2話 自己紹介(恥
「ではみんな、自己紹介の時間だ。自分の個性をアピールしてくれ。」
担任の 佐々木先生 が楽しそうに言う。
けど、これは 苦痛を伴う儀式 だよな。
(滑ったら地獄だ……)
緊張でうまく話せないやつもいれば、事前に練習してきたのかスラスラと自己紹介をこなすやつもいる。
さすが進学校……やっぱ違うな。
やがて、前の席のやつの出番となる。次は俺だ。
「おーっす! 高峰隼、よろしくな!」
大きな声で元気よく挨拶をする。クラスのリーダー的ポジになりそうなタイプだ。
「よく『チャラそう』って言われるけど、ちゃんとマジメにやるときはやる から安心しろ。……多分な!」
クラスが クスクスと笑う。
ほうほう。元気があって 大変よろしい。
──じゃあ、俺もいっちょカマしてやるか!
「はっ……はじめましぇて……」
──噛んだ。
「……噛んじゃった。」
クラスがどっとウケる。
……いや、狙ってないのに笑われるほど恥ずかしいこと が、この世に存在するだろうか?
その後、もう何を言ったのか覚えていない……。
少しガヤガヤしたが、やがて教室は落ち着く。
隣の女の子は……
ずっと笑ってる。
(笑いすぎじゃね!?)
いや、ちょっと噛んだだけだよ?
……いや、確かにその後も支離滅裂だったけどさ!!
そんな中、窓際の一番前の女子が立ち上がる。
「はじめまして。結城真桜です。」
──凛とした口調で、落ち着いている。
その時点で、俺とはもう格が違う。
「中学では生徒会長をやっていました。高校でも生徒会に入って、みんなの役に立てたらと思っています。」
(ほう……しっかり者で優秀なタイプか。俺とは縁遠いな。)
しかし、彼女は続けた。
「あと、先程の藤崎蒼真くんとは、同じ中学でした。 彼ともども、よろしくお願いします。」
──んあ!?
いきなり俺の名前が出てきて、思わず変な声が出た。
驚いて顔を上げると、
結城真桜は こっちを見て、にっこり微笑んでいた。
──名前、覚えてなくてごめんなさい!!!
生徒会長さん、今ここで初めてしっかり名前を記憶しました!
でも……なんで俺の名前知ってるんだ?
そんなに 中学では目立つ方じゃなかったはず だけど……
(生徒会長だから、生徒全員の顔と名前くらい覚えてるのか……?)
(生徒会長すげぇ……)
そして、件の隣の席の子の番が回ってきた。
「雪代羽依 です。」
ふんわりした声で、柔らかく名乗る。
「よく 『天然』 とかって言われるけど、まったくそんなことはありません。自分では結構しっかりしてると思っています。」
──ほうほう。しっかり者なんだね。
自己評価が高いのは、いいことだよね。
おじさん、1ポイント進呈しよう。
「今朝は校門の 桜の木の枝の本数を、しっかり数えていました。
全部で、2343本です!」
──教室が シン…… となる。
ほうほう。これは……あれだ。
──天然以上のアレだ。
みんなも、どう受け止めたらいいのかわからない様子だ。
しかし雪代さん本人は、しっかり者アピールができたことに満足して、どや顔を決めていた。
──かわいいなあ。
休憩時間になった。
自己紹介のおかげで、クラスの雰囲気が柔らかくなった気がする。
やっぱり、ああいうのって大事なんだな。
前の席の高峰隼が、くるっと振り返る。
「お前、さっきの自己紹介最高だったな! なんだ? 狙ってたのか?」
「狙ってないよ……! 恥ずかしくて死にそうだったんだけど!?」
「あはは! 面白いなお前! どこ中?」
「うーん、この辺じゃないから、多分わからないかも。」
「え? 遠いところから通ってるのか?」
「いや、アパートで一人暮らし だよ。」
「はいたまり場決定~! 今日行っていい?」
「たまり場にはさせないよ!? というか、今日はまだ荷解き終わってないからダメ!」
「えー、残念! でも今度行くからな! 仲良くしようぜ!」
「おう!」
──とりあえず、ボッチ回避は確定したっぽい。
クラスの雰囲気も、今のところ当たりクラスのようだ。
明るくて、みんな楽しそうなのが伝わってくる。
隣の羽依も、女子トークで盛り上がっている様子。
さっきの「天然発言」で、クラス内のポジションが確定したみたいだ。
「だから 天然じゃないよ~!」
抗議の声が聞こえてくるが、どこか楽しげだった。
「藤崎くん。」
突然、俺の名前を呼ぶ落ち着いた声。
振り向くと、そこには結城真桜。
「結城さん、名前覚えてくれてたんだね。中学では、話したことなかったと思うけど。」
「生徒会長は、生徒全員の名前と住所と家族構成を知ってるのよ。」
「生徒会長すげー! ……てか、こわっ!!」
「冗談に決まってるじゃないの。」
── ジト目で睨まれる。
長い黒髪、切れ長な目。
ちょっとキツそうな雰囲気だけど、めちゃくちゃ美人 だ。
……大和撫子な雰囲気の彼女に、こんな風に見られると ドキッ とする。
(……新たな性癖が目覚めちゃいそうなんだけど!?)
「藤崎くんは、私の名前知ってた?」
「もちろん!」
──はい、嘘吐きました。
知らなかったなんて……言えないよ……。
「そっかー。じゃあ、これからもよろしくね。」
彼女は、ほんのり桜色に染まった頬 で、ふっと微笑んで、自分の席へ戻っていった。
(……俺、中学最後の年は勉強漬けすぎて、周りのこと全然見えてなかったな。)
ゲームも、漫画も、大好きなラノベすらも犠牲にして、
俺は 自分の「大いなる夢」のために全力を尽くした。
──そのことは、これから先も 一生誇れる と思う。
あとは、彼女作ってイチャイチャできれば……
── ミッションコンプリート。
エンドロール、流れちゃうね。