早かったね。待っちゃった?」
「いいえ、でも楽しみすぎて、あまり良く眠れなかったわ。」
「んふ。真桜かわいいね!今日は都内をエスコートするよ!俺について来いよ」
急にイケメン風の声を出す羽依に、思わず笑ってしまう。
「じゃあよろしくね。羽依。私、都内はあまり詳しくないから頼もしいわ。」
蒼真との朝の予習をきっかけに、羽依とはすっかり仲良くなった。もう親友と言ってもいいくらいだ。
中学の頃、私に対してみんな一歩引きがちだったから、こんなに自然に友達ができるなんて思いもしなかった。
羽依は確かに距離感を感じさせないフレンドリーさがある。それが彼女にとって災いすることもよく見てきた。
可愛らしい顔立ちに、大きな瞳。きっと男の人が好きそうなプロポーション。優しくて柔らかい雰囲気の彼女は、男からしたら格好の”餌食”なのかしらね。
ほら、早速”不審者”が近づいてきた。
「二人ともちょーかわいいねえ~!ね!ね!一緒に遊びにいかない?俺YouTuberの〇〇と繋がってるんだよ!よかったら…」
「え~。ちょっと困ります…」
「羽依、相手しなくてもいいわよ」
「何だよそっちの子。随分強気じゃねえかよ」
男の態度が豹変する。でも、そんなの私には通用しない。
「それで?私に暴力でも振るうつもり?」
一瞥すると男は怯む。
「ねえねえ、そっちの子…」
諦めたのか、男はすぐに次の"獲物"へとターゲットを変える。
「すご、変わり身早っ!」
「あんなものよ。私たちに時間をかけるより、次に行ったほうが効率がいいでしょう?母数は多ければ多いほどヒット率も上がるんだから。」
「そっか~。真桜かっこいいね!」
「羽依もこれからカッコいいところ見せてくれるのよね。ほら!エスコートよろしく!」
その後、二人で夏物の服をいくつか見て回った。さすがは都内の子、羽依は良いお店をよく知っている。
「やっぱり詳しいわね。効率がいいわ。」
私の言葉に、羽依がくすっと笑う。
「なんか効率とかって、真桜らしいよね~。」
「時間は限られてるわ。少しでも効率良いほうが良い結果を出せるわ。」
「じゃあ、私は真桜のお役に立てたようだね。」
「ええとっても。次は水着だったかしら」
「うんうん、えちえちな水着買っちゃおうよ!」
「買わないわよ、そんなもの。」
「えへっ」
舌をちょこんと出す仕草がずるい。この可愛さは、同性の私ですら惹かれるんだから……もし私が男だったら、大変なことになっていたかも。
***
「この水着どう?」
羽依が試着室から出てきた。
……えちえち具合が予想以上ね。
「その水着で蒼真を悩殺?本当に死んでしまうわよ?」
「ちがっ!そんなつもりはないよ~。」
顔を真赤にしてカーテンを閉める羽依。
なんて可愛らしいのかしら。…ドキドキしちゃうじゃないの。
「おそろの水着買おうか?」
「それは嫌。」
スタイル格差が強調されるじゃないの。
私だって小さい方ではないけれど、羽依のそれはもう"凶器"よ。
「ちぇー。じゃあこれは?真桜に似合いそう。」
羽依が差し出したのは、ブラックのモノキニ×軽いパレオの組み合わせ。
「うん、このぐらいが無難かもね。羽依には、さっきのピンクが似合ってたわ。」
オフショルダー×フリルの水着。柔らかい雰囲気の羽依にぴったりだった。
「うん!私もこれが一番いいと思ってた!」
二人でお会計を済ませ、そのままカフェで休憩。
「今日はめっちゃ買っちゃったね~。結構お金使っちゃった。」
「羽依、お店手伝ってるのよね?バイト代とか出してもらってるの?」
「うん。お母さんがそういうの厳しいの。労働の対価はちゃんともらいなさいって。」
「いいお母さんね。」
「うん、でも怒ると怖いよ。元ヤンだし。」
「それは……怖そうね。」
「でも、私には普通の優しいお母さんだよ。」
そう言いながら、羽依がふと考え込む。
「私も怒るとすごく怖くなるかもよ?がるる~!」
小さく威嚇ポーズを取る。
「ポメラニアンみたいね。」
「ひどい!いや、可愛いからひどくない……?まあいっか!」
本当に小動物みたい。そんな姿を見てると、なんだか和むわね。




