15話 思い出
4月も残すところあと数日。
バイトを始めて2週間ほど経った。仕事は毎日ハードだけど、意外と性に合ってるみたいで、すごく楽しい。
今のところ、週4~5日くらいがちょうどいい感じ。無理なく続けられそうだ。
「できるときでいいんだよ。蒼真は見た目よりもガッツあるね!」
美咲さんはいつも俺のことを褒めてくれる。というか、そんなに見た目ダメっぽいのかな……?
「そーまはね、うちのお父さんに似てるんだよ。お父さん、元々体が弱くてね。私が小さい頃に病気で亡くなっちゃったの。」
まかないを食べながら、羽依さんがそんな話をしてくれる。
「これ、お父さんの写真だよ~。」
「へえ……あー……うん。似てる、のかな?」
自分じゃよくわからないや。
「なんていうかね。じっくり見たら、そりゃ違うんだけど……空気感が似てるのよ。」
美咲さんも一緒にまかないを食べながら会話に加わる。
今日のまかないは、俺が作った野菜炒め。仕込みの余った食材で作ったリーズナブルな一品だ。
「お母さんのご飯、いつも肉メインだから、こういうの嬉しい~。」
羽依さんも気に入ってくれたみたい。
「若い頃からしっかり肉を食べないと、お父ちゃんみたいにもやしっ子になっちゃうよ!」
「もう十分だよ!お母さんみたいに胸ばっかり大きくなってきちゃってるし……。」
「それは武器だよ、羽依。蒼真もきっと好きだよね?」
「え、あ、はい。」
いきなり振らないでください、美咲さん! 意識しちゃうじゃないですか!!
「そーまはね、あんまりエッチじゃないんだよ。エッチな本、なかったし。」
「あはは!そんなはずないよ!パソコンの中見たらすごいことになってるって!検索履歴、見てみな!」
「ちょおぉぉぉぉぉおお、やめて美咲さん!!」
「そーま、動揺しすぎ。」
めっちゃジト目で見てくる羽依さん。ああ……俺のピュアなイメージが……。
「若い男なんてね、すごいんだから。」
「何がすごいの?」
「やめましょう? ね? もうこの話終わりにしましょ?」
大体毎日、雪代親子のおつまみにされる俺。
嫌じゃないけど、弄ばれてる感じがちょっと癖になりつつあるのが怖い。
「羽依さんのお父さんの話、もっと聞かせてよ。」
「お父さんはね、私が泣いたりすると、ぎゅって抱きしめて、おでこにちゅってしてくれるの。」
「へえ~、優しそうな人だったんだね。」
「うん。怒ったところ、一度も見たことないよ。」
「私も怒られたのは1回だけだね。」
美咲さんがケラケラ笑いながら言った。
「え、それ何して怒られたの?」
羽依さんも知らないらしい。
「いや~、あはは……! そろそろ開店の準備だね! 今日もよろしくね!」
「すっごい強引にごまかした!」
***
「今日も満員御礼だったね。」
この店、めっちゃ繁盛してるな。
「蒼真が来てくれてからね、回転が良くなったのよ。元々、さばききれなくてお客さん待たせちゃってたから。」
「お母さん、人を使うの嫌いだからさ、バイトとか取らないんだよね。」
「なんかねえ、蒼真みたいに仕事できる子ならいいんだけどさ、ダラダラされたら蹴っ飛ばしちゃいそうでね! 今の時代、パワハラとかうるさいからさ。」
「でも、美咲さん、俺のこと蹴りますよね?」
「愛情表現だよ。愛があれば何だって許されるんだよ。」
「えー!? そーまのこと蹴ってるの!? ダメだよ、お母さん!」
「ははは! あたしが本気で蹴ったら、蒼真なんて死んじゃうよ。じゃれてるだけじゃん、ね?」
「体は痛くないですよ。心は痛いけど。」
「ちょっと、お母さん!」
「蒼真、裏切ったね?」
「ひぃぃ! 蹴らないでください!!」
3人で笑いながら片付けをする、この時間がとても心地良い。
いいバイト先が見つかって、本当によかったなあ。